第62話 怪物が求める伝説の◯◯◯(工藤天菜視点)
わたしは朱里夏と由香里を連れて竜青団の溜まり場である廃工場へとやって来る。
先日の件でメンバーの大半は警察に連れて行かれたが、何人かはわたしみたいに不起訴ですぐに戻って来たらしい。ヤクザやマフィアと関わるのにビビって、そもそも例の現場にいなかったのもいるらしいが。
「牙斗、いる?」
「うん? なんだ天菜か」
仲間数人に囲まれて座っている牙斗がこちらを向く。
牙斗は半グレのリーダーなんかやっているクズだが、親は国会議員をやっているらしい。そのおかげで釈放が早かったとか。
「なんの用だ? またヤラしてくれんのか? へっへっへ」
「無理やりヤったんでしょ。てか、その話またしたら殺すから」
わたしがそう言って睨むと、牙斗は嫌味に笑いつつ両手を上げた。
「けどあんたたちの性欲を解消してくれるって人がいるんだけど」
「なんだ女を連れて来てくれたのか? そいつはありが……げげっ!!?」
うしろから前へと出て行った朱里夏を見た瞬間、牙斗が悲鳴のような声を上げる。
「しゅ、しゅしゅ朱里夏っ!!」
「あー、天菜の知ってる男って牙斗のことだったんだ」
「知り合いなんですか?」
「中学の同級生」
「へえ」
朱里夏と牙斗は同い年なので、特に不思議はなかった。
「て、てめえ出て来やがったのかっ!」
「悪いの?」
「いや、そういうわけじゃねーけど……」
「牙斗でもいいよ。あたし出て来たばっかでかなりムラついてるからさ。溜まってんの。あれやらせてよ」
「あ、あれって……あれか。いやその……」
「なに? 嫌なの?」
「きょ、今日は調子が悪くてよぉ。こんな腕だし……」
牙斗は五貴に折り曲げられた腕がまだ完全には治っていないらしく、包帯で首から吊られた状態になっていた。
「関係無い。やらせろ」
「か、勘弁してくれよ……」
牙斗は青い顔をして拒否している。
イケメンである幸隆の姉だからというか、朱里夏も顔立ちは整っており美人だ。子供みたいな体形ではあるが、外見は悪くない。
腕は治ってなくても下半身は元気だろうし、性欲を解消してくれるというのを牙斗が断る理由など無いと思うのだが。
「じゃあ他の奴でもいい」
と、朱里夏は牙斗の周りにいる男たちを見回す。
「じゃあお前」
「えっ?」
その中で一番に身体がでかい筋肉質な男を朱里夏は指差す。
「俺……ですか? けどあれってなんですか? ヤるのは構わないですけど……」
「まあ痛いことはねーよ。てかこいつの相手はやめといたほうがいいぜ」
「そうなんすか? まあ俺もこんな幼児体形の女は……」
「パンツを脱いでそこに倒れろ」
「こ、ここですか?」
側にあるマットレスに男パンツを脱いで仰向けに倒れる。と、朱里夏は男の股間部分に足を置いた。
「ほれ」
「ふおおっ!?」
朱里夏が男の股間部分を足で踏みつける。
その行為に男が感嘆の声を上げた。
……あんな行為のなにが楽しいのか?
朱里夏は恍惚とした表情で男のアレを踏んでいた。
しかしこれだけなら牙斗が拒否するのも妙に思う。
……それから30分ほど経ち。
「も、もう勘弁してください―っ!」
「まだ出るだろ。ほら」
「うおおんっ!?」
まだ男のアレを踏んでいる。
男のほうは始まる前よりげっそりしており、なんだか老人のような顔つきになっていた。
「だから俺は嫌だったんだ」
牙斗はゾッとしたような表情でそう言う。
「はわ……はわわ……」
そしていつの間にか男は白目を剥いて気を失っていた。
「次」
朱里夏が別の男の腕を掴む。
「いやちょっ! か、勘弁してくださいっ!」
「黙れ」
男は朱里夏に掴まれて無理やりにマットへ倒される。
……そしてしばらく経つとまた搾りカスのような状態で白目を剥いた。
「次」
「ひーっ!」
次から次へと男たちはマットへ倒され、搾りカスへと変貌させられていく。やがて牙斗以外の男全員が搾りカスになると、ようやく朱里夏は満足気な表情となった。
「ふー……まあまあ満足」
「そ、そうですか」
30人の男を搾りカスみたいな状態にしてまあまあとは……。
しかし自分は気持ち良くないだろうし、なにが楽しいのかわたしにはわからない。
「朱里夏さん相変わらずですね。年少ではこれがやれなくて辛かったんじゃないすか?」
「うん。ほぼ1日中、拘束具を着せられて自由がなかったから溜まりまくってた」
女子少年院で拘束具を着せられているってどんな扱い受けてんだよ……。
まあしかし、自由にさせて置けば壁を破壊して出て行きそうではあるが。
「そこそこ満足はできたけど、なんか粗チンばっかでつまんない」
そう言われた男たちはぐったりと覇気の無い表情で落ち込んでいた。
「もっとでかいの持ってる奴いないの? でかいの踏みたい」
「そんなこと俺に聞かれてもなぁ……。うちは今こいつらで全員だよ」
「牙斗のも小さいしね」
「小さくねーよっ! お前の要求がでか過ぎんだよっ!」
知っていたくもないことだが、実際、牙斗のは普通だ。むしろ普通より大きめなんじゃないかと思う。
「あんたら知らない? 伝説のデカチン〇」
「で、伝説って……」
「探してるんだ。こんくらいデカいの持った男」
と、朱里夏は肘から手首までを指でなぞる。
「そんな馬みたいなモノ持ってる奴なんて知らないですよ」
「じゃあ見つけたら教えて」
「はあ」
男のモノを見る機会なんてそうそうねーっての。
それよりもこの化け物をどう獅子真とぶつけるかだ。
こいつなら絶対に獅子真を殺してくれる。
なにかうまい方法はないか?
わたしはそればかりを考えていた。
そして考えつつ、わたしは左頬に残った消えることの無い傷に触れる。
綺麗なわたしの顔につけられたこの傷。
この傷を鏡で見るたびにわたしはあの女への憎悪を思い出すことができた。
傷をつけられたときは憎悪で溢れ返ったが、今となってはいいもらいものをしたと感謝している。
この傷がある限りわたしはあの女への恨みを忘れない。
いつかあの女を殺したとき、わたしはこの傷を見るたびに笑えるようになるだろう。その日を1日でも早く迎えるため、この化け物を必ず獅子真にぶつけてやろうと強く思った。




