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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第五十一話 用意周到の防護策

昨日は投稿が間に合わなくて、本当に申し訳ありません!


長らくお待たせしました! 再開した「クオリアン・チルドレン」をよろしくお願いします!

 




「流石でございますぅ。まさか魔物達をもろともしないとは…………この私ぃ~脱帽でございますよぉ」

「流石、か……前にも聞いたな。大してそう思ってないじゃないのか?」

「そんな事はございませんよ。本当に、心底から申し上げているのですよ?」


 突如、戦場の真上――飛竜に乗って、空の上で滞空していたカタラが器用にお辞儀する。戦闘の真っ只中だったというのに、あれほど喧々(けんけん)囂々(ごうごう)としていた戦場が静まり返っていた。


「……魔物が動きを止めた?」


 カタラが現れた瞬間、警戒心むき出しで周囲を観察していた柚子葉が現状の静けさに驚く。魔物が直立不動で立っているのがその証拠だ。おそらくは使役しているカタラによる静止の指示が下っているのだろう。


「何の用だ。まさかとは思うが、手を引いてくれるのか?」

「一度始めた戦いを止める阿呆などいませんよぉ。当初の目的を完遂いたしましたので、そのご挨拶をと思ってきた次第でございますぅ」

「なんだと…………?」


 世界に危機が訪れる…………神族であるアリスティアの言葉だったが、カタラが仕向けてきた魔物は数も半端なもので、質もお世辞にも良いとは言い難いものだった。


 数が多いだけの、まさに寄せ集めのような軍勢。最初に修練場で見た危険度Aの魔物数匹以外、宗士郎達の相手になるような魔物はいなかったのだ。魔物があまりにも貧弱で逆に何か罠があるのでは、と宗士郎が勘ぐってしまう程にだ。


 そのような状況下でカタラの目的が達成されたという事は、やはり時間稼ぎの線が濃厚だったという訳だ。


「ああっとぉ……我が主様の、とだけお付けしましょうかぁ」

「――呼んだか…………カタラよ」

「ッ!?」


 カタラが喋ったと同時に、大気が恐怖で震えあがる程に、おどろおどろしい静謐な声が響き渡った。


 その直後、カタラの真横の空間がグニャリと歪む。その向こう側から、女のように長い真紅の髪をなびかせ、中性的な顔の男が姿を現した。


「嗚呼っ、我が最愛の主様ぁ……!」

「やめぬか。目的は成し遂げたのだ。早々に戻るとしよう」

「はいぃ!」


 カタラが主と呼ぶ人物はこちらに目もくれず、カタラと会話する。まるで路傍の石のように、下にいた宗士郎達を無視する。


「っ……!」


 だが、その態度に苛つきこそすれ、動く事は叶わなかった。


 男が発した言葉、存在感。それらから感じる身も毛もよだつような圧倒的恐怖が宗士郎達の身体を縫い付けていたのだ。


 宗士郎が今まで対峙した何よりも、その中性的な男の発するオーラは常軌を逸していた。危険度SのD.Dディザスター・ドラゴンの比ではない。中性的な男が獅子だとすれば、D.Dは赤子のようなものだった。


 圧倒的恐怖が支配する中、辛うじて身体を動かせた宗士郎はカタラ達の方ではなく、柚子葉の方に視線を向ける。


「……ぁ、ぁぁ…………」


 柚子葉はカタラ達を視界に入れながら、膝を折っていた。あまりの恐怖に立っていられなかったようだ。宗士郎でさえ、立っていられるのがやっとの事なのだ。むしろ意識を保っている事を褒めるべきだろう。


