第30話 ゲームが得意な覇緒ちゃん
夕食後、俺は自室でネットゲームを楽しんでいた。
「やっぱり覇緒ちゃんは強いなぁ」
やっているのは格闘ゲームだ。
覇緒ちゃんとは昔からゲーム仲間で、最近では一緒にネット対戦をしている。
「こ、こんな動きどうやってるんだ?」
覇緒ちゃんの使う女の子のキャラがありえないような動きをして俺の使うキャラを攻撃する。
覇緒ちゃんの腕はプロゲーマー並みだと思う。
俺では到底かないそうもなかった。
ハオハオ:またわたしの勝ちっスー
対戦後に覇緒ちゃんからチャットでメッセージがくる。
ハオハオとは覇緒ちゃんのハンドルネームだ。
ツッキー:ハオハオちゃん強過ぎだよー。俺じゃ勝てないな。
ハオハオ:特訓あるのみっすよ
ツッキー:そうだね
めちゃくちゃゲームがうまい覇緒ちゃんといつもネット対戦をやっているおかげか、俺もそれなりにゲームは強い。しかし覇緒ちゃんには勝てそうにない。うまさの次元が違うのだ。
ハオハオ:ツッキー先輩がんばるっすー!
ツッキー:うん
覇緒ちゃんはいつも通り元気だ。幸隆との件はもう気にしていないっぽい。
難波組が逸見建設の不祥事を探っている件は、兎極のお父さんが難波組の組長と話をつけて収まったらしい。兎極の話によると厳しく話して収めたようだが、ヤクザ同士だし厳しいの意味は推して知るべしというか……。
まあともかく覇緒ちゃんに危害が及ぶようなことはなくなったのでよかった。
そういえば兎極のお父さんには会ったことない。兎極は普通のお父さんって言っていたけど、ヤクザらしいしそれは無いよなぁと思う。
ツッキー;ハオハオちゃんは本当にこのゲーム強いね。ゲームの大会に出たりすれば優勝できたりするかも
ハオハオ:それは無理っすよー。大会は強い人ばっかりっすもん
ツッキー:そうかなぁ。優勝は無理でもいいとこいきそうだけど
ハオハオ:そうすかー? じゃあちょっと気になってる大会あるんすけど
ツッキー:そうなの?
無理とは言いつつ、やはり大会出場には興味があったようだ。
ハオハオ:けどひとりで行くのはやっぱり緊張しちゃって……。わたしって人がたくさんいるところに行くとなんかジロジロ見られますし
そりゃあそうだろう。こんなに綺麗でかわいくて……おっぱいの大きい子がいたら無意識に目が引かれてしまう。
ナンパとかもされそうだし、人の多いところへひとりで行くのを躊躇してしまう覇緒ちゃんの気持ちはよくわかった。
ツッキー:じゃあ俺が一緒に行ってあげようか?
ハオハオ:ほんとっすか? じゃあ大会に出るっス!
俺が一緒にいれば少なくともナンパは無いだろう。周囲に見られてしまうことを防いであげることはできないが。
ハオハオ:一緒にお出掛けするの楽しみっス!
ツッキー:楽しみなのはゲームの大会でしょ?
ハオハオ:そうでしたっス!
メインはゲームの大会だ。しかし覇緒ちゃんと出掛けるのも楽しみではあった。
ハオハオ:先輩も一緒に出場するっス!
ツッキー:俺じゃ恥かくだけだからいいよ
ネット対戦のランキング上位者に大会の出場資格がある。俺もギリギリ出場資格はもらえそうではあるが、勝ち上れる自信は無かった。
ハオハオ:そんなことないっす! わたしが保障するっす!
ツッキー:そうかなぁ
ハオハオ:うっす! 女王って呼ばれてる人と当たらなければかなりいいところまでいくと思いまっス!
ツッキー:戦国777さんのこと?
ハオハオ:うっす! 一度も負けたことがないすごい人っス!
ツッキー:ああ
俺もその人のことは知っている。一度も負けたことがないのはすごい人だ。しかしなぜかネット対戦はやっていないらしく、大会はいつも特別枠という形で参加をしている。
ツッキー:けど覇緒ちゃんもネット対戦では負け無しだし、戦国777さんに勝てるんじゃないかな?
ハオハオ:無理っすよー。わたしなんてまだまだっすー。けど先輩が応援してくれるならがんばってみるっす!
ツッキー:うん。応援するからがんばってね
ハオハオ:はいっす! もし優勝したら
もし優勝したら。その後の文字は途切れていた。
ツッキー:もし優勝したら?
ハオハオ:なんでもないっス! 今日はもう寝るっス! おやすみなさいでっス!
そう文字を打って覇緒ちゃんはネット対戦から抜ける。
「ご褒美でもほしいのかな?」
たぶんそうだろうなと思いつつ、俺もゲームをやめた。




