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第71話 地獄の合宿をやり遂げたおにい

 ……それから2週間ほど経って強化合宿を終える。


 朱里夏に殺されたと思われた男たちは洞窟でげっそりした状態になっているのが見つかり、水や食事を与えて休ませたら回復した。


 合宿では重りを持って走らされたり泳がされたり、崖を登らされたりしたがなんとか俺はやり遂げ、合宿を終えることができた。


「ようやく帰れるのか……」


 しんどくて死にそうだったが俺はやり遂げた。

 身体も心もずいぶん鍛え上がったような気がするし、結局、最後までやり遂げたのは俺だけだったのでその点でも自信が持てた。


「うん。けどまさか最後までやり遂げられるなんて思ってなかったよ」

「ははは、それは俺もだよ」


 何度もくじけそうになった。

 けれどその度に自分を奮い立たせることができたのは兎極のおかげだ。


「俺も最後までやり遂げられるなんて思ってなかった。だけどここでくじけたら兎極を守れる男にはなれないって自分を奮い立たせてさ。もう少しがんばろうもう少しがんばろうって続けてたら、いつの間にか最後までやり遂げていたって感じで」

「おにい……」


 兎極の手が俺の手を握る。


「そんな風に言ってくれるのすごく嬉しい。おにい……大好きだよ」


 潤んだ瞳で見上げられてドキリとする。


 まだ俺は兎極に相応しい立派な男にはなれていない。

 けど、やはり俺の想いもちゃんと伝えておきたかった。


「お、俺も兎極のことが……」

「すいませんお2人さん」


 と、そこへ沼倉さんがやってくる。


「そろそろ出発なんでクルーザーのほうへ」

「もうっ! いいとこだったのにっ!」


 兎極は頬を膨らませて沼倉さんを睨む。


「すいません。お2人のことはしっかり見張って間違いを起こさせないようにと、おやっさんから言われているものでして」

「パパが? もうっ! パパ嫌いっ!」

「そ、そんなことを言ったらおやっさん凹んで家から出なくなっちゃいますよ」

「知らないしっ!」


 プンプンと兎極は怒る。


 しかしやっぱり想いを伝えるのは早いような気がする。

 もっと強い男になって、そのときこそ……。


「しかしさすがですね五貴さん。この合宿をやり遂げるなんてあなたは立派な男ですよ。学校を卒業したらぜひうちの組へ入ってくださいね」

「えっ? い、いやそれは……」


 父親が警官なのに、息子の進路がヤクザの事務所だなんて冗談でも笑えない。


「ははっ、強制はしませんよ。けど考えておいてください。うちの組に入ったらさらに男を磨いてあげますからね」

「は、はあ」


 男が磨かれて立派になるのはいいが、やっぱりヤクザはまずいと思った。


「では帰りましょうか」

「はい」


 俺たちはクルーザーへと向かう。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」


 そこに声がかけられる。

 振り返ると、砂浜から首だけ出した天菜が俺たちを睨んでいた。その隣には朱里夏が同じように埋まっており、グーグーとイビキをかいて眠っている。


「わたしたちをここから出しなさいよっ!」

「はあ?」


 それを聞いた兎極が天菜の頭を踏みつける。


「なんであたしを殺しにきた奴を出してやらなきゃいけないの?」

「だ、だって、こんな状態であんたら帰ったら、あたしらなにも食べられなくて死んじゃうじゃないのっ!」

「男連中の性欲処理させる代わりにエサを与えて今まで生かしてやってただけありがたく思えよ。あとは知らねえ。自力でそっから出るか。そのまま死ねよ」

「はあっ!? 死ねだってっ!? この人殺しがっ!」

「どの口で言ってんだよてめえ、はっ!」

「んがっ!?」


 兎極は天菜の頭をゲシゲシと踏むように蹴った。


 まあ自業自得だ。

 このままだとたぶん死ぬだろうけど、それはもうしかたないだろう。


「ったく……しかしこっちのガキ女」


 兎極の目が天菜の隣に埋められている朱里夏を見下ろす。


 この女は危険だと兎極が言い、倒したあとすぐに拘束して拳銃を持った男たち数人で厳重に監視を続けた。しかし特に逃げ出そうとする素振りも無くおとなしくしており、今はこうして天菜と同じく身体を縛られて静かに埋まっている。

 身体を縛られていた上、こちらには銃があるというのもあるだろう。しかしあれだけ暴れたのにここまでおとなしくなるのは不気味だった。


「おいてめえ」


 寝ている朱里夏の頭を兎極が蹴飛ばす。


「んあ?」


 薄っすらと目を開いて目覚めた朱里夏が兎極を見上げる。


「てめえずいぶんとおとなしかったな? なに考えてやがるんだ?」

「デカチン〇」

「ふざけるな」

「今のあたしはそれしか考えていない」


 そう言って朱里夏は俺をじっと見た。

 ……正確には俺の股間部分をだが。


「デカチン〇君はあたしが絶対にもらう。絶対に諦めない」

「てめえ……今すぐに殺してやろうか?」


 ガンと兎極はふたたび朱里夏の頭を蹴り飛ばす。

 そうされても、朱里夏は不気味に笑って俺の股間を凝視し続けていた。

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