弱者の迷宮1
「へえ、そんなことになってたんだ」
「ああ、クエストをこなすだけのはずだったのにな。まあ結果予定より早く終わらせることが出来たんだけどな」
いつもの商都にあるギルドの休憩室でスイに雑談も兼ねた報告をしている。
あれからの経緯を説明しよう。
クロイスの腕に贖罪の腕輪を掛けても逃げようとしたので「その状態でデスペナをおった場合おもしろいことになるよ」と脅してみた。
腕輪の性能の極悪さからかなりの説得力が有り、腕輪装備状態では魔物の群れを抜けることが出来ないので大人しくなった。
その後周りにいた魔物を排除しクロイスを連れてカンリとヤクミチの下に連れていく。
報酬をもらい、これで依頼は完了。
「ふーん、そうなんだ」
一度解散し翌日ヤクミチに会うと追加報酬として属性石を用意してくれていた。
あの後クロイスとの話し合いをしたところあっさり背後関係を白状、結果クロイスの背後に居た敵対組織はクラフトマンズ・ワークやその他の商売・生産系チームの手によって1日であっさり解散に追い込まれたらしい。
「へぇ、そんなことがあったんだ」
その時貯めこんでいた属性石も回収、依頼の報酬に上乗せすることが決まったようだ。
最初の約束では貰えるはずの物ではないので良いのだろうかと確認したところ、敵対組織は結構な数の属性石を貯めこんでいたらしく、これらが一気に市場に出回ると属性石の値崩れを引き起こしかねないほどだったらしい。
その為、無駄に貯めこんで置くよりと報酬として配った方が良いだろうと判断したらしい。
当然自分たち以外のメンバーも貰っている。
それでもまだクエストクリアするまでは足りないのでこちらは約束通りヤクミチとPTを組み、幸運スキルを存分に発揮してもらい、クエストクリアをする為の必要数を貯めることが出来た。
「なるほどね。・・・で、その仔が合魔物なのよね」
スイは経緯説明を完全に上の空で聞き流し、目で自分の横に居る魔物の説明を早くしろと訴え掛けている。
商業系チームの事の顛末よりこちらに興味津々みたいだ。
自分の横に座っている魔物。
二つの頭と二本の尻尾を持つ狼。
ツインヘッドウルフにだ。
「こいつの正式名称は『ツインヘッドウルフ』今まで連れ歩いていたグレタウルフにもう1体ウルフ合成して出来た合魔物、名前はルートだ」
クエストクリアの為に必要な数の属性石を依頼NPCのスランダに持って行ったところ、通常の札で良いので魔物を封印した2枚の札を用意するように言われた。クエストの第2段階だ。
俺もアンズもすでに1体は封印して持ち歩いていたので残り1体が必要となる。
その時点で実はどうするかは決めていた。
ウルフにも愛着が有ったのでなるべくならウルフ成分が残る形で合魔物を作りたかったからだ。
そして一番ウルフ成分が残る方法と言えば、もう1体もウルフにすれば良いと考えたわけだ。
結果成功、神話に出てくる二首の犬オルトロスの様な姿の魔物の出来上がりだ。
命名することが出来ると言うのでオルトロスから取ってルートと名付けることにした。
当然、そのような姿の魔物はいまだ発見されてはいない、と言うより存在していない。
そしてここは人が集まるギルドの休憩室。
周りの注目浴びまくりです。
こちらを見ながらヒソヒソと会話をするプレイヤーばかりです。
「スイ、そろそろこいつ仕舞って良いかな」
「ダメよ。もっとよく観察させなさい」
ちなみに珍しいものを出しているのに周りが声を掛けてこない理由はルートにしがみ付くかのようにして調べているスイの様子が怖いからだと思われる。
変に目立ちたくは無いのだけど封札士の宣伝の為にも逆に目立たなければいけないのか?
いや、この目立ち方は何か違うような・・・。
「ふぅ・・・それで、セン君の知りたいことって何かしら。この仔を見せて終わりってわけじゃないのよね」
ルートを一通り堪能したスイがやっとこちらに眼を向けてくれる。
若干ルートが疲れ気味なのがリアルだな。
「知りたいのはこいつの強さだな」
「強さ?ステータスやスキルに関してかしら?」
「それら全部含めて他のテイムモンスターとの比較を知りたいんだよ」
具体的には従獣士の従魔物との比較だな。
他の技能職のテイムモンスターは特殊だから比較出来ない。
やはり強さを知る比較対象には従魔物が解り易い。
本来なら本職に訊くのが良いんだろうけど知り合いの従獣士はアレだからな・・・。
「こいつのステータスはこんな感じだ」
そういってルートのステータスを見せる。
・ネーム[ルート]
・LV1
・種族[ツインヘッドウルフ]
・スキル 「攻撃をしろ」「守れ」
・ステータス
HP80
MP350
STR 30
DEX 15
AGI 30
VIT 3
INT 8
MIN 8
「それと新しく合魔物ってスキルを手に入った」
このスキルは文字通り合魔物に関するスキルで、これをセットしておけば合魔物の維持MPコストや召喚MPの消費が減り使用できるスキルも増える。
スキルレベルが1の時は「攻撃しろ」のみだったが3になった時に「守れ」を覚えた。
「それでどうだろう」
「ありきたりな事しか言えないんだけど・・・すごく尖っているわね」
「・・・やっぱり」
正直聞くまでもないよね。ここまであからさまな「攻撃特化・紙装甲」を地で行くステータスは。
「従魔物にも色々タイプがあるし、レベルも1だから一概には言えないけど、HPとVITは半分以下代わりにSTRとAGIは倍、DEXはちょい高めってところね。MPも高いほうかな」
となるとヒット&アウェイ戦法が基本になるな。
「飼い主に似るとはよく言うけど、センくんも似たような感じよね」
返す言葉もございません。
「まあ、まだレベルは1だし、今後に期待ってとこよね」
「そうだね」
そんな感じでスイからテイムモンスターの話を聞いていると。
「スイ、待たせたかしら・・・それとセン?」
「いらっしゃい、ミニちゃん待ってたわ」
「よお、ミニッツ」
ギルドの入口から大きなねこが入ってきた。
「スイと約束していたのか?」
「ええ、これから調査にいくのよ。その手伝いをお願いしててね」
調査、つまりスイの趣味である攻略サイトがらみか。
「私はそうだけど・・・センはなんでいるの」
「センくんはこの仔について聞きに来てたのよ。別にミニちゃんが心配するようなことではないわよ」
「んなっ!心配ってななな何のことかしら!」
心配事ってなんだろうな。それとスイのにやにや顔が少し気持ち悪いぞ。
「そうだ、センくんも手伝ってくれないかしら。危険がほとんどない所なんだけどそれでも前衛が居ないのは不安だからね。一緒に来てくれると助かるんだけど」
特にやることないし、有ってもRUクエストを進めるだけだしな。
「その調査って何を調べるんだ」
「最近新しく見つかった迷宮「弱者の迷宮」よ」




