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第81話 おにいを舐められて怒る義妹

 怒声を放ったのは兎極であった。


「て、てててめえ……なにしてやがるっ?」

「舐めてる」


 と、朱里夏は見せつけるように俺の顔をペロペロと舐めまわす。


「わ、わたしですらおにいの顔を舐めたことなんてないのに……このっ!」


 近づいて来た兎極が拳を振るうと、朱里夏はサッと俺から離れて避ける。


「またお前か。お前うざい」

「こっちのセリフだクソガキ女がっ!」

「お前より年上だぞ。敬え」

「そんな水着着てる奴のなにが年上だっ? いつの水着だよそれっ?」

「急だし、家を探したらこれしかなかった」


 これしかなかったと小学4年生のころの水着を着れるのはこの人くらいじゃないだろうか……。


「なんでてめえがここにいるかはどうでもいい。帰れ。失せろ。そして2度とおにいに近づくな」

「嫌だ」

「殺されて―か? ああ?」

「人殺したことあんの? できもしないことは言わないほうがいい」


 2人が睨み合う。


 このまま放って置けば無人島でやり合ったような戦いがまた始まってしまう。


 止めなければと、俺は2人のあいだへと入る。


「ま、まあまあ落ち着いて。喧嘩したってしょうがないよ」

「おにいっ! じゃあそいつを帰らせてよっ!」

「いや、無理に帰らせなくても……」


 俺に話があってわざわざこんなところまでついて来たのだ。

 帰らせるのも申し訳ない。


「ほら、五貴君もこう言ってる」


 朱里夏に右腕を引かれてギュッと抱かれる。


「五貴君、向こうへ行こう。向こうで良いことしてあげるからさ」

「いや、俺はバイトが……」

「おにいっ!」


 と、今度は兎極が俺の左腕を抱く。


「行っちゃダメだよっ!」

「い、いや行かないけど……」

「行くの」


 そう言って朱里夏が引っ張る。


「ダメだってっ!」


 反対側から兎極が引っ張る。


「行くのーっ!」

「ダメーっ!」

「待って待ってっ!」


 2人が本格的に力を入れる前に俺は慌てて止める。


「2人が思い切り引っ張ったら俺が真っ二つになっちゃうからっ!」

「あ、そ、それもそっか」

「あぶなかった」


 納得して2人は離れる。


 危うく半分にされるところだった……。


「そろそろ休憩が終わるから俺はバイトに戻るよ」

「あ、でもお昼ご飯まだだよ?」

「もう時間無いから、暇を見てバイト中に軽く食べることにするよ」

「そ、そっか……うん。ごめんね」

「いや、俺は大丈夫だから」


 と、俺は2人を交互に見る。


「喧嘩はダメだからな」

「う、うん」

「あい」


 返事はしたものの、本当に大丈夫だろうか?


 少し心配だが、ずっと見張っているわけにもいかないので俺は2人を残して海の家へと戻ろうと歩き出す。


「あっと」


 海の家に近づいたそのとき、男性と肩がぶつかった。


「あ、すいません」

「ああん?」


 謝った俺を、男が睨みつけてくる。


 ホスト風のチャラい感じの男だ。

 隣には遊んでいる風な若い女性を連れていた。


「てめえ誰にぶつかったかわかってんのか?」

「えっ?」

「俺の親父はさぁ、国島建設の社長なの。テレビでCMとか見たことあんだろ?」

「あ、ああまあ」


 深夜番組のCMでそんな会社のCMを見たことあるようなないような……。


「てめえみたいなしょぼい男がぶつかっていい人間じゃねーの。わかる?」

「はあ。それはすいません」

「すいませんじゃねーよ。ムカつくなてめえ。ちょっと殴らせろよ」

「は、はあ?」


 なんで肩がぶつかっただけで殴られなきゃいけないんだ?

 というか、どちらかと言えばぶつかったのは向こうからだろう。


「おらっ!」

「えっ?」


 胸に拳を入れられる。


 別に痛くはないが……。


「きゃー丈吾カッコイイー! 喧嘩つよーい」


 女のほうはなぜか大喜び。


「おらっ! おらぁっ!」


 男のほうはポコポコと俺の身体を叩いている。


 なにしてんだこれ?

 なんか力を入れて殴ってるっぽいけど、まったく効いてないし……。


「はあ……はあ……これくらいで勘弁してやるか」

「そ、そうですか」


 まあこれで気が済むなら別にいいか。


「丈吾つよーい。こいつ棒立ちじゃん」

「へ、へへ、そうだろ? 俺ボクシングやってっからさ」

「すてきー」


 ……もう行っていいのかな?


 と、俺がこの場を離れようとしたとき、


「おにいっ!」


 騒ぎに気付いたらしい兎極と、そのうしろから朱里夏がこちらへ歩いて来る。


「だ、大丈夫? なんか殴られてたみたいだけど?」

「うん」


 痛くもなんともなかったし。


「あいつよくもおにいを……っ」

「いいから」


 痛くもなかったし、さっきので満足ならそれでいい。


 俺は兎極を宥めてその場を離れようとした。

 すると、


「おっ」


 さっきの男がにやけた顔でこちらを振り向き、兎極へと近づいた。

お読みいただきありがとうございます。


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