第145話 パンツを脱がされそうになるおにい
……あれから何日か経ち、入院していた俺は迎えに来た兎極と朱里夏さんとともに自宅へと帰った。
「優実ちゃんにはわかってもらえたんですか?」
「うん」
あのあと、当然の如く優実ちゃんはやっぱり朱里夏さんがハーティンだったと喜んだそうだ。改めて弟子入り志願もしてきたが……。
「ハーティンは教えてもらってなれるものじゃない。義理と人情を自らの力だけで理解してこそ、なれるものなんだと教えてあげたら納得してくれた」
「そ、そうですか」
それでなれるのは極道ではないだろうか?
まあ、優実ちゃんが納得したのならいいか。
「五貴君のことはハーティンと愛し合う王子様ってことにしておいたよ」
「てめえこのっ! いいかげんなこといいやがってっ!」
「まあまあ」
掴みかかろうとする兎極を俺は宥める。
「けど優実ちゃんのお父さんとお母さんは警察に捕まっちゃったな」
2人で危険な薬物を売って利益を得ようとしていたらしい。幸いにもまだ販売はしていなかったので、罪はそれほど重くはならないとのことだが……。
「うん。でもママによると、危険な目に遭ったことで2人はずいぶん反省しているみたい。もう二度とこんな馬鹿な真似はしない。娘のためにもって」
「それが本当なら優実ちゃんも安心だな」
2人が心の底から反省しているのかはわからない。
俺にできるのはそれが嘘じゃないことを願うだけだった。
両親が捕まっているあいだ、優実ちゃんはお父さんの実家へと預けられるとのことだ。朱里夏さんとの別れをだいぶ寂しがっていたが、しかたのないことだろう。
「あ、朱里夏さんのお母さんは……」
ボスを含めて中華マフィアは全員が逮捕。死者は出なかったものの、難波組の人間も銃刀法違反などで逮捕された。
マフィアとつるんでいた灯さんももちろん逮捕されていた。
「逮捕されたね。残念」
「残念?」
あんなことをされても、朱里夏さんにとって灯さんは実の母親だ。
逮捕されて悲しいという思いが……。
「裸にして縛り上げて航空便でアフリカの紛争地域へ送りつけてやろうと思ったのに」
「そ、そうですか」
やっぱり朱里夏さんだ。
血を分けた親子であろうと、敵であれば容赦がない。
「けど難波組が悪いほうへ行くことを防げてよかったですね。亡くなった朱里夏さんのおじいさんも喜んでると思いますよ」
「うん? じいちゃんは死んでないよ」
「えっ? けどなんか亡くなったみたいな感じだったような……」
「死んだなんて言ってない」
確かに死んだとは一言も言っていなかった。
「ヤクザはもういっぱいやったからって、じいちゃんは引退して旅に出たの。喧嘩最強になるんだって家を出て行ってそれっきり」
「朱里夏さんのおじいさんらしいですね……」
なんとも自由な生き方である。
「そういえばあの瑠奈って女だけど」
兎極が神妙な面持ちで語り出す。
瑠奈という驚異的な戦闘力を持つ少女はあのまま警察病院へ搬送されたそうだ。その後にどうなったかはまだ知らなかった。
「医者が検査したんだけど、普通の人間とは身体の作りが違ってたんだって」
「えっ? それってどういうことだ?」
「うん。なんか骨や皮膚が異様に頑丈で、筋肉も異常に発達してたそうなの。まるで戦うために生まれてきたような身体みたいって」
「戦うために生まれてきた……」
兎極と朱里夏さんを圧倒したり、撃った銃弾を掴み取ったあの身体能力は確かに普通の人間ではない。しかし戦うために生まれてきたなんて、そんなことが自然にあるとは考えづらいことだ。まさか作られた人間だとでも……。
「あ、で、結局、瑠奈は何者かわかったのか?」
あのときマフィアのボスは瑠奈を買ったとか言っていた。