「そういえばぁ、鳴神様の事を忘れていましたねぇ〜。我が主様の魅力には遠く及ばないので、すっかり忘れていましたぁ!」

「ほう、その者が……」


 思い出したように、カタラは宗士郎の事を見やると、中性的な男もようやく宗士郎達に視線を向けた。


「っ……お前がカタラの上司か。どんな魑魅魍魎かと思えば、なんだ……俺の父さんよりも恐くないなっ」

「――貴方ッ! 我が主様の御前で、そのような言動……ッ、控えなさいッ!」

「良い、カタラよ。どうせ羽虫程度の者だ、無様に羽をばたつかせたいのだろう」


 男から視線を向けられた瞬間、支配されていた空気がほんの僅かだけ緩み、話すのを許されたかのように宗士郎は言葉を絞り出す事に成功する。


 絞り出した言葉は子供が親の怖さと誰かを比べて強がるように稚拙なものだったが、こうまでして虚勢を張っていなければ、恐怖に押し潰されてしまいそうだった。


「汝が鳴神 宗士郎か。此度の目的を達成できたのは汝とその仲間故だ。誇るがいい」

「俺達の……だと? 何のことかわからないが、まずは名を名乗れよ」

「おお、済まぬな。あまりにも矮小過ぎる存在故、名乗る気にもならなかったぞ」


 この眼前の男の名乗る気力さえ、湧かせられなかったあまりの悔しさに宗士郎は歯噛みした。


 存在感で気圧されている上に、今戦えば一合もしないまま、存在もろとも消し飛ばされているイメージすら脳裏を過ぎった。


 それほどまでにこの男と宗士郎の力量の差はかけ離れている。それを感じさせる程の圧力がこの男にはあった。


「だが、目的の礼だ。その魂に我が名、しかと刻め」


 そんな宗士郎の震える眼を見て満足したのか、はたまた気まぐれだったのか男は口を開いた。


「――我が名は魔神カイザル=ディザストル。魔界にいる魔族、魔王の全てを統率し、いずれは物質界を支配する者だ」

「主様ぁ……! 素敵ですぅ~!」


 ――魔神。


 人ではなく、神だというのか。神だというのならば、先程から感じている圧力も合点がいく。


「主様はぁ~、『メルディザイア』――魔界の頂点に立つお方で、鳴神様達人間がおっしゃる異界から来たのですよぉ」

「…………ッ!」


 今回の騒動の親玉が出てきたというのに、身体が全く動かない。魔神や物質界、魔界など気になる単語がズラリと出たが、思考する間もなく、中性的な男――カイザルは言葉を続ける。


「汝らが使う力……異能力といったか。あれは素晴らしいな。異能力の源であるクオリアを魔力に変換する方法がある我には汝ら人間はエネルギーの詰まった実といった所だ。だが、直接変換する事もできぬ故、汝らに我が配下達の一戦交えてもらったのだ」

「はっ? クオリアを変換……エネルギーだと?」

「そうだ。我が配下に調べさせた所、汝らが異能力を使った際、エネルギーの残滓がその場に佇むのだ」


 異能を使った際にクオリアの残滓が残るなど、聞いた事のない話だ。だが、カイザルの言う通りだとするならば、宗士郎達は敵の掌で踊っていたという事になる。


「つまり、俺達はお前の良いように利用され、餌を提供していたって事なのか……っ!?」

「中々、頭の回転が速いな。その通りだ。おかげで当初の予定通り、いやそれを上回る量の残滓を確保できた。だからこそ、礼を言うぞ。人間」


 してやられた! とカイザルを睨み付けながら後悔する。時間稼ぎの目的は水面下で自動的に達成へと向かっていたという事。それを知らなかったにしろ、間抜けにも手助けしていたという現実を叩きつけられる。


「さて、我は行くとしよう。カタラよ、始末はつけておけよ?」

「はいぃ! お任せください我が主様ぁ!」

「ま、待てっ…………!」


 カイザルは宗士郎達に背を向け、歪めていた空間へと向かう。静止の声を必死に上げるも、カイザルは興味を失ったように見向きもしない。自分を前にして動けない者など、どうでもいいといった様子だ。


「ああ、そうだ。余興に面白い忠告しておこう、人間よ」


 だが、カイザルはその前に振り返った。宗士郎の言葉に反応したというわけでもない。


()()()()()には気を配る事だな」

「っ!? どういう事だ!」

「汝らが生きていたのなら、再び相見えよう。ではな」


 非常に気掛かりなセリフと共に、カイザルは歪めた空間へと入り、姿を消していった。残されたカタラは恍惚とした表情でうっとりとしつつも、消えたカイザルに向けて、お辞儀していた。


「さてぇ〜! ではさっさと始末してしまいますかぁ!」


 両手をパンっと合わせ、恍惚とした表情を消し、楽しそうな笑みを浮かべるカタラ。カイザルが姿を消した事により、圧力はなくなったが、カタラに何らかの力が収束していくのがわかる。


