第188話 おにいとお誕生日デートへ行く
今日は兎極の誕生日だ。
俺は最高のプレゼントを考えて、今日のデートに兎極を誘っていた。
「喜んでくれるよな。きっと」
絶対に喜んでくれると確信できるプレゼントだ。
喜んでくれなかったらかなりへこむ……。
少し不安になりながら、俺は繁華街の駅前で兎極を待っていた。
「おにいっ」
「あ……」
聞き慣れた声を聞いて振り向く。
そこにはおしゃれに着飾った兎極が立っていた。
「と、兎極……」
「へへ、どうかな?」
その場でクルリと回る。
周囲の人間は皆が兎極へ視線を釘付け、俺もぼんやりと見つめていた。
「あんまりよくなかったかな?」
「そ、そんなことないよ。すごく綺麗で……驚いた」
いつも綺麗だと思っている。
しかし着飾ると、兎極の美しさはより際立った。
「ふふ、ありはとう。それじゃ行こっか」
「う、うん」
兎極に腕を抱かれて歩き出す。
今日は兎極にとって最高の誕生日にしよう。
そう俺は気合を入れていた。
―――瑠奈視点―――
……2人が歩き出すのを、瑠奈は遠くから眺めていた。
このデートは五貴にとって重要なもの。
成功すれば五貴は喜ぶ。
ならば成功するよう、手伝ってあげようと瑠奈は見守ることにした。
「あたしも五貴君とデートしたい」
と、隣で朱里夏が呟く。
まず最初にしたのが朱里夏を抑えることだ。
たぶん放って置けば邪魔をする。だからうまいこと言って抑え込んだのだ。
「あたしが誕生日のときはデカチチに邪魔させない約束は守ってよ」
「もちろんです。超人間は嘘吐かないです」
他に方法が無かったので、しかたなく朱里夏の誕生日は兎極を抑えることで納得させた。兎極は嫌がるだろうけど、そこはなんとかするしかなかった。
「ホテルまで行くかな?」
「さあ? デートコースの詳細は聞いてませんので」
「ホテルまで行ったら、どさくさに紛れて3Pもありだと思う」
「邪魔はしないって約束ですよ」
「3Pは五貴君もしたいはず」
「……とにかく2人には近づかないでください」
いざとなれば約束なんて忘れて2人へ近づいて行きそうだ。
そうなったら力づくで止めるけど……。
「うん?」
「どうかしましたか?」
2人のあとを追っている途中、不意に朱里夏が足を止めて一点を見つめる。
「……気のせいかな?」
「なにかあったんですか?」
「いや、知ってる奴がいたような気がして。けどあいつは死んだはずだし……」
「じゃあ気のせいでしょう」
「……そうだね」
気のせいということになり、瑠奈たちは2人のあとを追った。
やがて映画館へとやって来る。
「思ったより普通のデートだ」
「普通じゃダメなんですか?」
「なんかデカチチの誕生日だから気合入れてるって言ってたし、いきなりホテルへ行くっていう大胆さを見せてくれるのかと思った」
「瑠奈はデートについて勉強しました。ホテルとは最後に行くものでは?」
「デートなんてどうせホテルへ行くためのワクワクタイムなんだし、いきなりホテルへ行ったって別にいいじゃん。あたしはそっちのほうが嬉しい」
「……よくわかりませんが、朱里夏の考えは特殊だと思います」
「そうかな?」
瑠奈の言葉を聞いて首を傾げる朱里夏。
どうもこの人は男女関係に肉体での接触を求め過ぎてる気がする。
そして瑠奈たちは五貴たちと同じ映画の劇場へと入る。
見るのは恋愛映画のようだ。
瑠奈の学んだデートでも、見る映画は恋愛ものとあった。
「恋愛映画なんて興味無いな」
「朱里夏の好みで見るわけじゃないんですから」
そう言いつつ、2人の姿が見える離れた席へと座る。
……それからしばらくして映画が始まった。
恋愛映画というものを見れば人間の恋愛が理解できるだろうか?
そんなことを期待しつつ、瑠奈はスクリーンへ目をやった。
「……ん? あれは」
隣で朱里夏が呟く。
なにかあったのかと思い、瑠奈はスクリーンから五貴たちのほうへ目をやった。
「レーザーポインターっ!」
兎極の座るイスのうしろに赤い点が……。
あれは間違い無くレーザーポインターであった。
「まさかっ!」
レーザーポインターの起点を追う。
そこには銃を構えた何者かがいた。
誰だ? いや、誰でもいい。
瑠奈は髪に刺さっている髪留めを掴み、銃を構えている奴へ向かって投げる。
「……っ」
髪留めは銃を持つ手に刺さる。
一瞬、こちらを見た女はそのまま劇場から出て行った。
「朱里夏?」
いつの間にか朱里夏の姿が無くなっていた。
ややあって……。
「逃がした」
「あっ」
奴を捕まえに行ったのか、朱里夏が戻って来てため息を吐く。
「けど姿はチラっと見た。もしかしたら知ってる奴かも」
「さっき外で見たって人ですか?」
「ああ。けど、あいつは死んだはず……」
死んだ人間が生きていた。
それが誰なのかはわからないが、五貴と兎極のデートを邪魔する障害になることは間違い無かった。




