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第70話 怪物と戦う義妹(獅子真兎極視点)

 女が砂浜を転がる。


 そこへクルーザーにいた男たちも集まって来た。


「な、なんだこのガキ?」

「なんでこんなところにガキが……?」


 男たちの足元で仰向けに倒れるガキ女。

 これで終わりかと思いきや……。


「むっ……」


 むくりと起き上がる。


 ダメージなど無い。

 そんな平気な様子で立ち上がった。


「あー……痒いね」

「なんだと?」


 ガキ女はわたしに殴られた頬をポリポリと掻く。


 手ごたえはあった。

 しかしガキ女は痛そうな顔などしておらず、むしろ笑っていた。


「けど、殴られて痒いなんて思ったのは初めてだ。お前、強いな」

「あたしに殴られて痒いとか化け物かよ……」


 こいつもミハイルのようにドーピングで強くなっているのか?

 ……いや、あいつのように身体が変化している様子は無いし、これで素の強さなんだと思う。


「お前あのデカチン〇君のなんなんだ?」

「あ? 恋人だよ」


 正確には恋人になる予定だが。


「だったらお前の恋人はあたしがもらう。あのデカチン〇君はあたしが探していた運命の男だ」

「運命の男? 白馬の王子様に憧れるようなガラには見えねーな」

「王子様には興味無い。あるのはどちらかと言えば馬のほう。馬のほうがチン〇でかいしね」

「てめえ男にそれしか求めてねーのか?」

「女らしいじゃん?」

「そういう下半身でしか相手を選ばねー奴は雌ってんだよ」

「なんでもいいけど」


 と、ガキ女があたしのほうへと歩いて来る。


 警戒などなにもしていない。

 ただ普通に歩いていた。


「彼はあたしがもらう。邪魔をするなら殺す」

「やってみろ淫売女がっ!」


 不用意に近づいて来た女の鼻っ柱を思い切り殴る。


「へへへ。こんなものか?」

「くっ……このっ」


 しかしガキ女は少し仰け反っただけでニヤニヤ笑っていた。


「こんな程度じゃあたしに勝てない」

「ぬおっと」


 横薙ぎに振られた拳を仰け反ってかわす。


 身体は異常に頑丈だが、攻撃のほうは避けられないというほどでもない。

 しかしやはり頑丈さがネックだ。ただ殴るだけじゃ倒れるような気がしない。


「避けるな。面倒くさい」


 そう言いながらガキ女はブンブンと拳を振って襲い掛かってくる。


 下がりながら避けているうちに、やがてわたしは大きな岩の前までへと追い詰められる。


「これで終わりだ」


 顔面へ向かって一直線に伸びてきた拳をわたしは首を傾けて避ける。と、


 ピシ……。


 背後の岩に亀裂が入る。そしてガラガラと音を立てて崩れた。


「あ、あのガキ、岩を殴って破壊しやがったぞっ!」

「なんだあれ怪物かよっ!」

「てかお嬢もすげぇっ! 化け物同士の対決だぜこれっ!」


 振りはそれほど早くないが、恐ろしく重い拳だ。

 こんなのを食らえばただじゃ済まない。


「避けるなって」

「そんなわけにいくかよっ!」


 わたしは砕けた岩の欠片を掴み、それをガキ女の顔面に叩きつける。


「ぐっ……」


 さすがに効いたのか、ガキ女は額から血を流してフラつく。


「い、痛い……。これくらいの痛みはトラックにはねられて以来だな」

「化け物めっ」


 岩の欠片は粉々になってわたしの手から落ちていく。

 チャンスと見たわたしは、フラついている女の顔面に拳の連打を浴びせていく。


「ぐ、うう……」


 正確に眉間だけを何度も殴りつけていると、それが効いたのかガキ女は呻いて砂浜へ膝をつく。


「はっ、いくら頑丈でも、同じところを何度も殴ればさすがに効くか」

「くそっ……このっ!」


 女が懐から拳銃を取り出す。

 それを見た瞬間、わたしは咄嗟に動いてその銃を上空へと蹴り上げた。


「あ……」

「よそ見してんじゃねーっ!」


 跳躍したわたしは蹴り上げた銃を掴む。そして……。


「がっはっ!?」


 銃のグリップ部分を落下の勢いとともにガキ女の眉間へと叩きつける。


 ガキ女は上を向いたまま白目を剥き、そのまま仰向けに倒れた。

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