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第155話 おにいのパパVS改造工藤純也

「と、父さんっ?」


 なぜ父さんがここに?


 理由のわからない状況が続き、俺はさらに困惑する。


「話はあとだ。まずはこいつらを倒す」


 不意に現れた父さんを警戒したのか、工藤たちは動きを止めていた。


「まあ五貴君のお父さん? 五貴君に似て良い感じのナイスミドルね。初めましてあたしは工藤純也。あなたの娘になるかもしれない女よ」


 そう言って工藤はウインクをして見せた。


「……お前、モテるんだな」

「そんな冗談を言ってる場合じゃないよ……」

「あ、あのわたしは逸見覇緒って言いますっ。久我島先輩とは今もこれからも素敵なお付き合いをさせていただきたいと思っていますっ」

「俺は久我島士郎だ。五貴をよろしく」

「父さん、あいさつしてる場合じゃ……」

「わかってる。さて、俺は警官だ。おとなしく逮捕されるなら痛い思いをしなくて済む。賢明な判断を期待するよ」

「さっきボールを投げたのもあなたね。悪いけど、逮捕されてあげる気は無いわ」

「じゃあやる気か?」

「ええ。五貴君はいただいて行くわよっ!」


 工藤の声と同時に周囲の工藤たちが一斉に襲い掛かって来る。

 覇緒ちゃんを庇いながら身構える俺だが……。


「ふん」

「えっ?」


 父さんの放った素早い蹴りが、襲い掛かって来る工藤たちを一掃した。


「頑丈な奴らだ。これは普通の人間じゃないな」


 倒した工藤のひとりを見下ろしながら、父さんは落ち着いた声音でそう言う。


「な、な……っ」


 残ったオリジナルの工藤は驚きの表情で退く。


「逃がさんぞ」

「へっ? がは……っ!?」


 一瞬で移動した父さんの拳が工藤の顔面を殴る。

 殴り飛ばされた工藤は地面を転がり、そのまま動かなくなった。


「つ、強い……」


 いやセルゲイさんと互角の喧嘩ができるのだ。

 父さんが強いのは当然だった。


「は、覇緒っ」

「あ、パパ、ママ」


 心配そうな表情で覇緒ちゃんの両親がこちらへ来る。


「大丈夫ですよ。娘さんに怪我はありません」

「は、はい。けど、警察官がなぜここに?」


 覇緒ちゃんのパパが口にした疑問は俺も持っていた。


「ああ、それは捜査上のことなんでちょっと……」

「そうですか……。ああ、五貴君、覇緒を守ってくれてありがとうっ。君は私が期待した通り、頼りになる男だよ。今後とも覇緒をよろしく頼むよ」

「わたしからもお願いします。結婚とかはまだ早いと思いますけども、覇緒とはこれからも仲良くしてあげてくださいね。よろしくお願いします」

「えっ? あ、はい」


 ご両親から覇緒ちゃんをよろしくと言われた俺は、無意識に肯定を返す。

 しかしこのよろしくにはなにか重い意味が込められているような、そんな気がした。


「しかしなんでこいつは五貴を……」

「あ、確か四宮春桜の命令とか言ってたような……」

「し、四宮春桜? 本当にそう言ったのか?」

「うん」

「そうか……」


 なにやら父さんは深刻そうな表情をする。


 四宮春桜。

 恐らく父さんはこれが誰かを知っているんだ。しかし父さんの様子からして、この人物が好ましくない者だというのもわかった。



 ……



 工藤は逮捕され、俺は朝に覇緒ちゃんとご両親へ別れを言って家へと帰る。それから俺は父さんに呼ばれて居間へと行った。


「父さん、話って?」

「うん……」


 深刻そうな表情をする父さんの前に俺は座る。


「話ってのは昨日のことだ。なんで俺があそこにいたか気になるだろ?」

「それは……うん。けど捜査上のことで話せないんでしょ?」

「まあ普通はそうだ。けど、お前にも関係のあることだから話しておいたほうがいいだろうって思ってな」

「俺にも関係が?」

「ああ」


 警察の捜査に関係しているなんて、嫌な予感しかしなかった。


「ロシアンマフィアのプーリアを覚えているか?」

「あ、うん」


 難波組と組んで日本の裏社会を乗っ取ろうとしていた組織だ。あのときはひどい目に遭ったのでよく覚えていた。


「あの連中がまた日本に入り込むことを画策しているらしくてな。お前を狙ってくるんじゃないかと思って、柚樹さんに話して俺がつけてたんだ」

「そうだったんだ」


 だから父さんはあの場にいたのか。


「じゃあ工藤はプーリアの命令で俺を攫いに来たってこと?」

「それはまだわからない。奴を取り調べてみないとな」

「うん……」

「向こうの警察と連携して捜査をしているけど、いつなにをしてくるかわからない連中だ。昨日みたいなこともあるから、気を付けるんだぞ」

「わかった」


 しかしまたロシアンマフィアと関わるかもしれないとは。

 俺はともかく兎極が……。


「あ、お、俺よりも兎極のほうは大丈夫なの?」


 兎極は日本最大の極道組織、北極会会長であるセルゲイさんの娘だ。

 プーリアとも因縁があるし、俺よりもよほど狙われそうだった。


「兎極ちゃんは大丈夫だ。とりあえず今は安全なところにいるからな。柚樹さんはあんまりよく思ってないけど、あそこにいれば安全だから」

「母さんがあんまりよく思ってないって……あ」


 兎極が今どこにいるのか?

 母さんがよく思わない安全な場所はひとつしかなかった。


「それなら安心かな……」

「ああ。それよりも工藤がお前に言った名前が気掛かりでな」

「俺に言った名前って……」

「四宮春桜だ」

「あ、うん。その、四宮春桜って父さんが知っている人なの?」

「まあな」


 あまり良い関係の知り合いで無いことは表情から察せられた。


「お前も会ったことがある」

「えっ?」


 会ったことがある……と言われても、記憶には無い。

 四宮春桜なんて名前は工藤の口から聞くまで聞いたこともなかった。


「その、四宮春桜って誰なの?」

「……」


 俺が問うも父さんは口を閉ざす。


「父さん?」

「……うん。いや、お前にはあいつのことを話さないほうがいいと思っていたからな」

「それって……」

「四宮春桜はな。お前の母親だ」

「えっ?」


 四宮春桜が俺の母さん?

 父さんの言ったことの意味がわからず、俺は困惑を極めた。

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