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異能学園の斬滅者 ~創刀の剣士は平穏を守らんとす~(旧クオリアン・チルドレン)  作者: お芋ぷりん
第一章 学園編

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第四十三話 合同特訓開始

 




「みなも! もっと判断は迅速に!」

「はい! てぇええやあ!」

「宮内君! ちゃんと防げよ!」

「はい! 沢渡先輩!」


 学内戦を二日後に控えた平日。


 普通の授業を中止し、修練場にて、上級生下級生合同の特訓が繰り広げられていた。


 接近戦に持ち込まれた際の対処法として、楓がみなもに徒手格闘の手解きを。響が柚子葉の同級生の男子、宮内 大雅に異能の可能性を広げる為の特訓をそれぞれ行なっている。


 巨大な修練場のほとんどが特訓の為に集まった生徒達で埋め尽くされていた。安全性も考え、凛を含めた教師陣がそれぞれ対処できるように配置されており、COQ(コーク)も修練場全体をカバーできるように最大出力で展開されている。


「皆、気合入ってるね〜。もう明後日に学内戦が迫ってるからかな?」

「…………」

「兄さん?」

「ああっ、すまない。ボーッとしてた」

「もう、しっかりしてよね」


 宗士郎の意識は目の前で行われている特訓に向いていなかった。もちろん、本当にボーッとしていたわけではない。合同特訓が開始する前に宗吉に話された事が頭に引っかかっていたからだ。


 柚子葉に注意され、意識を一時的に引き戻したが、また直ぐに思考を巡らせる。宗士郎は宗吉に話された事を思い出していた。





「学園長、依頼完了しました」

「うん、お疲れ様。秀虎にも聞いたよ。結構、やらかしたみたいだね」


 最初の授業が始まる前、宗士郎が学園長室に赴き、依頼を達成した事を伝えると、労いの言葉と笑いをもらった。どうやら、毒島工業の御曹司である毒島 羚児を斬り刻んだ事の顛末を聞いたようだ。


「あれは仕方ない事です。楓さんをモノ扱いしたんですから」

「それなら仕方がないね~、うん。それで、他に何か話したい事があるんじゃないかな?」

「わかりますか、流石ですね」

「何年一緒にいると思ってるんだい? これくらいは当然だよ」

「そうでしたね…………和心、入っていいぞ!」

「はい!」


 宗士郎が学園長室の向こう側に呼び掛けると、元気な声が返ってきた。そして、ドアがゆっくりと開かれ、声の主が姿を現した。


「鳴神様~!」

「和心、ここに座ってくれ」


 ステテテテー! と小走りで近づいた後、宗士郎に促されたソファにストンとお尻を落とした。


「可愛らしい子だね。蒼仁君の隠し子かな?」

「隠し子じゃありません。お巫山戯(ふざけ)が過ぎますよ、宗吉さん。この子はこれからする話について、おおよその事態を把握しています」


 宗士郎の話を聞いて、訝しげに思ったのか宗吉が和心に視線を向ける。


「この子が? どういう事かね?」

「それはこれから説明します。和心、本当の姿を見せていいぞ」

「わかりました、鳴神様! うにゅ~~っ!!!」

「これは……」


 ポンッという音と共に神力で消していた異種族の身体的特徴である耳と尻尾が姿を現す。その光景を見て、学園長である宗吉も驚きを隠さないでいた。


「この子は異種族、狐人族の和心です。訳あって、うちで保護してます」

「和心でございます! よろしくお願いします!」

「あ、ああ……よろしく」


 宗吉が驚きつつも返事をする。何も異種族である和心を見せて、驚かせるのが目的ではない。


「和心を連れてきたのは、これから起こるかもしれない事態について説明する為です」

「……詳しく聞こうか」


 宗士郎の真剣味を帯びた顔付きに、宗吉も瞬時に気を引き締めた。流石は学園や会社を率いる人だ。


 それから、和心も交えて話を始めた。


 まずは、これから起こる事態についての基礎知識として、異界の門(アストラルゲート)の事を和心に説明してもらい、現状を話した。


 世界の理を無視して、異なる世界同士が繋がった事により、異界の門が不安定になっている事。年々、不安定化が進み、時空の歪みが大きくなった事で、異界から流れてきた魔素の蔓延。それにより、魔物が活性化し、活動するはずのない時間帯での魔物の出現。そして、近いうちに魔物の大群が押し寄せてくるかもしれない事。


 和心の全ての説明を聞いた宗吉は信じられないといった顔をしていた。


「にわかには信じられないね……まさか、そんな事になっているとは」

「信じられないのも無理はございません。魔素の存在を知らないこちらの世界の人達が魔素を認識する事は出来ないのですから」

「その魔素が原因で魔物の大群が来るかもしれない。だから、学内戦を延期、もしくは中止にして、警戒態勢をとるべきだと思ったんです」

「なるほどねえ……だからこそ話に説得力を持たせる為に、そこら辺の事情に詳しい異種族の和心君を連れてきたわけか…………」


 宗吉がしばらく思案にふける。これからどうするべきかを頭の中の情報と照らし合わせて考えているのだろう。できる事なら学内戦を中止し、自衛隊と連携して事に当たりたいものだが…………


