第28話 ミニマムだったイケメン先輩のあれ(逸見覇緒視点)
「きゃあっ!?」
男性の全裸を見てしまったわたしは顔を両手で覆って思わず叫ぶ。
股間はもう見てくれと言わんばかりに御開帳されていた。
「てめえ降ろせコラっ! こ、こんなことして……」
「そこのテニスコートを今、女子テニス部が使ってるのは知ってるか?」
「な、なに? 女子テニス部って……ま、まさかてめえっ!?」
「あたし実はテニスに興味があってさぁ。見学に行きたい気分なんだよなぁ」
「マジやめろてめえっ! ふ、ふざけんなっ!」
「やめてほしいなら頼み方があるだろ?」
「くっ……。や、やめてください……」
「嫌でーす」
「てめえーっ!!」
姉御はそのままテニスコートに走って行く。
「お、俺たちも行ってみるか……」
「あ、はいっスっ」
久我島先輩と一緒に姉御へついて行くと、
「きゃあーっ!」
案の定、テニスコートから悲鳴が聞こえる。
「えっ? あ、あれってサッカー部の難波君?」
「な、なにやってるの?」
「うわー……」
女子テニス部員は驚きつつ、なぜかスマホを取り出す。
「写真とっとこ」
「あ、わ、わたしもー」
「なんかわからないけどおもしろ」
「てか、ちっさ……」
そしてパシャパシャと写真を取り出した。
「てめえやめろってマジでっ! 撮るなっ! やめろってっ! やめてっ! ほんとやめてっ! やめてくださいぃぃぃっ!!」
全裸で両足を開いたキン〇バスターの体勢を写真に撮られて泣き叫ぶ難波先輩。
その姿はあまりにみじめ過ぎて、笑う気すら起きなかった。
「おいおいイケメンは大人気だなー。ほーれサービスしてやれー」
姉御が膝を曲げて上下に動く。
と、難波先輩のあれも上下に揺れた。
「きゃーっ! 揺れてるっ! 揺れてるっ!」
「やばーっ!」
「動画で撮っとかなきゃ」
スマホを片手にテニス部女子たちは大興奮だ。
「と、撮らないでくれぇーっ! 俺のイケメンなイメージがぁ……っ」
「よーし次は女子バスケ部に行くぞー」
「もうやめてーっ!」
今度は体育館へ向かって姉御は走って行く。
……このことはのちに放課後のキン玉ダシター事件として語られることになった。
……
…………
……………………
次の日の放課後、わたしは久我島先輩と姉御と一緒にヨネカフェに来ていた。
「久我島先輩、改めてすいませんしたっすっ!」
テーブルについたわたしは久我島先輩に頭を下げる。
謝罪は昨日もした。しかし何度しても足りた気がしない。久我島先輩の顔を見ると申し訳ない気持ちが湧き上がってきて謝罪せずにはいられないのだ。
「い、いや、だから覇緒ちゃんが謝ることないって。あいつに頭下げたのは俺が勝手にやったことなんだしさ」
「けど久我島先輩の言うことを最初から聞いていれば、怪我をすることもなかったじゃないっすか。それを考えると申し訳なくて……」
「それはしかたないよ。覇緒ちゃんは幸隆のことが心の底から好きだったんだし、俺の言うことなんか余計なお世話って思うのも無理はないから……」
「も、もう好きじゃないっすっ! あんな人……」
あれほど好きだった難波先輩のことを今はなんとも思わない。本性を知ったからというのもあるが、それ以外の理由も……。
「あ、俺ちょっとトイレ行ってくるね」
と、久我島先輩が席を離れる。
「……姉御」
「ん?」
メロンソーダをストローで飲みながら姉御はこちらを向く。
「わたし……久我島先輩の良いところわかったかもしれないっす」
顔は普通。けど久我島先輩はイケメンであることよりも、もっとすごい魅力を持っている。以前に姉御がここで言っていた久我島先輩の良いところ。あのときはまったくわからなかったけれど、今はわかるような気がした。
「お前がおにいのいいところを? ふん。どうせわたしがあのとき言った不器用とか泥臭いのが良いところって言うんでしょ? おにいの良さは……」
「言葉では説明できないっすっ!」
「……」
久我島先輩は不器用で泥臭くてまっすぐで……けどそれだけじゃない。言葉では言い表せないほど、素敵で大きな男の人……。
「お前、わたしのこと姉御って呼ぶの禁止な」
「な、なんでっすかーっ! わたし姉御の言う良い男はわかってるっすよっ! 久我島先輩っすっ! 久我島先輩は難波先輩なんかよりずっと……」
「うるさいなー。お前もうおにいに近づくな」
「なんでっすかーっ!」
「なんでもだよ」
そう言って姉御は不機嫌そうな表情でメロンソーダをすする。
「むー……。あ、と、と言うかあの……その、話は変わるんすけど」
「なんだよ?」
「えっと……難波先輩のあれ、こんなでしたね」
わたしは姉御へ向かって親指を立てる。
子供のころにパパのを見たことがあるので初めてではない。
パパのと比較してだいぶ小さかったように思う。
「お前なぁ……女子がそんな話するなよ」
「姉御はこういう話に興味は無いっすか?」
「いや別にそういうわけじゃ……」
「姉御も興味あるんすね! このスケベ!」
「ああっ? わたしはスケベなんかじゃ……」
「く、久我島先輩はどんくらいっすかねぇ?」
難波先輩よりミニマムってことは無さそうだが。
「お、おにいのか? おにいのはお前……こんくらい」
と、姉御は自分の肘から手首までを指でなぞる。
「ええっ!? いやそれ大き過ぎっすよ! てか見たことあるんすかっ!?」
「小学生のときにチラっとだけ。あれからさらにデカくなってるだろうし、今はもっとかも」
「そんなの入らないっすよっ!」
「お前そういうことデカい声で言うなよ……」
わたしは頬を熱くしつつも、しかし興味はしんしんであった。
「てか、入るとか入らないと、お前が心配することじゃないし」
「そ、それはどうかは……」
「なんの話してるの?」
と、そこへ久我島先輩が戻って来る。
「あ、久我島先輩っ! 先輩のってこれくらいなんすかっ!?」
わたしは肘から手首までを指でなぞる。と、
「バカお前、余計なこと言うなっ!」
姉御に頭をひっぱたかれた。




