弱者の迷宮7 最終関門~しりとり~
「まずはルールを説明する」
アイテムで溢れる部屋にてスフィンクスが説明を開始する。
「ルールの基本は普通のしりとりと同じだ、ただし使用できる言葉はこの部屋の中に存在するアイテムのみとする。その時アイテムの名称はそのアイテムを示しているなら何でもよい」
スフィンクスが召喚した様々なアイテムこれらがしりとりに使われるわけか。
だけど名称に関しては少し意味が解りずらいな。
「つまりそのアイテムだって分かるのであればどんな呼び方でもいいってことね」
「その通りだ」
「どういう事?」
「解り易く説明すると、例えばセンの武器のグラスサムライソードがあるわよね、それをグラスサムライソードって使ってもいいし刀でも使えるってこと。そうでしょ」
「その通りだ。さらに条件が合っているならば同じ名称を何度目も使って構わない」
「ってことはポーションやハイポーションなんかで「回復薬」って使い方を何度もしていいわけね」
「うむ、ただしその場合には使用するアイテムに触れながら解答せよ」
「あら、それはなんで?」
「それは使用されたアイテムは消えるからだ。そして全て無くなった時点で勝敗が付いていなければ引き分けとする」
スフィンクスの説明をざっとまとめるとこんな感じだ。
・基本ルールは従来のしりとりと同じで交互に解答していき「ん」が最後に付くと負ける。
・アイテムが存在しているのに解答が出来なくなった時点で負ける。
・使用される言葉は部屋の中にある召喚されたアイテムのみ。
・使用されたアイテムは消滅する。
・そのアイテムを示す名称であればどんな呼び方でもよい。
・同一名称で解答する場合にはアイテムをひとつ指示してから解答すること。
・プレイヤー側はチームとして参戦、スフィンクス側と交互に解答をする。
・解答は5分以内で答えること。
・部屋の中のアイテムが全て無くなった時点で勝敗が決まっていなかった場合は引き分けとする。
「要約すれば使える言葉が限定されているしりとりってとこね」
「その通りだ、そしてここに召喚されたアイテムは姿形はそのものだが何の効果も無いガラクタだ。だから装備や使おうとしても効果はないぞ、そこの娘よ」
「残念。実験したかったのに」
出現したアイテムを装備しようと悪戦苦闘していたスイ。何かを試したかったらしい。
「報酬はここにプレイヤー側が解答に使ったアイテムの本物だ。勝利した場合この中からプレイヤーひとりに対して1個。合計3個好きなのを選ぶがよい」
「負けた場合はなし?」
「いや、負けた場合もアイテムは渡そう。ただし報酬の消耗品の中から合計3個でランダムになる。引き分けの場合は装備品も含めた全てのアイテムの中から3個でランダムだ」
「ランダムってことはそこにある邪骨が報酬になる可能性もあるってことね」
邪骨とはマリーが必殺技(笑)の時に使用していた消耗品だ。
ここまで苦労しといてあれが報酬だったら報われないな。
「ルールは分かったわ、それじゃあまずアイテムの確認させてくれるかしら」
「分かっておる。そのための時間は10分だ」
「十分よ。スイ、手伝って」
「分かった。私の知識が必要なのね」
「そういうことよ」
ミニッツがスイを連れて部屋の中のアイテムを確認していく。
スイは攻略サイトを編集しているだけあってアイテムに関しての知識も豊富にある。
二人がそろえばこの部屋にあるアイテムの名称のほとんどを知ることも出来るだろうな。
そうして10分が経ち。
「では始めるとしようか」
スフィンクスの宣言とともに壁にディスプレイが現れる。
スフィンクスターン
「まずは我からか「スゥインの壺」だ」
「確か”ほ”でもいいのよね、なら「骨」」
「ふむ、それならば「ネコミミ」だ」
ミニッツとスフィンクスがお互いに回答をしていきその都度部屋の中のアイテムが消えて行く。
100近くは有ったはずのアイテムが次々と消えて行き残りが20個ほどになったところでスフィンクスの動きが止まる。