「我が主様と鳴神様達が再び会う機会など与えませんぅ〜。仮定の話ですし、生きていたらの話ですからぁ」

「っ、で? どうする気なんだ? 情けない話だが、カイザルには敵わなくても、お前の使役する魔物に負ける気はさらさらないんだが」


 カイザルの圧力に震えていた身体を鼓舞し、再び刀を構える。目の前にいるのは圧倒的な覇者ではなく、それを崇拝する信者。魔物を使役し、自らは高みの見物をする者に負ける事などあり得ない。


「そうですねぇ〜、私自体はものすご〜く弱いのは百も承知ですしぃ、鳴神様に勝つのも無理でしょう。ですが、何か勘違いをしていませんかぁ?」

「何を勘違いしてるって言うんだ」

「私がいつ、これが本気などと言いましたかぁ?」


 戯けた態度を取るカタラがクスクスと笑い、その手に魔法陣を描いた瞬間、


「「GGYAAAAAAAAッッッ!!!」」


 ――天地が震撼した。


 周囲にいたゴブリンやオーク、その他の魔物全てが唸りを上げ、全身の筋肉を隆起させていく。おそらく、宗士郎達の前にいる魔物だけでなく、響達の場所にいる魔物までも同様の現象に見舞われているだろう。


身体強化(フィジカルブースト)ぉ~と、戦力増強もかねてぇ~魔物召喚(サモンサーヴァント)ぉ!」

「っ、柚子葉! いつまで惚けてないで、一旦離れるぞっ!」

「え、お兄ちゃん!?」


 このままカタラの、魔物の中心地にいると不味いと考えた宗士郎はカイザルの圧力にやられていた柚子葉を掴み、無人の家の屋根に飛び乗る。


「どういう状況なの!?」

「奴の主、カイザルが消えた後、カタラが魔物の強化を図ったんだ。あそこに居たら、圧殺されていた可能性だってあった。しっかりしろ」

「……うん。あの圧力も消えたし、まだまだ戦えるよっ」

「その意気だ」


 柚子葉の眼に光が戻ったのを確認次第、現状把握に努める。カタラが行った身体強化(フィジカルブースト)の影響で、危険度Eのゴブリンが危険度Cにまで格上げされているように取れる。


 その上、単体なら問題のない魔物も群れで襲われれば、危険度はグンと上がる。今の魔物達は危険度A相当の魔物のよりも危険だと推測できる。


 それにもう一つ気がかりなのは、カタラの魔物召喚(サモンサーヴァント)だ。そのままの意味で取るなら、使役している魔物を呼び寄せるものだと思うのだが、今の所は何の変化もない。


「アハハハハハッ! 主様に粗雑な言動を働いた罪、死をもって(あがな)ってもらいますよぉ!」


 残っていた魔物が強化されている影響で、今までとは段違いの速さで宗士郎達に近づこうと、屋根を上り、肉薄する。


「来るぞ柚子葉!」

「うん!」


 一瞬で背中合わせとなり、背中を預けあう。そして、弾き出されるようにそれぞれ攻撃を仕掛ける。


刀剣召喚(ソード・オーダー)――斬壊(デストラクション)ッ!」


 刀身を屋根へと突き刺し、異能の力で剣山を築く。下から突き出されるように生え出た幾つもの刀身がゴブリン達魔物を串刺しに。その勢いで新たに創生した刀を握り、立ち塞がる魔物を根切りしていく。


