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第189話 おにいと2人でイタリアン

 ……映画が終わり、五貴たちに続いて瑠奈たちも外へ出る。


「お腹減った。なんか食べに行ってくれないかな」


 朱里夏の願いが通じたのか、五貴たちはイタリアンの飲食店へと入って行く。


「イタリアンか。あたしのときは焼肉がいいな」

「デートで焼肉は無いんじゃないですか?」

「あたしは焼肉がいいの」

「そうですか」


 フンフンと鼻息荒く焼肉を食べたいと主張する朱里夏は放って置き、瑠奈は2人の周囲を注意深く見張る。


 さっきの奴がどこかにいるはず。

 銃を所持しているし、一瞬も気を抜けなかった。


「心配ならデートを中止させたら?」

「それはダメです。兎極の誕生日は1年で1回だけですし、五貴は特別なプレゼントを用意してこの日を待ち望んでいたんです。中止させるわけにはいきません」


 絶対に成功させる。

 そのためにはさっきの襲撃者を早く捕まえなければ。


 そのためにと瑠奈は周囲に気を張っていた。


「さっきの奴、もしかしたら工藤天菜かもしれない」

「工藤天菜? それって確か……」


 兎極を恨んでいる女で、博士に改造されたのち、兎極と戦って自爆したと聞いたが。


「うん。自爆したって聞いたからまさかとは思うけど」

「……」


 実際にはどうだかわからない。

 わかっているのは兎極を狙う襲撃者がいるということだ。それが工藤天菜かどうかは、捕まえてみればわかることだった。


 五貴たちに続いてイタリアンの飲食店へと入る。

 席はもちろん、2人からは見えない位置だ。


「ナポリタン大盛りで」

「あ、すいません。うちはナポリタンやってなくて……」

「イタリアンなのに無いの? じゃあなんかケチャップかかってるスパゲティ頂戴」

「すいません。ケチャップのかかったものは……」


 どうやら朱里夏はイタリアン=ケチャップのかかったパスタらしい。


「ペペロンチーノ2つください」

「かしこまりました」


 店員は頭を下げて去って行く。


「ペペロンチーノってなに?」

「にんにくと唐辛子のパスタですよ」

「おいしいの?」

「さあ? 食べたことは無いので」

「……まあいいか」


 料理を待つあいだ、瑠奈は五貴たちのほうを注視する。


 今のところ異常は無い。

 楽しそうに会話する2人の近くに危険は見えなかった。


「……なんか店員の姿が見えなくなったような気がする」

「えっ?」


 言われてみれば店員の姿が見えない。

 レジにすら姿が無く、客が入って来ても誰かが出て来る様子は無かった。


「まさか……。ここをお願いしますっ」


 瑠奈は立ち上がって店のバックヤードへ向かう。

 そこには縛られた店員たちがいた。


「も、もしかして……っ」


 直感した瑠奈は厨房へ向かう。

 そこには映画館で見たあの女が立っていた。


「あなたっ!」


 瑠奈は厨房へ駆け込んだ勢いのまま女へ殴りかかる。


「お前は……確か瑠奈?」


 そう言って女はニッと笑い、瑠奈の拳をかわす。


「こ、この動きは……っ」


 なるべく捕らえようと、手加減はした。しかし超人間の完成形である瑠奈の一撃をかわすなんて……。

 そのことでこの女が普通の人間でないことが察せられた。


「そうか。さっき髪留めを投げてきたのはあんただね。朱里香にしては器用なことをやってくれると思ったけど」

「あなたは超人間ですか? まさか博士の命令で……」

「いや、四宮は関係無い。これはわたしの復讐だよ。あのクソ女を殺すわたしの復讐。くっくっくっ」

「……あなたは工藤天菜なのですか?」

「ああ。最強の超人間に知られてるなんて光栄だね」

「あなたは死んだはずです。それがどうして超人間に……?」

「執念がわたしを死なせてくれないんだ。あのクソ女を殺したいっていう強烈な執念が、わたしに生きろってうるさくてね。この身体は執念の賜物とでも言っておこうか。くっくっくっ」

「だったらその執念ごと、瑠奈が貴様をここで殺してあげます」


 この女がなぜ超人間の身体を持っているかは気になるが、それを考えるのはあとでもいい。今は始末が最優先だ。


「わたしの身体は残念だけど、中期型くらいの超人間だ。最終型で最強のあんたとやるのは分が悪いねぇ」

「なら降参して自害しますか?」

「いや……」


 拳を固める瑠奈を前に、工藤天菜は視線を横へずらす。

 そちらへ目をやると、店員の服を着たガタイの良い男が厨房へ入って来るのが見えた。


「店員? ……いや」


 男は自分の顔を掴み、ビリリと剥がす。

 その下からはまったく違う顔が現れた。


「純也、料理は?」

「バッチリよ」


 男はそう答える。

 それを聞いた工藤天菜がニヤリと笑った。


「……はっ!?」


 それを目にした瞬間、瑠奈は厨房を駆け出る。

 そして見えたのは、さっきの男が運んだであろう料理を口にしようとしている兎極の姿であった。


 あれには毒が含まれている。


 大声を出して止めるか? いや……。


 瑠奈は固めていた拳でそのまま思い切り地面を殴る。……と、店が大きく揺れた。


「わっ? なんだ地震か?」

「結構、大きいぞ」


 大きな揺れに客たちが騒ぎ出す。テーブルに乗っていた料理は揺れで地面へと落ち、兎極が食べようとしていたパスタも同じように落ちていた。


「な、なんとかなった……」


 ホッとするのも束の間、瑠奈は2人に気付かれないようその場からすぐに姿を消して厨房へ戻る。しかしすでに2人の姿は無かった。


「逃げられた……っ」


 ここで仕留めておくべきだった。

 それを逃したことを瑠奈は悔いた。


「2人とも店を出て行った。早く追おう」

「あ、はい」


 厨房へ入って来た朱里香に従い、瑠奈たちも店を出た。

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