第34話 戦国777の邪悪な必勝法(戦国777・覇緒視点)
―――戦国777視点―――
「ちょっとどうなってるのっ!」
決勝前に控室へ戻ったあたしは大会スタッフを怒鳴りつける。
買収したプロゲーマーと決勝で対戦してあたしが勝つ。それが大会の筋書きだった。
「なんでプロが子供に負けてんのっ! ありえないでしょっ!」
「いやその……あの子、ランキング1位の子で……。まさかあんなに強いなんて想定外でしてその……」
「どうすんのっ! 大丈夫なのっ!?」
あたしはプレイする振りだけで、対戦するのは激強のCPUだ。一応、人間では勝てないように作られたCPUだが、ダメージを入れらてしまうこともあるので絶対ではない。
「だ、大丈夫だと思いますけど……」
「思いますじゃ困るんだけどっ! あの子供、ここまで全部パーフェクトで勝ち上がってきてるんでしょっ! 本当に勝てるのっ!? 負けたら無敗じゃなくなるんだからねっ!」
負ければプロゲーマーという設定を続け、無敗のまま引退して女優に転身という予定がダメになってしまう。
「まあ、あのCPUが負けるところなんて見たことないですし、それほど心配しなくてもいいと思いますけど」
「けど絶対じゃないんでしょっ? 絶対に勝てる方法を考えなさいよっ!」
「絶対にてすか? うーん……」
「買収は? あの子を金で買収しなさいよ。学生だし10万くらい渡せば言うこと聞かせられるでしょ?」
「いや、でも一般の子ですし、話が漏れる可能性が……。それにあの子どうやら逸見建設の社長令嬢らしいんですよね。だから10万円くらいじゃたぶん言うこと聞いてくれないと思いますよ」
「ああもうっ! と言うかマネージャーっ! あの子、事務所の新人とかじゃないでしょうねっ! あたしを踏み台にして女優デビューさせようとしてるとかっ!」
異様なまでに見た目がいいので、もしかしてとあたしは疑う。
「そ、そんなことはありませんよ。少なくとも自分が知る限りでは……」
本当だろうか? だがもしこの疑いが事実なら尚更に負けるわけにはいかない。
そのときあたしの頭に黒い思いつきが浮かぶ。
「あの子を決勝戦のあいだだけどこかに監禁しといてよ。そうすればあたしが不戦勝ってことになるでしょ?」
「か、監禁て……。それはさすがに犯罪になりますし、まずいですよ」
「終わったあとには解放するんだし大丈夫でしょ? もしもあたしが負けたらヤラセを全部、暴露してやるから。そうしたらあなたたちも困るんじゃない?」
「そ、それは……」
暴露をすればヤラセをさせていたゲーム会社は大きなダメージを受ける。もちろんあたし自身も批判をされて、無敗で女優に転身という筋書きは潰れてしまうだろう。だが無敗でなければ意味は無い。負けるんだったら、ゲーム会社にやらされてたと言って売名に利用してやろうと思った。
「……わ、わかりました。なんとかやってみます」
「鍵が壊れてとか、偶然の出来事にしなさいよ。仮にあとで訴えられてもあたしは知らなかったって言うからね。変な噂を立てられても嫌だから」
「はい」
「はあ……。ふぅー……」
タバコに火をつけて煙を吐く。
これでいい。無敗のプロゲーマーが女優に転身という筋書きは絶対に崩させてなるものか。
決勝に上がってきたあの女、あたしより目立っているのもムカつく。若いってだけで調子に乗りやがって。一緒にいる男も、あたしが色目使ってやったってのに薄い反応をしやがった。本当に嫌なガキどもだ。
―――逸見覇緒視点―――
「ちょっとトイレに行って来るね」
「あ、はいッスー」
久我島先輩がトイレに行き、わたしは決勝戦が始まるのを会場でひとり待つ。
まさか決勝戦に出られるとは思わなかった。憧れていた無敗の女王と対戦できるなんて、今からドキドキが止まらない。
「うー……緊張する。わ、わたしもトイレに行っておこうかな……」
そう思ったとき、
「すいませんハオハオさん」
「は、はいっ」
大会のスタッフに声をかけられる。
いよいよ決勝戦が始まるのかと、わたしの緊張はさらに高まったが……。
「決勝戦のことで少し打ち合わせをしたいので、来ていただいてもよろしいですか?」
「あ、はい」
決勝戦の始まりではなかった。
ホッと緊張が和らぐも、打ち合わせとはなんだろうと少し不安になった。
久我島先輩はまだトイレから戻って来ていない。わたしがここにいなければ心配するかもしれないが、決勝戦はもうすぐだし、打ち合わせも長くはないだろう。
少しくらい離れても大丈夫かな。
そう思いスタッフへとついて行く。
やがて会議室のような場所へ連れて来られ、
「こちらで少しお待ち下さい」
と、スタッフは部屋を出て行った。
「打ち合わせってなんだろう?」
盛り上げるための演出でもするのかな?
そんなことを考えながら待つ。
……しかし待っていても誰も来ない。決勝戦の開始時刻はまもなくだ。打ち合わせをしている時間などもうないはず……。
「どうしたんだろう?」
部屋の外を確認してみようと扉を開けようとする。……が、
「あれ?」
扉が開かない。どうやら外から鍵をかけられているようだった。
「と、閉じ込められているの? ど、どどどうしようっ! 出られないの……っ!」
内側からも鍵がなければ開かない扉だ。
このままでは決勝戦に行くことができない。それもあるが、閉じ込められているという状況が怖いというのもあった。
「だ、誰かいませんかっ!」
扉を叩いて叫ぶも、外からの反応は無い。
「どうしようどうしよう……」
このまま出られなくて飢え死にとか……。
そんな悪い想像をしてしまいますます怖くなってくる。
「く、久我島先輩……」
先輩の名を呟く。
しかしその声が先輩に届くはずはない。
「で、電話っ。久我島先輩にっ」
わたしは慌ててスマホを手に持ち、久我島先輩に電話をかけた。




