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第24話 ヤクザ屋さんの危険な思惑(難波幸隆・逸見覇緒視点)

 ―――難波幸隆視点―――


 俺が家の門を通ると、ガラの悪い男たちが一斉に頭を下げる。


「若、お帰りなさいませっ!」

「おう」


 親父は難波組の組長だ。かなりでかい組で、親父の難波熊五郎なんばくまごろうはヤクザ界隈で名が知れている。


「若、帰って来たら部屋へ来るようにと組長が」

「わかった」


 どうせまた組を継げとかそういう話だろう。別にヤクザは嫌いじゃないし喧嘩だって自信はある。しかし今どきヤクザなんて時代遅れだ。継ぐ気は無かった。


 組の若い衆に引き戸を開けさせて家の中へ入り、親父の部屋へ向かう。


「親父、入るぞ」

「おう入れ」


 障子を開けて入ると、タバコを吸いながら俺を見上げる親父の姿が見えた。


「で、また組みを継げって話か? それは嫌だって言ったろ?」

「その話じゃねぇよ。まあ座れ。おめえにやってもらいてぇことがあってな」

「やってもらいたいこと?」


 言われて俺は親父の前に座る。


「おめえ、ゲームの会社がでけーレジャーランドを作るって話は知ってっか?」

「ああ……」


 なんだかどっかの大手ゲーム会社が、自社の販売するゲーム世界をモチーフにしたレジャーランドを作る計画があるとか聞いたことがある。


「そのゲーム会社に依頼されて建設予定地の地上げをうちがやったんだけどよぉ」

「なんだ地主とトラブったのか? そんなのいつも通り……」

「ちげぇよ。地上げのほうは円満に終わった。そのレジャーランドの建設を依頼されたのが逸見建設なんだけどよ。なんとかその建設を逸見建設から奪えないかって、ライバル企業の御子柴建設から相談されてよォ」

「いや、もうそのゲーム会社から逸見建設に依頼されてんなら無理だろ」

「そこをどうにかできないかってな。ほら、おめえの後輩に逸見んとこの娘がいたろ。その娘を使って、なんとか逸見建設の不祥事を掴めねえかなってよ」

「逸見の娘か……」


 逸見覇緒のことだ。

 美人で胸がでかいからよく覚えている。


 俺に好意があるらしいから遊んでやろうと思ったけど、そのときは付き合っていた女が多過ぎてあれ以上は手が出しづらかったからとりあえず保留にしたんだったか。


「おめえ女を転がすのは得意だろ? 逸見の娘に近づいてなにかしら逸見建設の不祥事を聞いてこいや。でかい不祥事が発覚すれば逸見建設への建設依頼が取り消されるかもしれねぇからよ」

「まあいいけどさ」


 と、俺は親父に向かって手を差し出す。


「小遣いは弾んでくれよ?」

「成功報酬だ。成功したら御子柴建設からかなりの金をもらえる約束だからな。お前には分厚い束をくれてやるよ」

「わかった」


 手を引っ込めた俺は、親父の目を見てニヤリと笑った。



 ……


 …………


 ……………………



 ―――逸見覇緒視点―――


 ……かなりがっかりだ。


 学校が終わった放課後、わたしはひとりトボトボと帰路についていた。


 まさか難波先輩が工藤先輩と付き合い始めていたなんて……。難波先輩は格好良いし、いつも女の子と一緒にいたから心のどこかで諦めてはいたんだけど……。


「知っちゃったらもう可能性ゼロだもんねー」


 知らなければわずかな可能性を信じて期待を持ち続けることができた。しかし彼女がいると知らないで想い続けるのもなんかマヌケに思う。


「ああ、どっかに難波先輩くらいのイケメンいないかなー?」


 姉御は久我島先輩にべた惚れだったけど、やっぱり男は顔だ。その上でスポーツもできたらなお良い。

 久我島先輩も昔は野球をやっていてスポーツマンだったけど、今は普通も普通の男子高校生。どこがいいのかさっぱりわからないし、やっぱり姉御にはふさわしく無いと思う。


「わたしはイケメン好きだし、姉御だって女なんだからイケメン好きなはずだよ。今度わたしおすすめのイケメン写真集を見せてあげようかな? そうすれば久我島先輩が良いなんて変なことは言わなくなるかも……」


 そんなことを考えながら歩道を歩いていると、


「やあ逸見さん」

「えっ? ふぁあっ!?」


 声をかけられて振り向くと、そこには難波先輩が立っていた。


「な、ななな難波先輩っ! ど、どうしてここにっ!?」

「逸見さんを待っていたんだ」

「わ、わたしをっ!? ふぁーっ!」


 なぜ難波先輩が自分を?


 理由はわからないが、とにかく緊張して頭がパニック状態であった。


「うん。もしよかったらお茶でもと思ったんだけど、どうかな?」

「け、けど難波先輩は工藤先輩と付き合っているのに、わたしなんかと一緒にそんな……お茶なんていいんですか?」

「はは、まあお茶くらいなら平気だよ。君が嫌なら諦めるけど」

「い、嫌じゃないですっ! 行きますっ! 行きましょうっ!」

「よかった。じゃあ駅前のヨネカフェに行こうか?」

「はいっ!」


 まさか憧れの難波先輩とデートができるなんて。


 わたしは気持ちをワクワクドキドキさせながら難波先輩について行った。


 ……ヨネカフェに入って難波先輩とテーブルについたわたしは、店員さんにコーヒーをひとつ頼む。


「コーヒーだけでいいの?」

「は、はい。わたし少食なので……」


 難波先輩の前でいつも通りガツガツいっぱい食べるわけにはいかない。


「そう」


 わたしを見てニッコリ笑う難波先輩を前に頬が熱くなる。……けど難波先輩は工藤先輩と付き合っているのだ。どんなに好きでも付き合うことはできない……。


「逸見さん……いや、覇緒ちゃんって呼んでもいいかな?」

「も、もちろんですっ!」

「じゃあ覇緒ちゃん」

「は、はいっ!」


 難波先輩に下の名前を呼ばれた。

 感激で胸が張り裂けそうになってしまう。


「実は……君のことはずっと気になっていたんだ」

「えっ? ず、ずっと気になっていたって……?」

「素敵な女の子だなって」

「……ッッッ!?」


 なにを言われたのだろう? わたしが素敵な女の子って? 難波先輩が? 本当に? 聞き間違いじゃなくて?


「またこうして会ってくれたら嬉しいんだけど……」

「で、でも、それは工藤先輩に悪いのでは?」

「うん。けどその……天菜とはあまりうまくいっていなくてね。別れようかと思っているんだ」

「そ、そそそうなんですか?」


 これって、もしかして……。


 まさかの期待に胸が高鳴る。


「うん。本当なら天菜と別れてからアプローチするべきなんだろうけど、もしも他の男と付き合い始めちゃったらって考えたら怖くてさ。あ、もしも他に好きな男がいるならもう会わない……」

「い、いませんっ! 他に好きな男性はいませんでしゅっ!」

「よかった。じゃあまた会ってくれるかな?」

「はいっ! 喜んでっ!」


 わたしは最高の気分で返事をする。


 憧れの難波先輩と付き合えるかも。

 その可能性を実感したわたしの心は踊るように鼓動を繰り返していた。

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