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第84話 おにいを救う救世主登場

 現れたのは覇緒ちゃんだった。


 真っ黒いビキニに包まれた双乳をゆさゆさ揺らして、こちらへと小走りに駆けて来ていた。


「は、覇緒ちゃん」


 中学三年生とは思えないグラマラスな肉体。

 そんな美貌の少女が現れれば、周囲の視線を釘付けにしてしまうのは当然であった。


「お、おいすげー美人が現れたぞ」

「グラビアアイドルかなにかか……?」


 周囲の男性たちは騒ぎなど忘れて、覇緒ちゃんに見惚れている様子だった。


「な、なんだよお前?」


 突然に現れた謎の美女に戸惑ったのか、国島丈吾は引き気味に問う。


「あ、それよりも」


 と、覇緒ちゃんが俺のほうを向く。


「ど、どうっすかこの水着」

「えっ?」


 頬を赤らめて俺に水着を見せてくる。


「ど、どうって……似合ってると思うけど」


 あとすごくエッチだ。

 しかしそれは言わなくてもいいだろう。


「そ、そうっすか? ちょっとがんばったっす。えへへ。先輩に褒めてもらって嬉しいっす」


 照れたように笑って身体をくねらせる覇緒ちゃん。

 その姿に周囲の男性皆が魅了されているようだった。


「あ、でも覇緒ちゃん、今はちょっと取り込んでてさ」


 覇緒ちゃんは水着になって遊びに来たのかもしれないが、今はそれどころじゃなかった。


「うっす。それは聞いていたのでわかってるっす」

「そうなの? けど姿は見えなかったけど……」


 覇緒ちゃんはすごく目立つし、近くにいれば気付きそうだけど。


「あれで聞いてたんす」

「あれって……」


 手に持っているリモコンで操作すると、白いドローンが空中で旋回する。その下部あたりには長く伸びるなにかが見えた。


「ドローンに取り付けた超高性能集音器であっちこっちの会話を盗み聞いて遊んでたんす」

「趣味悪いね……」


 そうとしか言いようがなかった。


「それで先輩たちがなにやら揉めてたんで、ずっとドローンで見聞きしてたっす。国島さんの悪い噂は知ってたっすからね。きっとなにか悪い企みをしてると思って、ドローンで探ってたっすよ」

「わ、悪い噂って……お前が俺のなにを知ってるってんだよっ!」


 国島丈吾は覇緒ちゃんへと食って掛かる。


 確かになんで覇緒ちゃんがこの男の悪い噂なんかを知っているのか?


 それは俺も不思議に思った。


「ふっふっふっ。国島さん、わたしの顔を見忘れましたか?」

「は? なんだって?」

「会ったことありますよね。わたしの誕生パーティーで」

「た、誕生パーティー? お前の? なにを言って……」

「あなたのお父さん。国島悟社長からは誕生日プレゼントにエメラルドのペンダントをもらいましたね」

「エメラルドのペンダント? 誕生日プレゼントにって……あっ。ま、まさか……」


 国島はやや表情を青くししつつ、覇緒ちゃんの顔をじっと眺める。


「お、お前……いやあなたは……」

「逸見建設の社長、逸見益羅緒の娘、逸見覇緒っす」

「ひゃあああっ!!?」


 名乗った覇緒ちゃんを前に国島は驚くような速さで後ずさって行く。


「ま、まさか逸見社長のお嬢さんだったなんて……」

「パーティーにはあなたも来ていたじゃないっすか。顔を忘れるなんて失礼な人っすねぇ」

「も、申し訳ありません……」


 真っ青な表情で国島は頭を下げる。


 どうやら同じ建設会社でも、逸見建設のほうが力関係は上のようだ。


「まあ別に、パパの力であなたを黙らせようなんて思ってないっす。ただ、先輩のボートを破損させるなんて卑怯な手を使ったあなたを許せなかっただけっす」

「そ、それは辻村が勝手にやったことで俺はなにも……」

「これを聞いてもそんなことが言えるっすか?」


 と、覇緒ちゃんは胸の谷間からレコーダーを取り出す。


「なんでそんなところに……」


 わざわざそこに収納する意味は無さそう。


「一度やってみたかったっす。さあこれを聞くっす」


 そう高らかに声を上げてレコーダーのスイッチを押す。と、


『おい辻村。俺が不利に見えたらあいつのボートに穴を空けろ。いいな?』

『かしこまりました』


 そんな会話が録音されていた。


「こ、これは……その」

「勝負の前に国島さんが執事の人と2人で話していたので、気になってドローンで話を聞いたっす。そうしたらこんな会話が録音できたっすよ」

「うう……」


 これは決定的な証拠だ。

 言い訳はできそうにないが……。


「なんだやっぱりあいつが指示してたのか」

「顔は良いけど、中身は汚いねー」

「さっきの暴力を振るわれたってのも嘘か」


 手の平返しで周囲は国島を非難し始める。

 当の国島はそれを聞いて身体を震わし……。


「くそっ!」


 そして逃げ出して行った。


「じょ、丈吾様、お待ちをっ!」


 それを執事の男が追って行った。


「勝ったっすっ!」

「そ、そうだね。ありがとう覇緒ちゃん」


 張るのに十分すぎる胸を張って、覇緒ちゃんは俺に笑顔を向ける。


 土下座をさせられそうになったが、覇緒ちゃんに助けられた。

 バイトを紹介してくれた件なども含めて、覇緒ちゃんにはいろいろお世話になりっぱなしであった。

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