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第35話 覇緒ちゃんを救出へ

 トイレから戻って来るが、待っているはずの覇緒ちゃんの姿はなかった。


「どこ行ったんだろ?」


 もうすぐ決勝戦が始まるというのに……。


 覇緒ちゃんもトイレに行ったのだろうか? いや、それなら戻って来るときにすれ違いそうなものだが……。


 どこかこの辺をうろうろ見て回ってるのかな? それならば決勝戦が始まって呼ばれれば、ステージへ向かうだろう。


「さあ、いよいよ決勝戦が始まります。まずは無敗の女王、戦国777さんステージへどうぞ」


 進行役が呼び掛けで戦国777さんがステージへ上がる。


「うおおっ! 女王様ーっ! 今日も勝って無敗伝説を続けてくれーっ!」

「女王様ーっ!」


 観客は女王様女王様と大合唱。さすが人気のプロゲーマーである。


「ありがとう皆さん。勝てるように精一杯がんばろうと思います」

「はい。では続きまして対戦相手であるハオハオさん、ステージへお上がりください」


 ……進行役が呼びかけるも、しかし覇緒ちゃんが現れることはない。


「ハオハオさん? いませんか?」


 再度、進行役が呼びかけるも反応は無い。


「えーこのままですと戦国777さんの不戦勝になってしまいますが、ハオハオさんおられませんか? ハオハオさん?」

「いないの?」

「負けるの嫌で逃げたんじゃない?」

「ま、どうせ女王様が勝つんだしいいんじゃない?」


 覇緒ちゃんは緊張していたけど、優勝したいと意気込んでいたのだ。逃げるなんてありえない。


「えーハオハオさんはこの場におられないようです。10分ほどしても来られない場合は戦国777さんの不戦勝とさせていただきます」

「どこに行ったんだろう。ちょっと電話を……」


 と、そのときスマホが鳴る。

 覇緒ちゃんからだ。


「あ、覇緒ちゃん? もう決勝戦が始まるけど……」

「うえーんっ! せんぱーいっ!」

「えっ? どうしたの?」


 電話の向こうで覇緒ちゃんは泣いていた。


「閉じ込められちゃったんスーっ!」

「閉じ込められた? えっ? どこに?」

「ドームにある部屋のどこかっス……。決勝戦の打ち合わせがあるからって、スタッフさんについて行ったら、外から鍵をかけられて出られなくなっちゃったんス……」


 まさか鍵をかけて閉じ込めたのか? けど、どうしてそんなことを……? いや、今はそれを考えるよりも……。


「その部屋って会場からどう行くかわかる?」

「ついて行っただけっスからよくわからないっス……。けどそんなに遠くはないと思うんスけど……」

「わかった。今から行くから待ってて」


 そう言って俺は通話を切ろうとするが、


「あ、電話切らないでほしいっス。先輩の声を聞けなくなると怖いから……」

「わかった」


 通話はそのままで、俺は会場から出た。


 ……それから通路へ行き、壁沿いにあるドアを見回す。


「どの部屋だ? あ、覇緒ちゃん、扉を叩いてくれる?」

「あ、はいっス!」


 電話の向こうで扉を叩く音が聞こえる。しかし周囲の扉からは音がしなかった。


「この辺じゃないのか?」


 しかしこんなことを続けて探していたら時間がかかり過ぎてしまう。決勝戦に間に合わせるには急いで見つけてあげないといけないのに……。


「あっ!」


 そのとき俺は覇緒ちゃんを探し出す方法を思いつく。


「覇緒ちゃん、一度、通話を切ってもらえるかな?」

「えっ? どうしてっスか?」

「呼び出し音だよ。覇緒ちゃんのスマホは呼び出し音がものすごく大きいから、それでどこにいるかわかるかもしれない」

「あっ、わかったっス!」


 通話が切られ、俺はすぐにかけ直す。


「……あっちか」


 どこからか音が聞こえる。

 俺はそっちへ向かって駆けた。


 ……やがて大きな音が中から聞こえる部屋の前にやって来る。


「覇緒ちゃんっ!」

「先輩っ!」


 中から覇緒ちゃんの声が聞こえ、俺は扉のノブを回そうとする。

 しかしもちろん鍵がかかっているので開かない。


「しかたない。緊急事態だ。覇緒ちゃん扉から離れて」

「は、はいっス!」


 そして俺は扉から下がって離れ……


「えやっ!!」


 声を上げて扉へと突進する。と、


「うわっ!?」


 鍵が壊れて扉が開く。

 勢いをつけすぎたせいで、部屋の中へ突入する形になった俺はそのまま前のめりになって地面へ倒れた。


「いたたた……あ、覇緒ちゃん、大丈……」

「せんぱーいっ!」

「わっ、ちょっ!?」


 身体を起こした俺の頭を覇緒ちゃんが胸に抱く。


「閉じ込められて怖かったっスーっ! えーんっ!」

「む、胸が……胸が当たって……っ」


 でっかい胸が俺の頭を挟んでいる。

 所謂パフパフ状態……い、いやそれよりも、


「は、覇緒ちゃんっ! 急がないと決勝戦に間に合わないよっ!」

「うう……でももう時間過ぎちゃって……」

「10分だけ待ってくれるってっ。でもあと2分くらいしかないから急がないとっ」

「あ、わ、わかったっスっ!」


 立ち上がった俺は覇緒ちゃんと一緒に急いで会場へと向かった。

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