雷心嵐牙(テンペスター)! ――雷斬ッ!」


 対して柚子葉は身体を放電させ、電気の鎧を身に纏う。続けて右手に感覚拡張(クオリス)を用いて雷で構成した刀を顕現させ、敵を尽く焼き切っていく。


 攻撃でできた隙を狙って、ゴブリンが棍棒を振りかざすが…………


「――グギャバッバババッバアアアッ!?」


 柚子葉の身体に触れる前に高電圧の鎧が棍棒を炭と化し、ゴブリンの身体を感電死させた。


 例え強化されていても、強化された身体に慣れていない魔物はその高揚感のままに襲い掛かってくるのはあまりに無謀というものだ。


 こちらの攻撃で着実に魔物の数を減らしていくが、カタラの余裕の笑みは崩れない。むしろ、この状況を楽しんでいるさえいる。


「頑張って、魔物を速~く処理してくださいねぇ? さもないと、望まない結末が待ち受けているかもしれませんよぉ!」

「……速く? 何のことだ…………っ!?」


 眼前の敵を斬り捨てた後、周囲を見渡す。みなもと亮のいる西、そして学園の方向の上空に巨大な魔法陣が描かれていた。


「あはぁ、バレちゃいましたかぁ? 魔物召喚(サモンサーヴァント)で強力な魔物を召喚していますぅ~! 鳴神様の世界で言う危険度Sの魔物を、ねぇ~?」


 魔法陣からゆっくり巨体が下りてくる。距離が開いていてもわかる程に大きな、山のような魔物が。


「そして、鳴神様にもプレゼントフォー・ユーですよぉ! 鳴神様には魔界で最強の硬度を持つ魔物……アダマンタートルですぅ!」


 言われて気付く。


 宗士郎達の上空に他の場所と同じ魔法陣が浮き上がっており、そこから徐々に魔物が降りてきている現状に…………


「柚子葉! すぐにここから離れろ!」


 宗士郎が柚子葉に注意を促した瞬間、


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


 その巨体が空を切って自由落下、瞬く間に地面へと舞い降りた。


 大地が割れて砂塵が巻き起こり、下にいた魔物は全て跡形もなく圧殺されてしまった。


「そしてぇ~、学園方向にいる魔物の猛攻撃ぃ~!」


 間隙もなく、カタラが指示を出すと、巨大な魔方陣から降りてきた危険度Sらしき魔物が灼熱の劫火を学園に向けて吐き出す。


「アハハハハッ! これで学園にいる低能共はぁ~始末完りょー…………ぇ?」


 既に学園を焼き滅ぼした気になっていたカタラが突然目を見開いた。


「……え?」


 現状が気になった柚子葉も学園の方向を見て唖然とする。


 だが、その反応は当然ともいえる。なぜなら…………


「よくやった、和心」


 灼熱の劫火で焼き尽くされた筈の学園が巨大な結界に守られていたからだ。


「な、なぜ…………どういう事、ですかぁ?」

「ようやく本当に驚いた顔が見れたな。攻められる前から既に手は打っていたんだよ。なあ、和心?」

『――はいでございます! 大成功でございます!』


 宗士郎が軍服の上着から一枚の札を取り出し、話しかけると元気いっぱいの声音が聞えてくる。


「もしかして、今朝学園に着いてからあまり姿を見なかったのは…………」

「ああ。いざという時の為に、和心に結界の準備をしてもらっていたんだ」

『生徒の皆様に回収される事を防ぐ為に色々と工夫しましたが、間に合って良かったです!』


 宗士郎の持った札が光を放ちながら点滅する。


 そう。


 学園に来た理由は応援という名目だったが、本当の理由は宗士郎に頼まれて、いざという時に学園を覆える程の結界の準備をする事だった。カタラが来た時に結界が発動しなかったのは、敵の侵入を阻むものではなかったからだ。


 とどのつまり、東側を手薄にし、学園で防衛線を張るようにしたのは、結界による守護が働き、皆を守る事が可能だと想定しての事だったのだ。今頃は凛以外の結界の事を知らない人は度肝を抜かれている事だろう。


「そういう事でしたかぁ…………やはり一筋縄ではいかないようですねぇ、鳴神様ぁ!」

「ああ、そういう事だ。それと響達も心配する必要もないしな。今の皆なら、危険度Sの魔物はおそらく倒せる」

『むぅ、鳴神様を様付けするとは、なにやら気になる会話ですが、そんな奴は早々にぶった切ってくださいね! では私は防衛に戻ります!』


 カタラがやけに嬉しそうな表情を受かべる。今の会話が気になった和心は私情を思いっきり挟んだ後、札による会話を切り上げた。


「はは、和心ちゃんらしいね」

「っくく、だな。じゃあカタラ。心配事もなくなったわけだから、そのアダマンタートルとやらを倒して、お前も斬る。いくぞ?」


 宗士郎と柚子葉はそれぞれの刀を構えなおし、魔物共に向き直るのだった。





圧倒的な実力差を感じさせる異世界の魔神。

忠告された気になる言葉。


現状を打破する為、宗士郎達は奮闘する。


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