合魔物10 決着
周囲の森から様々な魔物が姿を現す。
傘犬、ステルスネーク、ホールモール、目暗ましクマ等々、森にいる魔物全種類コンプリートって感じだな。
いや、動けないナチュラルプラントだけは居ないか。
「この状況下であなた方はマトモに戦えますか?ちなみに私は大丈夫ですよ。そのためのスキルがありますのでね」
こちら側もハイドクリームの効果があるのですぐには襲られない、だがこのアイテムの効果時間はそう長くない、時間の問題だな。
「その前に貴方を捕まえればいいことですわ!起動!」
レムが剣を持った鎧騎士人形を呼び出しクロイスに切りかかるが。
「それと捕まらない根拠がもうひとつ。あなた方の様な対人初心者に負けるわけないでしょうが」
「くっ!」
レムの人形の攻撃を軽く躱し逆に人形を蹴り飛ばす。
「踏んできた場数が違うんですよ、経験が違うんですよ。素人が何人集まったところで私を捕えるのは不可能ですよ」
これだけの人数のプレイヤーと魔物に囲まれながら堂々と言い放つ。
自分が捕まるなどと微塵も思っていない様にも見える。
だけど、なんと言うか、もしかして・・・。
「よくも!」
「待ってノットさん。それとみんなも周りの魔物を排除する事を優先してください。こいつは俺が捕まえる」
「・・・分かりました。お願いします、召霊泣き女」
姉(の人形)がやられて怒りを覚えたのか飛び掛かるところだったノットを諌めてクロイスの正面に立つ。
他のみんなも周りに散らばりそれぞれ魔物に相対している。
「私の相手をしてくれるのはあなた一人ですか。案外なめられたものですね」
「そうでもないぞ。ここまでのハッタリかましてくるんだからな正直びっくりしてるよ」
「・・・・・・」
おや、かまかけだったのにこの反応は当たりかな。
「何のことを言っているのか分かりませんが、あなたさえ倒せばこの場は切り抜けられそうですね。行きますよ!」
「負けるかよ!」
先手はクロイス、刀の間合いの外から一気に距離を詰めて足元を狙ったローキック――をフェイントに入れた頭を狙ったハイキックを放ってくる。
それをスウェーで回避して刀で切り付けるがこれをクロイスは上体を寝かせながらの廻し蹴りをしてくるので、身体を捻り何とか躱す。
最初のこの攻防でお互いの攻撃は掠った程度にしかダメージは与えられなかった。
「なかなかやりますね」
「そうだろ、お前の予定を覆す程度には強いぞ」
「・・・本当に何を言いたいのか分かりませんね」
「まだ余裕のあるフリをしてていいのか」
常に余裕綽々と言った顔が歪んできたな。
まあ、ここまで壮大にやったハッタリが見抜かれてればそうなるか。
それじゃあ、メッキ剥がしといきますか。
今度はこちらから攻めることにする。間合いを詰めて切りつけるが相手も回避型の戦闘スタイル、躱され逆に蹴り足が目の前を横切る。
何とか躱して逆に押し込む様にしていく。
お互い攻撃用のスキルが無いので通常攻撃での切り合い蹴り合いでお互いに攻撃を掠らせながら少しづつ移動していく。
「っ!!」
移動したため周りを囲んでいる魔物の一体の索敵範囲に入ったらしく傘犬から魔法攻撃が飛んでくる。
この攻撃をクロイスから距離を取りながら回避。
ここまで近付いたのにクロイスは攻撃対象では無いみたいだな。
「何のつもりかは分かりませんがこの辺りで戦うなら私の方が有利ですよ」
確かにこちら側はクロイスと魔物の両方に対応しなければいけないがクロイスはこちら側の一人を相手にしてればいいのだから。
――と思うでしょ。
「盾衝撃!」
「うぉっ!」
横からの攻撃をクロイスはしゃがむことによって躱しその頭の上を大盾が横切る。ギリギリで回避されたか。
「こらぁ、天平くん。外しちゃダメよ」
「はっ!春香様申し訳ございません」
「いや、これで十分ですよ」
天平さんの攻撃を避けたことで体勢を崩したクロイスに対してわざと大振りの攻撃をする。
それを転がりながら回避する、だがその先には。
「キシャー」
「ちっ!」
ステルスネーク。
透明蛇とも呼ばれる魔物で文字通り透明な蛇だ。消える以外はそれ程強くない魔物だが、その牙には厄介な毒が仕込まれている、弱体化毒と呼ばれるその毒は確実に毒化させる為に異常耐性も一緒に弱体化してくるのだ。しかもこちらは確実に決まる。
