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第73話 狙われるおにい

「て、てめ……」


 今にも飛び掛かりそうな兎極を横目で見た俺は、慌てて手で制す。


「おにい? けど……」

「とりあえず落ち着いて。ここはお店だからさ」


 ここはあのときの無人島とは違う。

 騒ぎなんて起こせば警察沙汰だ。それに店へ迷惑もかけたくなかった。


「どうしました?」

「あ、いえその……なんでも……」

「デカチン〇君っ!」

「ふぁっ!?」


 パッと表情を明るくした朱里夏がこちらへ来て俺の腹へ抱きつく。


「な、なにをてめえ……っ」


 ハッと察した俺は、怒鳴りそうな兎極の肩を掴む。


「と、兎極っ、冷静に。な?」

「うう……けどっ」


 もう今にも暴れ出しそうだ。

 それを防ぐには……。


「ちょ、ちょっと離れて……くださいっ」

「あたしのデカチン〇君だから嫌だ」

「こ、こんなことしてサボっていたら仕事クビになりますよっ」

「……それは困る」


 と、朱里夏は俺から離れる。


 どうやら仕事をクビになるのは嫌なようだ。


「久我島さんと難波さんは知り合いなんですか? けどデカチン〇って……」

「い、いいやあの。そういうジョークが流行ってるんですよっ! 特に深い意味はないので気にしないでくださいっ!」

「そうなんですか? まあ知り合いなら紹介も必要ありませんね。難波さん、研修をよろしくお願いしますね。私は裏で事務作業をしていますので、なにかあったら声をかけてください」

「あい」


 朱里夏の返事を聞いた店長がバックヤードへ戻って行く。

 そしてレジカウンターには俺たちだけが残された。


「てめえ……なんで生きてやがる?」


 しかしこのまま何事もなく研修が始まるわけはなく、敵意むき出しで兎極は朱里夏を睨んでいた。


「ママの股から出てきたから」

「ふざけんな。縛って埋めてやったのに、どうやって無人島から戻って来やがったのか聞いてんだよ」

「お前を殺すために地獄の底から戻って来た」

「ああ?」

「冗談。縛ってる縄を引き千切って穴から出て、ボート漕いで帰って来た」


 ……特に捻りも無い。

 力技だけで帰って来ていた。


「じゃあ、あのクソ女も帰って来てるのか?」

「クソ女? ああ、天菜のこと? 一応、妹分だし一緒に連れ帰ってやったよ」

「余計なことしやがって」


 戻って来たならばまたなにかして来るだろう。

 兎極も同じことを思ったのか、うんざりしたような表情だった。


「てかなんでバイトなんかしてやがる?」

「北極会のせいでうちお金ないの」

「それで真面目に働く柄かてめえ? なにか魂胆があるんじゃねーのか?」

「特になにも。セコイ犯罪やらかして警察沙汰になるのが面倒なだけ」


 ……意外に真面目なのか? いや、平気で人を殺そうとしてるし、真面目なわけはないか。


「それに、セコイ犯罪で捕まってデカチン〇君に会えなくなるのは嫌だし」


 じーっと下半身を見つめられて寒気がする。


 別の意味で危険を感じた。


「……おにい、このバイトはやめよう。こんな奴と一緒にやるのはあぶないし」

「い、いやでも、そういうわけにはいかないだろう。従業員が少なくて困ってるみたいだし、やめるにしたって今すぐってのはお店に迷惑だよ」

「そ、それはそうかもだけど……」


 ほんの少し前に命の取り合いをした間柄だ。

 一緒に働くのを嫌がる気持ちは俺も一緒だった。しかし、だからと言ってすぐにやめてしまうのは雇ってくれた店長に申し訳ない。


「デカチン〇君は残って、お前だけやめろ」

「ああっ?」

「ま、まあまあ」


 この2人が仲良くやるってのは難しそうだが……。


「やっぱやめようよおにいっ。こいつ北極会を潰そうとしてるヤバい奴だしさっ。おにいとわたしになにしてくるかわかんないよっ」

「それはそうだけど……」

「とりあえず北極会はどうでもいいかな」


 そう言った朱里夏を兎極が睨みつける。


「あれだけやってどうでもいいだと? 信じられるかそんなの」

「だって、あんなすごいの見せられちゃったし……」

「あ……」


 兎極の喧嘩を見て、これは勝てないと諦めたってことか。


「あんなすごいデカチン〇見せられたらもうそのことしか考えられなくなる」

「……」


 この人は怖い。

 兎極とほぼ互角の喧嘩をした強さもだが、それ以外の恐怖も俺は感じていた。


「その、難波さん」

「朱里夏って呼んでいいよ。デカチン〇君」

「俺のほうも名前でお願いします……」

「わかった。デカ島チン貴君」

「久我島五貴です……。それよりも、えっと……朱里夏さん。研修のほうはちゃんとやってくれんですよね? 喧嘩とかしませんよね?」

「喧嘩したらクビになる。だからやらない」

「そ、そうですか」


 喧嘩してクビは困るようなので、とりあえず危険は無さそうと一安心。


 しかしこの人が接客なんかできているのだろうか?

 真面目に客の相手をする姿が想像できなかった。

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