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第36話 戦国777のさらなる必勝策(戦国777視点)

 ―――戦国777視点―――


 ゲーム台の前に座っているあたしは時計を確認する。


 ……タイムリミットまであと1分。

 終わり方はスッキリしないが、これで無敗記録は守られる。


 一安心。そんな心地でいたが……。


「遅れて申し訳ないっスっ!」


 そんな声を上げてハオハオという小娘が会場へ飛び込んで来る。


「えっ? なんで……? ちっ」


 わたしは舌打ちをしながらスタッフを睨みつける。


 しくじったか。使えない連中。けど、万が一にこうなったときの対策もスタッフどもに吹き込んである。


「え、えーハオハオさんいらっしゃいましたが、すでに10分を過ぎておりますので、今回は戦国777さんの不戦勝ということにさせていただきます」

「そ、そんな……」


 残念そうな表情を見せるハオハオとかいう小娘。


 正確にはまだ数十秒ほどあるだろう。

 しかしそれくらいなら誤差として無視しても……。


「少しくらいいいじゃないかっ!」


 そのとき観客の誰かが叫ぶ。


「そうだ! と言うか、ギリギリ間に合ってるだろ!」

「決勝戦やれよっ!」


 観客たちが騒ぎ出し、スタッフたちが慌てふためく。


「み、皆さんは落ち着いてください。しょ、少々お待ちを……」


 と、スタッフたちが集まって話し合いを始める。


 しかし決勝戦をやらなければ観客は治まらないだろう。観客に不満を持たせたまま終わらせるのも自分の印象が悪い。

 とはいえ、あの小娘と普通に決勝戦をやるのも危険だ。


「ちょっと」


 妙案を思いついたあたしはスタッフのひとりを呼びつけて耳打ちする。


「えっ? あ、わ、わかりました」


 スタッフが離れ、話し合いの場へ戻る。


 これでいい。これならば負けは無い。


 と、そこであたしは立ち上がって観客のほうを向く。


「わたしは皆さんのご期待に応えて、彼女との対戦を望みます」

「おおっ!」


 その言葉に会場内が湧く。


「さすがは女王様だっ!」

「素敵ーっ!」


 あたしの言葉に観客は大喜びだ。

 もはややるしかない。ならばイメージを良くしておいたほうがいいだろう。


「で、では特別に決勝戦を行うということで……」


 しかし普通には対戦しない。

 あたしが勝てるように対戦はやらせてもらう。


「えっと、ハオハオさんは決勝戦開始時刻に遅れたことにより、ペナルティをつけさせていただきます」

「えっ? ペナルティっスか?」


 そうペナルティ。

 あたしが絶対に勝てるよう、足枷をつけさせてもらう。


「そのペナルティとは、体力半分、及びここまでハオハオさんが使ってきた得意キャラの使用を禁止するというものです」

「えーっ!?」


 小娘もだが、観客たちも声を上げる。


 体力半分で得意キャラの使用禁止。

 これだけペナルティがあればあの子の勝ちは無いだろう。


「ペナルティ厳し過ぎね?」

「体力半分に不得意キャラで女王様に勝てるはずないじゃん」

「けど不戦敗になるよりはマシか」


 ペナルティに不満の声があるも、観客たちは納得した様子だった。


「よろしいですかハオハオさん?」

「わ、わかりました」


 納得してハオハオはゲーム台の前に座る。


 こちらは最大限にまで強くした激強のCPUだ。この女がいくらうまくたって、それに勝てるはずはない。


「それでは決勝戦を始めます」


 そして進行役の声で決勝戦が始まった……。


 プレイする振りをしているあいだにCPUが瞬殺して終わり。

 勝ったときに言うもセリフも考えてきてあるので、対戦が終わったらそれをしゃべってるだけ。……そんな余裕の心持ちだったのだが。


「……う、うそ」


 あっという間に2戦が終わる。勝ったのは……。


「ハ、ハオハオさんだーっ! 勝ったのはハオハオさんですっ!」


 激強なはずのCPUが、体力の差など関係無く一撃も相手にダメージを入れられずに手も足も出せずに瞬殺された。


 こんなことありえない。


 あたしはゲーム台の前で呆然自失であった。


「うおおっ! 勝ったっスーっ!」

「お、おめでとうございます……」


 進行役が引き気味に祝福の言葉を送る。


「体力半分で女王様に勝つとかマジかよ……」

「ダメージを入ってないから体力とか関係ないじゃん。すげー」

「あれ不得意キャラなんか本当に……」


 会場は大盛り上がり。


 盛り下がっているのはあたしとスタッフ一同だけであった。

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