尤も他の森の魔物と同じで不意打ち奇襲が専門の魔物なので面と向かえばすぐに倒せる。
実際クロイスも牙が掠っただけであっさり返り討ちにしてる、毒も喰らわなかったみたいだな。
でもこれで。
「これで数の有利が崩れたよな」
「くっ!」
数の有利。
クロイスは始め6人のプレイヤーに囲まれていた。
これは余程実力差が無ければ逃げる事すらままならない状態だ。
それを覆す方法として魔物を大量に呼び出し、それが自分の味方だと誤認させた。
実際、クロイスはスキルの効果によって襲われにくくはなっているが、全く襲われない訳ではない。
その為周囲を魔物に囲まれた時も余裕のあるフリをしていたが実はクロイス自身も魔物の包囲を抜けられなかったのだろう。
「それと悪いが俺も対人戦の場数こそ少ないがその濃さはピカイチだぞ」
「ちっ・・・」
そして2番目のハッタリ。
それは強さのハッタリだ。正確にはハッタリと評価していいのかは正直微妙ではあるのだけれど。
実際クロイスはPVP慣れをしているし森の中でなら大抵のプレイヤーと戦っても負けないだろうし最悪逃げ切れる自信はあるのだろう。
だが俺もPVPに関してはかなり場慣れしているつもりだ。
以前のマルロを相手するためにモンドとヒナゲシに散々しごかれたからな・・・・・・やば、少しトラウマが・・・。
こほん、気を取り直して。
クロイスはまず魔物を味方だと相手に勘違いさせてからさらに力を見せつけて自分を捕えることは不可能だと思わる、それにより精神的に有利な立場に立とうとしたのだろう。
そして意識誘導もする。自分を捕えるより周りの魔物に対応した方が良いと。
危うくそのハッタリに飲まれるところだったのは間違いない。
だけど違和感があった、それは力を誇示した時だ。
逃げれる算段が付いたんなら力を誇示してないでさっさと逃げればいいんじゃね?
その違和感に気付いたとき、もしかしてこいつも魔物の包囲を抜けられないんじゃないだろうかと思い至った。
そしてカマかけたら見事に引っかかったわけだ。
「さて、メッキも剥がしたことだし大人しく捕まってくれると助かるんだけど」
「・・・そうですか、分かりました。なんて言う訳ないでしょうが!」
常に余裕のあったニヤケ顔が怒りに歪んでいる。
もうすでに勝敗は決まっているようなものなんだけどな。
クロイスが頭を狙ったハイキックを放ってくるが怒りで我を忘れている為か今までの様なフェイントも何もないただの蹴りだ。
それを鞘に納めた刀で受け、その状態のまま抜刀して切りかかる。
この攻撃は完全に不意打ち、しかも居合の効果も発動している為クロイスは躱すことも出来ず攻撃を受けることになる。
「ぐっ!で、ですがこの程度の攻撃で・・・な、あれ・・・一体なにが」
贖罪の腕輪の効果条件を満たしました。
アイテムを使用しますか?
アイテムを使用しようとしたのか懐に手を入れたところで動きが固まり動けなくなっている。
それと同時に目の前にメニューが開き腕輪の使用を促してくる。
腕輪の使用条件は。
・HPを5%以下にする。
・「拘束」などの相手の動きを封じるスキルを使い10秒以上動きを止める。
・麻痺状態にする。
・相手の同意を受ける
この4つだ、このうちの一つでも条件を満たせば今のようにメニューが開き腕輪を使うことが出来るようになる。
「言い忘れてたけどこの刀は麻痺属性が付いているんだよ」
「・・・ここでキルされた程度で負けを認めるとは思わないでくださいね」
「思っちゃいないさ。だからこいつを使わせてもらう」
「な、何ですか。その手錠は」
・・・信じられないぐらい壊れ性能の拘束装備だよ。少し同情してしまう程度のね。
麻痺して動けないクロイスの腕に「贖罪の腕輪」を掛ける。
「はい、逮捕」
キャラクタープロフィール
・クロイス
・格闘士
・魔都の森専門のPKで蹴り技中心の格闘士。
実は裏でクラフトマンズ・ワークと敵対している組織に雇われていた。
スキル構成
・蹴技
・気配遮断
・AGI強化
・跳躍
・複眼
・馬の眼
・蛇の眼
気配遮断はアクティブモンスターに気づかれにくくなるスキル
複眼は複数の視覚系スキルを付けることが出来るようになる。




