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第111話 キスを邪魔され怒る義妹

「沼倉さんが入院?」


 登校の途中で兎極からそんな話を聞いて驚く。


 一昨日に鉄砲玉に狙われたばかりだ。

 まさかの事態を想定して俺は不安になった。


「うん。昨日の夜に沼倉組の若頭さんから連絡があってね。命に別状は無いみたいだけど、全身に大怪我を負って意識が戻らないらしくて……」

「そっか……」


 とりあえず命に別条が無くてよかった。

 しかし意識が戻らないほどに重傷なのは心配だった。


「沼倉さんが入院しちゃって、北極会は大変みたい。パパも今はいないしね」

「じゃあ誰が指揮を執るんだろう?」


 ヤクザの役職とか詳しくないから、若頭の下が誰なのかわからない。


「若頭補佐の誰かじゃないかな? でも、その若頭補佐のひとりにちょっと気になるのがいるんだよねぇ」

「気になるのって?」

「工藤竜三郎って奴」

「工藤?」


 工藤と聞いて、俺の頭にまさかの可能性が浮かぶ。


「そいつさ、どうもあのクソ女のおじきらしいの」

「天菜の……」


 まさか親戚にヤクザがいたとは。

 付き合いは長いが、それは知らなかった。


「沼倉組の若頭が言うには、今回の件は工藤竜三郎は仕組んだことじゃないかって沼倉さんは疑ってたみたいね」

「そうなのかな?」


 天菜はあんな奴だが、おじさんまであんなに下衆とは限らないのでなんとも言えない。しかし沼倉さんが疑うなら、それなりの理由があるのだろう。


 まあなんであれ、北極会のことは俺が口を出せるようなことじゃない。

 事の経緯を見守るしかなかった。



 ……



 それからしばらくして、北極会周辺が慌ただしくなる。

 傘下の組が半グレ連中の襲撃にあっているそうなのだ。理由は不明だが、セルゲイさんと沼倉さん不在で北極会周辺はなにか荒れているようだった。


 警察も忙しくなり、暴力団担当ではない父さんも仕事が増えて家には滅多に帰って来なくなっていた。


「なんか大変みたいだね」


 全国模試に向けて家で勉強をしながら兎極へと声をかける。


「おにいもねっ」

「いやまあ……」


 大変というのは勉強のことではない。

 背中に抱きついて眠っている朱里夏のことである。


「なんでまたそいつがいるのさっ!」

「なんでって……来るから?」

「追い返せばいいじゃんっ!」

「朱里夏さんは俺を心配して来てくれてるんだし、そんな追い返すだなんて……」

「わたしがいるから大丈夫でしょっ!」

「いや、金翔会とか風間香蓮については朱里夏さんのほうが詳しいから……」

「むきーっ!」

「ぐえーっ! く、首はやめて……っ!」


 兎極に首を絞められて呻く。


 か弱い女の子の首絞めならたいしたことないが、兎極に絞められたら本当に死んでしまうかもしれない……。


「もういいよっ! それでテストは終わったのっ!」

「あ、う、うん」


 首から手を離され、ホッとしつつ俺は頷く。


 今は去年に行われた全国模試と同じ問題のテストをやっている。

 これの点数が良ければ今年のもかなり期待できるはず……。


「どれ、採点してあげる」

「うん」


 テスト用紙を渡して兎極に採点をしてもらう。


「……わあ。すごい。全教科平均で80点以上だよ」

「本当?」


 自信はあったが、まさかそこまでとは。


「これならかなり期待できるね」

「そ、そうだな」


 落第生だった俺がここまで学業を伸ばせるとは。

 これもあの電撃があったおかげか……。


「じゃ、じゃあさ、ご褒美あげないとね」

「あ……」


 そういえば60点以上を取ったらキスのご褒美をもらえる約束だった。


「う、うん」

「く、口にしてあげてもいいけど?」

「そ、それは……その」

「ううん。もうダメって言ってもするっ!」


 兎極が俺の顔に向かって唇を寄せてくる。


「と、兎極……」


 俺も覚悟を決め、それを受け入れようと目を瞑る……が、


「んぐっ?」


 不意に顔が横を向く。

 何事かと目を開くと、背中に抱きついている朱里夏が俺の顔を掴んで横を向かせていた。


「こ、この女、眠ってるんじゃ……」

「すかー」


 寝息は立てていた。


「た、タヌキ寝入りしてるんだろっ! おにいから離れろこのっ!」

「すかー」


 しかし朱里夏は離れない。

 兎極が引っ張ろうが叩こうが、平気で寝息を立てていた。


「く、くそっ! 今度こそ鈍器かなにかで殴って引っぺがし……うん?」


 と、そのときスマホが鳴り、兎極は手に持って電話に出る。


「はい。えっ? あ、はい。わかりました」


 少し会話をして通話を切った兎極は浮かない顔であった。


「どうしたの?」

「沼倉さんの意識が戻ったんだって」

「ああ、それはよかった」

「うん。けど、まだ絶対安静なのに退院するって聞かないらしくて、説得をしてくれないかって若頭さんが電話をかけてきたの」

「そ、そうなんだ」


 組の状態を聞いたのだろう。

 今の慌ただしい状況を聞いて病院でおとなしくできる人ではないというのは、容易に想像ができることだった。


「だからわたし病院に行かないと」

「俺も行くよ」

「……それも連れて?」

「し、しかたないよ」


 朱里夏はそのうち起きるだろう。


 俺たちはタクシーを呼び、沼倉さんが入院している病院へ急いだ。

 お読みいただきありがとうございます。


 新作「陰キャのお姫様と呼ばれる女の子を助けたら、俺の恋を手助けしてくれることになった。けど俺が本当に好きなのは……」の投稿を開始しました。

 こちらもよろしくお願いいたします。

 https://book1.adouzi.eu.org/n9847kv/

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