第48話 ヴォルフに劣等感を感じるおにい
「わーヴォルフ君、すごーいっ!」
午後の授業である体育が始まり、今日は男女ともにバスケットをしている。女子は自分たちの授業も忘れ、華麗なプレイを見せるヴォルフへ黄色い声を上げていた。
「うあっ?」
「ヴォルフ君がまたボール取ったーっ! きゃーっ!」
ボールを取ったヴォルフはそのままドリブルでゴールまで行き、
ガシャン!
飛び上がってダンクを決めた。
「きゃあああっ! 格好良いーっ!!」
「うおおおマジかっ!」
「ダンクしたぞすげーっ!」
背が高いのに加え、素晴らしい運動力から繰り出される跳躍によって軽々とした感じでボールがゴールへ叩き込まれた。
「はははっ! お前すげーなっ!」
「た、たまたま、です」
「たまたまでダンク入らねーだろっ! マジすげーっ! バスケ部入れよっ!」
「おいおいこの運動能力はバレー部だろっ! バレー部入れよっ!」
「いやサッカーっ!」
「野球っ!」
「卓球っ!」
「いや、あの……その」
運動部から引っ張りダコで誘われるヴォルフ。
ヴォルフはイケメンで運動もできる。向こうの学校でも優秀な生徒だったらしく頭も良く、性格も気さくで明るい感じだ。
対して俺は野球が得意なくらいで他はすべて普通。どう考えても兎極とつり合うのは彼だった。
「ほらプレイ再開だぞ。久我島、ぼーっとするな。ボール」
「あ、はい」
教師からボールを渡され、俺はドリブルをしてゴールへ向かう。
「あ」
その行く手をヴォルフが阻む。
「さあ五貴、どこからでも」
「うん」
俺は無難なドリブルをして抜こうとする。が、
「あっ」
あっさり取られてボールはヴォルフの手に。
そのままヴォルフは反対側のゴールへ向かってふたたびダンクを決めた。
「きゃーっ! ヴォルフ君すごーいっ!」
「プロみたーいっ!」
「久我島君、野球はうまいけどバスケはぜんぜんだねー」
「やっぱ顔だよー。スポーツできてイケメンのヴォルフ君の勝ちー」
女子の歓声がすごい。
野球の件で一時期は人気だったらしい俺も、すっかり引き立て役になってしまってため息を吐く。
しかし俺なんてこんなものだ。格好良さなどまるでない。兎極もこんな俺を見て愛想を尽かせてしまったんじゃ……。
と、俺は女子の中に兎極を探すが……。
あれ? いない?
どこに行っただろう? トイレにでも……。
「おにい」
「わあっ!?」
不意に声をかけられて振り返ると、そこには俺を見上げる兎極がいた。
「な、なんでお前ここに?」
「おにいの側に来たくなっちゃったの」
「はえ? だ、だってお前、授業中……」
「みんな授業やらないで男子の試合見てるし」
「そ、そう……」
確かに女子は自分たちの授業そっちのけで男子の授業……いやヴォルフを見ていた。
「と、兎極もその……格好良いと思うか?」
「うん」
ああやっぱり。それはそうだ。女子なら誰だってヴォルフのことを……。
「おにいは格好良いよ」
「は? い、いや俺じゃなくてヴォルフのこと……」
「スミノロフ君のこと? なんかしてたの?」
「えっ? いや、ダンクしてたけど」
「そうなんだ。わたしずっとおにいしか見てなかったから気付かなかったよ」
ずっと俺を? けど俺なんてほとんど立ってただけなんだが……。
「俺なんか見ても楽しくないだろ? あんまり動いてないし」
「大好きな人なら動いてても止まってても格好良いの」
兎極の手が俺の手をギュッと掴む。
その手は柔らかく、つい握り返して……いや。
「俺なんて格好良くないよ。ヴォルフにくらべたらぜんぜん……」
「なに言ってるの? わたしは……」
「コラ女子ーっ! ちゃんと授業受けろーっ!」
授業そっちのけな女子にいよいよ教師が怒声を上げる。
「あ、授業再開するみたい。またあとでね」
「うん……」
兎極が女子の中へ戻って行き、俺も授業に集中することにした。
……それから体育の授業が終わり、6時間目も終わって下校となる。
「おにい、帰ろ」
「あ、うん」
兎極に声をかけられ、鞄を持って立ち上がる。
「あ、僕も、一緒、帰っていいですか?」
「うんいいよ。ね、おにい?」
「うん」
彼には協力すると言ったし、適当な理由を作って2人きりにしたほうがいいだろうかと、そんなことを考える俺の手を兎極が引く。
「どうしたの? 早く帰ろ?」
「う、うん」
そのまま校舎の外まで一緒に歩いて行く。と、
「あっ」
校門のほうを見て兎極が声を上げる。
見ると、校門の前に銀髪の大柄な男が立っていた。