「いや、学内戦は中止にするつもりはないよ…………」


 宗士郎のその淡い期待は宗吉の一言によって、切って捨てられた。思わず、冷静さを失って訳を追求する。


「っ!? 何でですか!? 生徒の事を誰よりも大事に思っている学園長なら、こんな決断は……!」

()()()()()()()()()()()()()()()()だよ。宗士郎君」

「…………っ!?」

「鳴神様…………」


 和心の心配した声が聞え、冷静さを欠いていた事に気付く。頭が急速に冷えていき、落ち着きを取り戻すと、宗士郎は改まって訳を聞く事にした。


「…………どういう事なんですか、学園長」

「訳を話すよ。実は…………」


 宗吉の説明によるとこうだ。


 宗士郎達が賭博場に潜入していたのと同時期に翠玲学園内に侵入者が現れ、危険度A、Bの魔物を数匹解き放ったそうだ。幸い、魔物自体はその場に居合わせた先生である凛が異能で処理したが、侵入者が耳を疑うような話をしてきたのだ。


「学内戦というものがあるらしいな。それを行わなければ、街に数百もの魔物を放つ」


 その話をした後、逃げた侵入者を取り逃がしてしまい、行わなければならない理由を問いただす事は出来なかったが、侵入者が魔物を難なく手懐けていた事がその話により真実味を与えた。


 理由もわからず、街の人々を人質に取られてしまったが故に、凛から話を聞いた学園長である宗吉は素直に従うしかなかったそうだ。


「だから、学内戦は行わなければいけないんだ」

「…………魔物を手懐けていた? それって、もしかして…………」

「何か知っているのかね?」


 宗吉が深刻そうに告げる。宗吉の説明の中に、何かひっかかりを覚えた宗士郎は頭の中の情報を漁りつつ、容姿について聞きだす。


「その侵入者はどんな姿だったかわかりますか?」

「その場にいた神代君の報告によると、〝白髪の女性で肌は浅黒く、黒一色のフード付きの外套を来ていた〟そうだ」

「……やっぱりか!」


 宗士郎は膨大な情報の山から、金塊とも言える情報を引き当てた。これだという確信が胸の内を満たしている。


「おそらく、その侵入者は…………賭博場に魔物を卸していた奴と同一人物です。確か名前はカタラ……」

「なんだって……!? 今回の騒動よりも前に他で動いていたという訳か…………!」


 侵入者と卸した者が同一人物だとして、カタラが北菱に行っていた言葉から推測するに、カタラはこの街にちょっかいをかけようとしているようだ。


「学内戦を行なったとしても、魔物の大群が放たれるとしたら、この学園は……街は対応できると思いますか?」

「難しいだろうね。避難用の地下シェルターは街にいくつもあるけど、全員が入れる訳ではないし、戦える異能力者を総動員しても、守り切れるかどうか…………」


カタラが魔物の大群を引き連れるとして、全てを守り切れるかという話になってくる。D.Dディザスター・ドラゴンが襲来しなければ、対応できるかもしれないが……


「そもそもの戦力が足らないのでございますか……。集まるのが無理でしたら、短い期間に〝ぱわぁあっぷ〟すればよろしいのでは!?」


 そんな話の中、和心が「はい! 先生!」と元気よく挙手する小学生のように意見した。


「パワーアップか、異能の直接的な威力の向上で言うと難しいだろうけど、使い方の工夫をすれば、いけるか……?」

「それって、宗士郎君や響君がやっている感覚拡張(クオリス)の事かい?」

「ええ、この際強引にでも戦える人を増やすのが良いかと。あとは感覚拡張を超える技の伝授をしてみようかと思います」

「わかった。なら上級生下級生合同の特訓でもする事にしよう。放送で授業を中止して、特訓をするようにと言っておこう」


 宗吉が立ち上がり、学園長室にある備え付けのマイクがある方に向かう。それを見計らい、宗士郎も和心と一緒に立つ。


「今日はわざわざありがとう、お陰で助かったよ」

「お礼を言うのは早いですよ! すべてが終わってからでございます!」

「はははっ、そうだねえ。では宗士郎君、特訓を頑張ってくれ。和心君もその耳と尻尾を戻したら、見学してて良いからね」

「俺の全力をもって……!」

「私も応援で、特訓を盛り上げます!」


 そうして、宗吉に見送られて学園長室を後にした。そのすぐ後、学園長による放送により一時限目からの授業は中止となり、修練場にて特訓を行う事になったのだ。





「とはいえ、そう簡単にパワーアップ出来たら苦労しないよな」

「魔物の大群の事が気がかりなの?」

「ああ、そもそも学園の中にまともに戦える奴は少ないからな。一応、多対一ようの殲滅技を考えてはいるんだが、どうしてもクオリアの消費が多くなりそうでな。周りの皆のパワーアップに努めた方が良さそうだ」


