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第39話 俺がパンツ姿でわめくことになった顛末

プロローグのラストに文章を追加いたしました。

 ふと俺は視線を感じた。

 ぱちっと目を開くと辺りはすっかり明るく、また覗き込む幼馴染の美しい顔がある。横髪を指ですくい、耳にかけながら彼女はこう囁いてくる。


「では先に行くわね、誠一郎。あなたも遅刻してはだめよ」

「…………なに言ってんの?」


 ちらっと見た時計はかなりマズい時刻を示している。本気を出さないと遅刻するという絶妙な時間であり、瞬間的に目が覚めた。


「なんでいっつも俺を寝坊させようとするの!? ほらぁ、目覚まし時計がオフになってるじゃん!!」

「馬鹿ね、うるさいから止めてあげたのよ。でも私のお弁当を忘れることだけは決して許さないわ」

「そっちが馬鹿だよ! あー、もー、ほんとに時間がないし、どうやって弁当を用意したら……いや、いっそのこと仮病を使って……」

「私のお弁当は必須」

「頼むから焼きそばパンでも食ってくれええっ!」


 もう一回言うよ。馬鹿なのお前? 弁当が欲しかったら早く起こせ。そんなの常識だろう。


 起きたばかりなのに頭脳はフル回転だ。寝巻きのボタンを外しながら歩いて、あまりにも時間がないものだから脱いだものは放りっぱなしにする。

 顔を洗う? 馬鹿いってんじゃないよ、君ぃ。そんな時間があったら電子レンジを動かすに決まってんじゃん。


 一階にはやはり両親の姿はなく、代わりに愛犬のイザベラが寝転がっていた。パンツとシャツだけというみっともない姿の俺を不思議そうに見つめてくる。

 そのとき背後から冷ややかな声をかけられた。


「とんでもない恰好でうろうろしている自覚はある?」

「だれのせいだと思ってんの!? 頼むから俺も起こしてよ、幼馴染でしょ!」

「あら、起こすかどうかは私が決めるわ。今日は別に構わないと思ったし、文句を言うよりも急いだらどうかしら? それと誠一郎、さっきから声が裏返っていてすごくみっともないわ」


 きぃー、このアマぁー!

 見ていろよ。最近のお弁当のおかずってのは進化しているんだ。着替えているあいだにレンジで解凍できるし、あとはもうお米を入れるだけで形だけはどうにか……。


 瞬間、ぞおっとした。全身の血が抜けるような感覚を覚えたのは、電気のついていない炊飯器を見たせいだ。お米どころか水も張っておらず、からっぽな炊飯器の窯を俺は凝視する。


「きゃあああ……嘘だ、嘘だろう。なんで? いつも寝る前にきちんとセットしてるじゃん……。この俺が忘れるなんてことは……」


 ピポピポピポと無意味に炊飯器のボタンを連打しながら俺はそう悲鳴を上げる。しかし、ふっくっくっ、という笑い声が背後から聞こえてきて戸惑う。

 ゆっくり振り返ると、お腹をかかえて苦しそうにしている雨ケ崎の姿があった。


 な、なに笑ってんのオマエ?

 お弁当を作れって言ったのはそっちで……。

 いやいや、待て待て、昨夜、俺は確かに言った。今日はお米をセットしなくていいやって確かに言った。


「え、なんでなんで? なんでお米をセットしなくていいだなんて馬鹿なことを……」


 カッと目を見開いた。

 それからイザベラをまたいで、テーブルの上に置かれていたテレビのリモコンを押す。すぐに美人のお天気お姉さんが映し出されて、彼女は快晴の空を見上げていた。


『今日はとてもいいお天気です。夏休みの始まった学生たちにとっては、とても過ごしやすい一日になるでしょう。ただし熱中症に気をつけて下さいね』


 はあっ!? と俺は変な声を上げて立ち尽くした。ひっくり返りそうでもあった。

 夏休み? え、今日から夏休みってお前、だって雨ケ崎は学生服を着ていたし、お弁当を作れって…………。


「ああーーっはっはっは! 誠一郎、もうやめて。分かったからもうやめて。お腹が痛いから、もう私を笑わせないで!」

「おっ、おまっ、おまっ、おっ、俺をびっくりさせるためだけに学生服を着たってのか!? 信じられないんだけど!?」


 フローリングにお腹をかかえてうずくまる雨ケ崎は「待って」と言うように手を伸ばしている。身体をぶるぶる震わせており、もうこれ以上は本当にやめて頂戴と訴えているようだ。


「見てよ! パンツ姿になっちゃったじゃん! なんでこんなひどいことすんのっ!?」

「苦しいっ! お腹痛いっ、お願いだからもうその格好でわめかないでっ! どうして誠一郎は勝手にパンツ姿になるのよっ!」


 ああ、なんてことだ。ビクビクと身体を震わせており、完全にツボに入ってしまっている。瞳にうっすらと涙を浮かべながら顔を上げると、みっともない俺の恰好を見てまたもブーッと吹き出された。


 あーもー、本当にとんでもない夏休みの初日だよ。他の生徒たちはのんびりと二度寝を楽しんでいるだろうに、俺はというと……もういいや。もう考えるのをやめよう。

 お腹を押さえてうずくまっている雨ケ崎を見ているだけで悲しくなるし、さっさと服でも着て夏休みモードに移行しよう。そうしよう。


 もうほんと雨ケ崎ってひどい性格だよ!

 笑いをこらえるあまり、スカートがめくれてパンツが見えてるけど絶対に教えてあげないんだからっ! でも二度見するくらい本当にいいお尻をしてますね!

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと始まりました。楽しみにしていたので、とても嬉しいですね。
[一言] いい。 尊い。 最高。
[良い点] 2人の仲が少しずつ良くなっていること [気になる点] どうして一緒に寝起きしているのでしょう? 夏休みは毎日ずっと一緒に生活? [一言] 更新有り難うございます! お待ちしておりました。
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