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第121話 おにいVS天二郎

 次の日、手紙に書いてあった場所へ兎極とともにやって来る。


 ここは解体予定の廃ビルだ。

 大島はなんで俺たちをこんな場所へ呼び出したのだろうか?


「大島は……まだ来てないのか?」


 俺たちは時間通りに来た。

 あいつももうすぐ現れると思うが……。


「おにい……」

「えっ?」


 なにやら神妙な面持ちの兎極に声をかけられる。

 その理由に俺も気付き、身体を強張らせた。


「やあ、五貴君、ひさしぶりだね」

「あ、あなたは……」


 奥から白髪混じりの髪をしたおっさんが出て来る。

 俺はこのおっさんに見覚えがあった。


「天菜のお父さん?」


 天菜の父親である天二郎さんだ。

 しかしなぜこんなところにいるのかわからなかった。


「……なるほど。どうやら嵌られたみたいだね」

「嵌められって……あっ」


 おじさん以外にも男たちが現れる。

 全員が銃を持っており、その銃口がすべてこちらへ向いていた。


「お、おじさん、これは一体……」

「その子が言った通りだよ。君たちを嵌めたんだ」

「えっ? じゃあここへ大島が来るってのは……」

「嘘だよ」


 おじさんはニッコリ笑ってそう答える。


「なるほど。竜三郎は仁共会と組んでいて、ついでに兄貴のあんたとも組んでたってわけね」

「その通り。悪いけどお嬢ちゃんには俺たちと来てもらう。君には天菜の顔を傷つけたお礼もしたいしね」

「はっ、あいつの親らしいクソ野郎だな」

「なんとでも言えばいい。この場で君にできることはそれくらいだからね」


 周囲には無数の銃口。

 いくら兎極が喧嘩に強くても、これでは確かになにもできない。


 俺がなんとかしなければ。

 しかしどうしたらいいのか……。


「用があるのはあたしにだろ? なんでおにいもここへ呼んだ?」

「五貴君はついでだよ。仁共会のお嬢さんが、五貴君を全国模試へ行かせたくないようでね。病院送り程度に痛めつけてほしいそうだ」

「あのクソ女……っ」


 兎極の表情が怒りに歪む。


 俺のことはいい。

 とにかく兎極を逃がさなければ……。


「さて、まずはお嬢さんの頼みを聞いてあげるとするかな」


 と、天二郎がこちらへと歩いて来る。


「五貴君、俺は君と天菜がうまくやっていると思っていたよ。それが天菜を裏切って、あの子の顔に傷をつけるような事態を起こすなんてね」

「それは違います。俺を先に裏切ったのは天菜ですし、顔に傷がついたのはあいつが先に銃を撃ったからです」

「言い訳なんて男らしくないね。とにかく君には制裁を受けてもらうよ。3か月は入院が必要なくらいにね」

「ぐあっ!?」


 天二郎の拳に打たれて俺は後ずさる。


 かつて空手でクマを倒したとも聞いたことがある。

 その拳は今も健在のようだ。


「おにいっ! この……っ」

「君はおとなしくしていなさい。いくら君が強くても、銃弾を弾き返せるわけじゃないだろう?」

「くっ……」


 銃口はすべて兎極に向けられている。

 俺に加勢をすれば、撃たれるかもしれなかった。


「……お、おじさん。俺がもしもあんたに勝ったらどうする?」

「君が俺に? それは無理だよ。けど、もしも勝ったら2人とも無事にここから帰してあげてもいいよ」

「本当ですか?」

「嘘か本当かはともかく、君はやるしかないんじゃないかな? それっ!」


 蹴りが飛んできて俺は咄嗟にかわす。


「へえ、天菜に打たれるだけだった君が、成長したじゃないか。けどいくら避けたって勝つことはできないよ」


 天二郎の攻撃をとにかくかわす。


 空手の技は天菜以上だ。

 一撃は重く、丈夫な俺でも食らえば大きなダメージがある。


「このっ!」

「ははっ! そんな拳は当たらないよっ!」


 俺の攻撃はうまくかわされてしまう。


 勝てない。

 などと弱音を吐いている場合じゃない。勝たなければ。兎極を守るためにも。


 兎極を守る。

 そう思うと、俺の中に強い力が湧くのを感じた。


「ふははっ! いつまでも避けられないだろう? 疲れて動けなくなったときが最後だよっ! そらっ!」

「ぐっ……」


 拳が俺の胸を打つ。

 しかし俺は食らった一撃に耐えつつ、その拳を掴み、


「ふんっ!」

「ごあっ!?」


 反対の手で天二郎の鳩尾を思い切り殴る。

 瞬間、目を見開いた天二郎はそのままうつ伏せに倒れた。


「はあ……はあ……ぐっ」


 一瞬だが、あの強い力を使ってしまった俺も身体に痛みを感じて膝をつく。

 しかし天二郎は倒した。このまましばらくは起きないだろう。


「おいおい、組長の兄貴やられちまったぞ? どうする?」

「どうするもなにもねーよ。このままその女を連れてずらかるぞ」


 やはりこうなったか。

 天二郎が気を失っていなくても、恐らくこうなっただろう。


 このままでは兎極が攫われる。どうすれば……。


「よし、それじゃあ俺たちと……ぐあっ!?」

「えっ?」


 そのとき男の手になにかが当たり、持っていた銃を落とす。


「おいなにやって……うあっ!?」


 男たちの手から弾かれるように銃が落ちていく。


 一体なにが起こっているのか?

 俺は兎極と顔を見合わせる。


「く、くそっ! 仲間がいやがったのかっ! ずらかるぞっ!」


 男たちは腕を抑えて廃ビルから逃げ去って行く。


「ど、どうなってるんだ?」

「もしかしてこれ本当に……」

「えっ?」


 腕から外した腕時計を兎極は見せてくる。


「野々原さんのお父さんがくれた時計? それがどうかしたのか?」

「あぶない目に遭ったら裏の赤い部分を3回押してほしいって。なんか嫌な予感がしてたから、ここへ来る少し前に押してみたんだよね。そしたら……」

「そ、そんな馬鹿な……」


 野々原さんのお父さんが俺たちを危機から救ってくれたというのか?


「けどそうだとして、どうやって俺たちを助けたんだ?」

「たぶんサプレッサー付きの銃で狙撃をしたんだと思う。このビルのどこかから」

「そ、狙撃? なんで野々原さんのお父さんがそんなこと……」

「あの人と前に握手したとき、妙に固い部分があったの。たぶんあれは頻繁に銃を撃っている人の手なんじゃないかって思って」

「そうだったのか……」


 そういえばあのとき、妙なことを兎極が言っていたような気がする。あれは野々原さんのお父さんがなにか危険な人物なのではと危惧していたのだろう。


「たぶん軍人さんなのかと思った。けど、違うかもしれない。もしかしたら野々原さんのお父さんは……」

「……」


 軍人以外で銃を頻繁に撃つ仕事。

 そんなものは多くない。


「なんて言うか、あの人からはパパに似た雰囲気を感じたの。性格とかそういうのじゃなくて、なにか裏で生きている人特有の雰囲気みたいな」

「じゃあ海外のマフィアとか?」

「わからない。けど、野々原さんには言わないほうがいいね」

「うん……」


 野々原さんは普通の女の子だ。自分の父親がマフィアだなんて知ったらひどくショックを受けるかもしれない。

 しかし俺たちを助けてくれた。

 裏社会の人間だとしても、きっと悪い人ではないのだろうと思った。

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