 宗士郎は授業が始まる前に、凛を含むいつものメンバーに宗吉との話を耳に入れておいた。


 合同特訓は名目上、〝学内戦のより一層素晴らしい試合できるように〟と宗吉が考案した事になっているが、その実は〝魔物大群が攻めてきた時の為の戦力強化〟なのだ。


 宗士郎達以外は「上級生達から学ぶチャンスだ!」と意気込んで特訓に励んでいるが、魔物の大群が攻めて来るかもしれない事を知らない。


 宗吉が放送で本当の事を言えば、逃げ出す生徒が続出すると思うが、宗吉と相談して、あえて言わない事にした。突然来ても大丈夫なように、今の内から上級生と下級生の垣根を超えて仲良くなっていて欲しいのだ。上級生の指示には絶対に従い、また勝手な行動を取らないように言いつけてある。


 これにより、少なくとも下級生よりも経験のある上級生が変な指示を出さない限りはある程度、統率が取れるはずだ。


「で、だ…………」


 宗士郎がキャッキャッと騒いでいる方を見る。そう、合同特訓中に今まさに繰り広げられている『少女争奪戦』といった様子の方を。


「――わぷっ、やめ、やめてくだひゃい〜!? 助けてください鳴神様ー!? 柚子葉お姉様ー!?」


 一人の少女――和心を巡って、上級生から下級生の女子達が揉みくちゃにしていた。……幾人もの女子達が和心を抱きしめ、撫でまわす。


「和心は……大丈夫と思うか?」

「大丈夫ないよ。あの愛らしさ前では助からない、和心ちゃんが……」


 異種族特有の耳と尻尾を消して、姿形は普通の人間のソレでも、和心持ち前の愛らしさは残っていたようだ。あの揉みくちゃ空間に飛び込んで、和心を助け出そうものなら、楽しい時間を奪われた女子達にタコ殴りされる事だろう。和心は大人しく、彼女達が満足するまでモフモフされなければならないようだ。


「すまない和心、南無」

「――鳴神様ぁあああ!?」


 手を合わせて謝罪の言葉を送ると、和心が泣きながら絶叫する。前にもみなもにモフモフされていたが、こればっかりは仕方がない。


「さて、俺達も特訓開始だ。柚子葉、感覚拡張(クオリス)はできるな?」

「うん。――雷斬!」


 柚子葉が右手に雷で構成された刀を顕現させる。電気を操る柚子葉は電気を「放出」「帯電」できる。そこから電気を『武器』としてイメージし、模す事で、『雷斬』を顕現させている。


「柚子葉は問題ない、と……宮内君はできなかったはずだよな?」

「宮内君はできなかったはずだよ。ただ、後ちょっとで何か掴めそうだって言ってた」

「そっか。じゃあ柚子葉は感覚拡張(クオリス)ができない他の同級生に教えてやってくれ」

「わかった!」


 顕現させていた『雷斬』を消して、柚子葉はクラスメイトのいる場所へと向かった。宗士郎も特訓している宮内の元へと脚を進める。


 宮内に近づくと、息を荒げながらも奮闘していた。


「はぁっ、はぁっ……もう一度お願いします!」

「ほい来た! オラァーッ!」


 少しボロボロになっていた宮内が響にお願いすると、響が宮内に向かって特製爆弾を勢いよく投げつける。


 宮内は自らの異能力――空風圧縮(エアロ・コンプレッサ)の風を操る力で防ごうするが…………


「うぐぁっ!?」


 空気の壁を作り出すもイメージが弱かったのか、爆発した響の爆弾の餌食となってしまった。


「っ……ぐっ、またダメだ」

「宮内君、少し休もう。疲労が溜まってたら、できるものもできないぞ?」

「はい……わかりました」


 どうやらひと段落ついたらしく、休憩を取る二人。宗士郎はそんな二人に近づいて声をかける。


「お疲れ様、二人とも」

「おう、宗士郎。あまり上手くいってないぜ」

「ぅぅ……すみません」

「謝ることはないって! 宮内君は頑張ってる!」


 響が宮内を励ますが、感覚拡張(クオリス)が出来なくて、すっかり消沈しているようだ。


「響、ちゃんとアドバイスしてるのか?」

「してるって!? こう、〝何がしたいか決めて、ズバーンってするだけ〟って説明したんだよ!」


 響が身振り手振りで大雑把に説明する。


「できてねぇじゃねえか!? 適当過ぎるわ!」

「だって俺はいわゆる感覚派? って奴だし、教えるのはそもそも苦手なんだよ」

「そういえばそういう奴だったな、お前は。すまない、宮内君……俺も手伝うから頑張ろうな」

「宗士郎さん……! ありがとうございます!」


 落ち込んでいた宮内も宗士郎が手伝ってくれると知ると、すっかり気落ちしていた顔が嘘のように明るくなり、元気に満ち溢れた顔になってくれた。





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