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第46話 美しい義妹との差を感じて悩む

 やがてやってきたのは巨大なテーマパークだ。

 ここはたぶん日本一有名なテーマパークで、入場料もすごく高い。


「じゃあはい。これチケットね」


 と、2枚のチケットを渡される。


「えっ? これって……俺と兎極の分だけ?」

「そう」

「母さんは行かないの?」

「うん。デートなんだって」

「デ、デート……。けどこんな高いチケットいいの?」

「あんたはあたしの息子なんだからお金のことは気にしないで行ってらっしゃい」

「う、うん」

「じゃあおにい、行こ」

「あっ」


 兎極に引かれて車を出て、入場口へと向かった。


 日曜日なので人は大勢だ。大半は家族連れで、他はカップルと思わしき男女の2人組が多いように感じた。


「と、兎極、くっつき過ぎだよ」


 これでもかと言うほど兎極は俺の腕にしがみついて歩いている。大きな胸は腕を挟み込み、俺の頭は冷静ではいられなくなっていた。


「デートならこれくらい普通だからいいの」

「デートって……俺たちは恋人同士とかそういうのじゃないだろ?」

「まだ正式にはね」

「せ、正式にはって……」


 なら今はどういう関係なんだ? 友達? 兄妹? なんだか頭がぼーっとして考えがまとまらない。


「あ、じゃ、じゃあまずなに乗ろうか?」

「なんでもいいよ。わたしおにいと一緒なだけで楽しいから」

「そ、そっか。じゃああれでいいか」


 とりあえず俺はあんまり人が並んでいない船のアトラクションを選んだ。


 ……それからテーマパークを堪能した俺たちは外へ出て母さんと合流し、食事へ行ったり繁華街へショッピングへ行ったりした。


 いろいろな場所を回っているうちにやがて夜となり、俺と兎極は2人で夜景が綺麗に見える海辺の公園へと来ていた。


「綺麗な景色だねー」

「そうだな」

「そこはお前のほうが綺麗だよって言ってくれなきゃ」

「そ、そんなクサいセリフ言えないよ」


 けど実際に兎極のほうが綺麗だ。

 ここからは輝く大きな橋やビルの明かりが見えて眩いまでに景色は綺麗だが、隣に立っている兎極のほうが何倍も美しかった。


「でもわたしのほうが綺麗って思ってくれてる?」

「それは……うん」

「嬉しいっ!」

「お、おおう……っ」


 今日何度目かわからない兎極の抱きつきに俺の身体は熱くなる。


「と、兎極、今日はどうして……こんないろんな場所へ連れて行ってくれたんだ?」


 連れて来てくれたのは母さんだが、きっと兎極が頼んだろうことはわかっていた。


「今日がおにいの誕生日だから」

「あ……」


 そういえばそうだった。


 すっかり忘れていた。


「やっぱり忘れてたんだ。そうだよねー。毎年わたしがおめでとうの電話するまでおにい自分の誕生日忘れてるもんねー」

「う、うん」


 天菜はあんなだったし、父さんも仕事が忙しい。なので祝ってくれる人が兎極しかおらず、電話をもらうまで毎年忘れているのだ。


「誕生日だったから……そうか。ありがとうな」

「うん。けどわたしも楽しんじゃった」

「はは、兎極も楽しんでくれたら俺も嬉しいよ」

「えへへ、あ、じゃあこれ誕生日プレゼントね」

「えっ?」


 兎極が手提げのバッグから取り出した箱を受け取る。


「ありが……うおっ!?」


 重……。


 箱の大きさに対して妙に重い。


「な、なにこれ?」

「うふふ、開けてみて」

「うん……」


 包装を解いて開けてみる。と、


「こ、これは……」


 金色で極太のなにか……。


 ズッシリと重い円柱型のそれを持ち上げてみるも、これがなんなんのかわからなかった。


「あ、これ……もしかして」


 先っぽに蓋があり、それをはずしてみる。と、


「い、印鑑?」


 蓋の中には複雑な書体で久我島とあった。


「えへへ、いいでしょ? その印鑑?」

「う、うん。けどなんで印鑑?」


 しかも極太で金色のやたら豪華な仕様の……。


「どうせあげるなら実用的なものがいいと思って」

「まあ実用的ではあるね」

「あと婚姻届けに押す印鑑も必要だから」

「確かに婚姻届けには印鑑が……えっ?」


 と、兎極はバッグから紙を1枚取り出す。


「これ婚姻届け。印鑑だけ押しといてくれば、あとはわたしが書いて結婚できる年齢になったら出しとくから」

「え、ええ……」


 冗談にしては手が込み過ぎだ。

 まさか兎極は本当に俺のことを……。


 けど……。


 また裏切られるんじゃないか?


 そんな考えが頭を過ぎる。


 兎極が天菜と違うのはわかっている。けど俺と兎極ではまったくつり合わない。俺の容姿はどこにでもいる普通の男で、兎極は誰もが目を引く美人だ。天菜のときみたいにイケメンが現れて取られてしまうのではないか?


 それを考えると……。


「おーなんだこんなところにかわいい子がいるじゃーん。俺らと付き合えよー」


 やっぱり俺なんか……。


「嫌だ? ちょっとくらいいいじゃねーか……って、うおっ? なんだこの女すげー力……っ」


 けど兎極に対する想いは……。


「すいませんごめんなさいっ! 痛い痛いっ!! 助け……ぐぼぁあっ!」


 俺は兎極のことを……。


「うん?」


 考え事をしていて、ハッと気づけばガラの悪そうな男らが周囲に倒れていた。


「えっ? なにこの人たち?」

「ナンパしてきたから少し叩いてやったの」

「少し?」


 ボッコボコに見えるが……。


「五貴ー兎極ー。もう遅いから帰るよー」

「あ、はーい。じゃあ行こうかおにい」

「うん」


 考えても結局なんの答えも出なかった。


 しかし兎極に俺は相応しくない。

 それだけは明確にわかっていることだった。

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