「ふむ、「る」で使えそうなアイテムは残っておらぬか」
「そうね、ってことで私たちの勝利ってことで良いかしら」
「いや、まだだ」
その瞬間スフィンクスの足元に再び魔法陣が現れる。
「え?っちょっと」
「まさか!?」
魔法陣が消えると残り20個ほどしかなかったアイテムが再び増えていた。
「「ルーレットソード」攻撃時にランダムで異常状態スキルを発動させるなかなかのレア武器だぞ」
「レア武器だぞ、じゃないわよ!アイテムの再召喚なんてそんなの反則じゃない!」
「反則だと?何を言っておる。使用されるのは部屋の中のアイテムだけ、それがルールだ。それ以上も以下もないわ」
スイの抗議に対しても悪びれもせず堂々と言い返してくる。
「・・・つまりアイテムの補充は定められたルールに抵触していないって言いたいわけね」
「その通りだ。反則ではないぞ。忘れたか?我は弱者の迷宮にて最高難易度を誇る難問の守護者だぞ」
反則じゃないって、アイテムの補充が出来るなんてそんなの勝ちようが無いじゃないか。
「ミニちゃん、流石にこれは勝て無いと思うんだけど・・・」
「いえ、そうでもないわよ。攻略法の無いゲームなんて存在しないのよ。それにこちら側にもメリットのあったわよ」
「メリット?そんなものが?」
「ええ、再召喚されたアイテムを今ざっと見たんだけど最初に召喚されたモノよりレア度が高いのが混じっているわ。おそらく、再召喚させるほど良いものが手に入りやすくなるんじゃないかしら」
「そうなのかもしれないけど、こんなの延々とやられてたら勝てないわよ」
「それも違うわね。おそらく再召喚のスキルには回数制限があるんじゃないかしら。そうでしょスフィンクス」
「ふむ、確かに制限はある。あと何回行えるかは答えんがな」
「「回復薬」そういうことよ」
勝てる気満々で答えるミニッツ。だがよく両手を後ろに回して左手で右手首を頻りに掻いている。
あれは内心では相当焦っている時に出るミニッツのクセだな。せめて回数さえ分れば対策の立てようもあるんだろうけどな。しかし最高難易度だからってアイテムの追加なんて・・・追加?
そうか追加か・・・。
「なあ、ミニッツ」
「なに?」
先程思いつきで出てきたアイデアをミニッツに耳打ちする。
思いつきの突拍子もないアイデアではあるんだけど。
「セン・・・やっぱりあなた最高だわ」
「これで勝てる?」
「もちろんよ。じゃあセン、アレとアレでお願いね。それと合図は――」
周りを軽く見まわしたミニッツからいくつかのアイテム名で指示を受ける。
「了解、じゃあ行ってくるよ」
「お願いね。次にスイ」
「なに?」
「持ってきてほしいアイテムがあるんだけどお願いできるかしら」
「良いけど・・・」
「「グラン鉱石」、何をするつもりかは知らないが下手な小細工をしても我には勝てぬぞ」
「「黄色いマント」あら、上手な小細工なら勝てるのかしら」
「くくくっ、その減らず口もいつまで続くか見ものだな「徳利」
「このゲームってお酒飲めるのかしら・・・これを指定ね「指輪」」
「・・・それで私は何を持って来ればいいのかしら?」
「あぁ、ごめんね。持ってきてほしいのはまずそこにある両手剣と大盾ね、それをあちらに持っていってほしいのよ」
「あっち?ここに持ってくるんじゃないの?」
「「魔導書」、どこにあっても同じであろう?何を成そうとしている」
「「瑠璃色の槍」貴方、分からなければ負けるわよ」
ミニッツはかぶっているネコミミフードを外しその長い黒髪をさらす。
合図だ。
「もう一つ有ったな「指輪」、我が負けることなど有り得ん」
スフィンクスが答えた瞬間。ここからは見えないがおそらくミニッツは笑っていたんだと思う。
いつもの様に対立した相手が自分の思惑通りに罠に嵌るのを見ている時の笑顔をだ。
「ほら負けた」
プレイヤー WIN
ディスプレイにはその文字が浮かんでいた。
問題:ミニッツはどうやって勝利したでしょうか?