一体どういう経緯でマフィアと関わることになったのか、それが気になることだ。
「うーん。マフィアのボスが言うには中国のオークションで買ったらしいの。どこでどのように育ったのかはわからないって。裏のオークションだから、出品者も不明とかで……」
「本人には聞いてみたのか?」
「それが……本人のほうは病院から逃げ出しちゃったみたいなの」
「逃げ出した?」
「うん。拘束を引き千切って窓から……」
あんな怪物が町中をうろついているなんてゾッとするような話だ。
被害が出る前に早く捕まることを願うしかない。
結局、瑠奈に関して分かったのは通常の人間じゃないということだけか。
「でもよかったよ。兎極も朱里夏さんも無事でさ。あのときはもう、みんな殺されるんじゃないかって怖くて」
「うん。けどごめんね。おにいを守れなくて……」
「いや、なに言ってんだ。俺のことよりお前が無事でなによりだよ」
「おにいがそう言ってくれるのは嬉しいよ。けどやっぱり……」
「……」
兎極が喧嘩に強くなったのは、俺がキレて異常な力を発揮しないようにするためだ。それができなかったことが悔しいという気持ちは察することができた。
しかしこれはキレてあの力を発揮しなければ兎極を守れないという俺の弱さのせいだ。もっと強くなって、あの力に頼らなくても兎極を守れるようにならなければと、俺は自分を叱咤した。
「でもあのときさ、嬉しかったよ」
「えっ? 嬉しかったって……?」
「俺の女って言ってくれて」
「あ……」
そういえばそんなことを言ったかも。
「まあ、当然と言えば当然だけど。わたし、おにいの女だし」
「そ、それはまあね」
「あれはあたしに言ったの」
と、朱里夏さんが俺の腹に抱きついて言う。
「五貴君の女はあたしだもんね。これは間違いの無い事実」
「てめえじゃねーよっ! どう考えてもあたしだろっ!」
「じゃあそれでもいいけど、あたしが五貴君の女なのは変わらない」
「てめえは違うのっ!」
「違くない。だってほら、あたしに抱きつかれて五貴君のこここんなに硬く……」
「うわっ!? ちょっ! 触っちゃダメですよっ!」
朱里夏さんの右手ががっしりと俺の竿を握る。
その瞬間、
「てめえこの野郎っ!」
兎極が朱里夏さんへ飛び掛かる。
「おにいのそれを触るなっ! てか離せよっ!」
「嫌だ。これはあたしの」
「てめえのじゃねーっ!」
「ちょーっ!?」
兎極も俺の竿を掴む。
2人の手に掴まれ、揺すられて俺のアレは大変なことになってしまう。
「離せってのっ!」
「これはあたしの。あたしの大事なところが予約してるの」
「なに言ってんだこの変態スケベ女っ!」
「好きな男の前ではいくらでもスケベになるのが女だから。ペロ」
「ひゃあっ!?」
頬をペロリと舐められビックリする。
「こ、このクソ女っ! もう許さねえっ!」
「許さなくてもいいし。ほら五貴君、早く服を脱いで。予約したモノを今もらうからさ。脱いで。脱ぎなさい」
「いやちょ、無理やり服を脱がそうとしないでくださーいっ!」
「なにしてんだ馬鹿女っ! こ、こうなったらおにいとあたしが結ばれるところを見せつけてやるっ! おにい脱いでっ! あたしにコレちょうだいっ!」
「ちょ、ちょうだいって……待てっ! お前まで俺を脱がそうとするなっ!」
「逃げちゃダメ。女に恥かかさないで」
「逃げる理由無いでしょおにいっ! わたしたちは相思相愛なんだしさっ!」
逃げようとする俺の身体を2人は掴んで離さない。
「いや、だからって……ふおっ!?」
ズボンを引きずり下ろされる。
「あと1枚だっ! 覚悟を決めておにいっ!」
「いただきます」
「助けてーっ!」
目をギラつかせた2人から俺は必死に逃げ回った。




