第33話 順調に勝ち上がって行く覇緒ちゃん
そしていよいよ俺の出番がやってくる。
「久我島先輩がんばってくださいっス!」
「う、うん」
覇緒ちゃんから激励を受けつつ、俺はステージへと足を運ぶ。
緊張するなぁ。
普段これほど大勢の前に立つことは無い。
しかし観客の視線は俺じゃなく、ほとんどが目の前の人に向けられていたのに気付き、少しだけ緊張が解けた。
「よ、よろしくお願いします」
「よろしく。楽しんでプレイしましょうね」
「はい」
と、握手をする。
「女王様と握手できていいなー」
「超美人だしなー。俺だったら握手した手を一生洗わないぜ」
観客からチラホラと握手を羨む声が聞こえる。
言われてみれば戦国777さんは美人かも。
しかし兎極や覇緒ちゃん、あとは野々原さんみたいな綺麗な女の子が俺の周囲にたくさんいるせいか、戦国777さんを特別に美人とは思わなかった。
「ふふ、手加減してくれたりする?」
「えっ? いやそんな、俺はそんなうまくないので普通にがんばらせてもらいます」
「……あ、そう」
「?」
なにやら一瞬だけ不機嫌そうな表情をしたような、そんな風に見えた。
それからお互いにイスへ座って対戦が始まる。
こ、これは……強い。
すごい動きだ。さすが無敗の女王様と呼ばれるだけはある。……けど、
「あ」
戦国777さんが小さく声を上げる。
俺のコンボが決まったのだ。
「おおっ! ダメージ入ったぞっ!」
「プロゲーマー以外から女王様がダメージ入れられるなんて初めて見たかも」
「これもしかしてがありえるか?」
俺がダメージを入れたことで会場内は大盛り上がりだ。
「いけるっスよ久我島先輩っ! がんばっスーっ!」
覇緒ちゃんからの声援も受けて俺はプレイに奮起する。……しかし、
「ああっと、ツッキーさん健闘しましたが、ここで戦国777さんの勝利が決まってしまったようです」
結局ダメージを入れられたのはあのコンボだけで、あとはやられっぱなしで敗北してしまう。しかし自分としては健闘したほうだと思った。
「先輩おつかれっス。残念だったっスね……」
「いや、思ったより健闘できたよ。一矢報いることもできたしね」
悲しそうな表情の覇緒ちゃんを前に俺は微笑んで見せる。
「そうスか?」
「うん。覇緒ちゃんならきっと勝てるからがんばってね」
「は、はいっス!」
元気な返事をする覇緒ちゃん。
確かに戦国777さんは強かった。しかし何度も対戦をした俺だからわかるが、たぶん覇緒ちゃんのほうが強いと思う。今まで一度も覇緒ちゃんとの対戦でダメージを入れることはできなかった。しかし戦国777さん相手ではダメージを入れることができたのだ。
覇緒ちゃんなら勝てる。
ほとんど確信に近く俺はそう思った。
……それから覇緒ちゃんの対戦が始まる。
「うおおおっ! なんだあの子めっちゃつえーぞっ!」
「プロゲーマーのシクルメさんが2回ともパーフェクトで瞬殺されたぞっ!」
「ハオハオってランキング1位の? あんな若い女の子だったのかよっ!」
始まったと思ったら一瞬で終わってしまう。
観客の誰かが言った通り、対戦内容はまさに瞬殺であった。
「な、なんと前大会準優勝のシクルメさんがあっという間に……。これはものすごい番狂わせだぞーっ!」
皆、驚いているが、これは当然の結果だ。
覇緒ちゃんの強さは俺が一番によく知っている。
恐らく決勝までは負けないだろう。
「これは優勝わかんねーな」
「てかあの子すげーかわいいな。女王様より美人かも」
「俺ファンになっちゃったぜ。かわいいし」
加えてあの綺麗な容姿だ。
あんなにかわいい子がめちゃくちゃゲーム強かったらそりゃ盛り上がる。
「先輩勝ったっスーっ!」
「おめでとう覇緒ちゃん」
ステージを降りて小走りで駆けて来た覇緒ちゃんを迎える。
「このまま優勝できそうだね」
「そ、それはまだわからないっスよー」
「あはは。そうだね。でも俺は覇緒ちゃんが優勝できるって信じてるから」
「は、はい! がんばるっス!」
覇緒ちゃんは気合十分だ。
これはご褒美をあげるつもりでいないといけないな。
それから覇緒ちゃんは順調にトーナメントを勝ち上がり、ついに決勝戦へと駒を進める。決勝の相手は、やはりというか予想通り無敗の女王戦国777さんであった。




