第190話 ついにおにいと合体の瞬間が……
―――瑠奈視点―――
それから五貴と兎極はあちこちとデートコースを回る。
その間、工藤天菜たちがなにかする様子は無かった。
諦めたとは思わない。
恐らく、瑠奈たちが見張っているので手を出しづらくなっているのだろう。
「だいぶ暗くなったね」
「はい」
辺りはすっかり暗くなり夜となる。
暗殺をするにはおあつらえ向きな夜の雰囲気に……。
「だいぶあちこち行ったし、あとはもうホテルしかないね。なんとかうまいこと3Pに持ち込めないかな? ねえ?」
「そんなことより周囲を警戒してください。いつまた工藤天菜たちが兎極を狙って攻撃してくるかわからないんですから」
「わかってる。だから3Pしてあたしが側にいれば安全って話」
「はあ……」
しかしいざとなれば朱里香は頼りになる。
瑠奈は瑠奈でしっかり警戒しようと、周囲に気を張りながら五貴と兎極を追った。
―――久我島五貴視点―――
港で景色を見たあと、俺たちは繁華街へ戻って来る。
今のところデートはうまくいっているが、なんとなく周囲が騒がしいような気も……。大きな地震があったくらいで他は特になにも無いので、気のせいだとは思うけど。
「どうしたのおにい?」
俺の腕を抱いている兎極が首を傾げて聞いてくる。
「あ、いや、なんでもないよ。それよりも……」
次に行く場所は決まっている。
しかしそこへ行こうと言える勇気がまだ出なかった。
「その……これから行くところなんだけど……」
「うん」
と、兎極はますます強く俺の腕を抱く。
「おにいの行きたいところならどこへでも一緒に行くよ。わたしその……今日はそのつもり来たし」
「そ、そのつもりって……」
「わ、わかるでしょ? 言わなくても、さ」
恥ずかしそうに言う兎極の表情を見て俺は察する。
俺がどこへ一緒に行こうと考えているのか兎極はわかっているのだろう。それならばと、俺は頷くだけで言葉は発さず、目的地へと向かった。
そしてやって来たのは高級ホテルだ。
バイトで溜めた金と貯金を使ってここの最上階にあるスイートルームを予約した。
今日、俺はここで兎極と……。
入り口を通った時点でもうドキドキがやばい。
兎極も同じ気持ちなのか、頬を染めて硬い表情で俺の腕に抱きついていた。
「と、兎極、本当にいいんだな?」
「そんなこと聞く必要無いよ。わたしにとって、男の人はおにいだけなんだから」
「う、うん」
兎極はもうこのあとに行われることを受け入れている。
俺も兎極との関係を今日でさらに進展させる気でいた。
鍵を受け取ってエレベーターへ。
そして予約していたスイートルームへやって来る。
今日ここで俺と兎極は……。
大きく高級感のあるベッドを目にして心臓がさらに高鳴る。
「兎極」
「おにい……んっ」
兎極の唇へキスをする。
受け入れてくれた兎極と、しばらく甘いキスを続けた。
「ん……はあ……おにい、来て」
ベッドへと仰向けに倒れ込んだ兎極が潤んだ視線で見つめてくる。
「そ、その前に……」
これからする大切なことの前に、もうひとつ大切なことをする必要があった。
「あ、シャワー? けど、わたしもう我慢できないよ。シャワーなんていいからさ。わたし気にしないし……」
「そ、そうじゃなくてさ。誕生日のプレゼント」
「あ、って、プレゼントはおにいの……その、初めてかと思ってた」
「い、いや、それだと俺もプレゼントをもらうことになっちゃうから」
むしろ俺のほうが貴重なものをもらってしまうくらいだ。
「ちゃんと他にプレゼントがあるんだ。するのはそれを受け取ってもらってからで」
「な、なんだろう?」
身体を起こしてベッドに座る兎極の前で、俺は自分の鞄へ手を入れる。
きっと喜んでくれる。
そう確信しながら、俺はプレゼントを掴んで鞄から手を……。
カラ……。
「えっ?」
一瞬、天井が揺れる。
なんだと思い見上げると、
ドシャアアン!!
天井が崩れてくる。
俺は慌てて兎極を抱き、その場を離れた。
「な、なんだ?」
ただ天井が崩れただけじゃない。
誰かが天井とともに落ちてきた。
「て、てめえは……っ」
その人物を見て兎極は眉をしかめる。
俺もまさかと思いつつ、その人物を見て目を見開いた。
「ふふっ、まるで幽霊でも見たみたいな顔。おもしろ」
「あ、天菜っ!?」
そんな馬鹿な。
兎極からは自爆して死んだと聞いた。
それが5体満足で目の前に現れたのだ。意味がわからなかった。
「本当はおっぱじまって疲れたところを殺してやろうと思ってたんだけど、ヤレずに死んだほうが未練が残って悔しいだろうと思ってさ。出て来ちゃった。くっくっ」
「てめえ……どうして生きてやがるっ?」
「あんたを殺すまでは死ねないんだよ。わたしに死んでほしいんなら、あんたがわたしに殺されることだね」
「ふざけるなっ!」
兎極の雰囲気が一転して、喧嘩モードへと変わる。
以前までの天菜なら兎極に勝てるはずは無い。
しかし今の天菜は雰囲気が妙だ。頬の傷は無くなっているし、異様な自信に溢れていた。
「殺し方なんてなんでもよかったけど、せっかく良い身体を手に入れたんだ。やっぱり、直接、この手で殺すのがいいよねぇ」
「身体を手に入れた?」
どういうことだ?
まさか四宮春桜になにかされた? いや、今さらあの人が天菜になにかするとは思えないけど……。
「兎極、なにか変だ。今までの天菜と同じだと思わないほうがいい」
「わかってるよ」
兎極も天菜の異様さに気付いているらしく、眉をひそませ額に汗を滲ませて警戒感を露わにしていた。
「察しの良いこと。けど察せたところで……」
「五貴っ! 兎極っ!」
そこへ天井から瑠奈、それと朱里香さんが跳び降りて来る。
「すいません。こうなる前にそいつも仕留めたかったのですが……」
瑠奈がそう言うと、もうひとり天井から落ちてくる。
それは気を失っているらしい工藤純也だった。
「なんでそいつがここに……?」
確か警察に捕まっていたはずだけど。
「あたしは五貴君と3Pをしに来た」
「さ、3P? なに言って……。いや、それよりも」
俺は天菜へと目をやる。
「分が悪いぞ? どうする?」
兎極、朱里香さん、そして瑠奈がいる。
天菜がどんな変貌を遂げていようと、明らかに分は悪いだろう。
「ふん。確かにその通り。けど、わたしはあんたらと戦いに来たんじゃない。そいつと……命懸けの喧嘩をしに来たんだ」
そう言う天菜の指差す方向に兎極がいた。




