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Heroes Guild Online  作者: ムムム
合魔物
84/100

合魔物9 切り札

大変お待たせしました。

「どうしてこんなことになっているんだろ」


 元々は合魔物キメラクエストの為に森に来たはずなのに気が付いたらPK討伐隊の一員だ、本当にどうしてこうなった。


『悪かったな、その代わりじゃないが報酬はキッチリ用意してあるからな』

「分かっているよ、別に不満があるわけじゃない」


 今、会話したヤクミチは森の外に待機していて。会話はPT用ボイスチャットによるものだ。

 魔都の森の奥、木の上でハイドクリームを塗って周囲の魔物からも気取られない状態で待機している。

 何故ここに居るかと言うと作戦の為だ。


 とは言え作戦自体は単純だ。

 俺とアンズ以外のメンバーでPKクロイスをこの場所に追い込み、俺たちが秘策を使って捕える。

 この秘策を使えるのは封札士しかいないので俺たちが捕える役目になったわけだ。

 その為俺たちのいるところにクロイスを出来れば弱った状態で追い込むのが他のメンバーの役割になる。


 俺が直接会いに行っても良いのだが、その案は却下された。

 素材の関係上「贖罪の腕輪」は1個しかなく役割上俺が持っている。

 捕えて武器も装備させる役割のある俺が動き回るのはあまりよろしくないと考えたらしい。

 PKを追った挙句迷子になったり魔物に事故のような形でやられたら目も当てられない状態になるから、動かず待っていてくれと言う事らしい。

 流石にそこまで弱くも間抜けではないと反論しようと思ったが動き回るより待つほうが捕えやすいと言う理屈は分かるので大人しく従うことにする。


『それにしても腕輪に封札が使えればよかったんだがな』

「無理言うな、システム的に無理だったんだから」


 封札自体は出来るけれど、封札された装備品は他者に貸し出すことが出来ないと言うルールがある。

 これは以前、マリーに暗闇を封札した杖を渡せなかったのと同じ理由だな。

 その為、贖罪の腕輪の特性である、他者への装備が出来るって部分が作用しなくなるみたいだ。

 これは実際に腕輪を封札して使おうとして発覚した事実だ。

 確かに封札出来て無制限に使えるようになれば対人戦に於いて恐ろしい武器になるんだけどな。

 それに封札の効果で変化しなくなった腕輪は相手を弱体化したままでカルマ値を0にしても装備されたまま外れなくなると予想。

 そうなったらチートどころの話じゃない、バグだ。


 他のメンバーはハイドクリームを薄く塗って森の中をソロでクロイスを捜している。

 ハイドクリームは塗る量によって効果が変わる、俺みたいにまんべんなく塗った場合完全にスキルに引っかからなくなる。

 薄く塗っておけばクロイスが逃げながら押し付けようとする魔物たちにも引っかからなくなる。


『師匠、私大丈夫でしょうか・・・』

「心配すんな、アンズひとりに負担が有るわけじゃないんだ、気楽にいきなよ」


 作戦の要は確かに封札士である、俺たちではあるけれど、どちらか一方が成功させれば良いだけの話だ。何とかなるさ。



 どうやらクロイスを捕捉したみたいだ。

 ドM騎士がクロイスとの交戦を開始している。


『春香様の為にここでくたばれ!』


 倒すなよ。


『ちぃっ逃がしたか!PKは5番から6番に向かった!』

『了解、ノットはその場所から6番に向かってくれ。春香さんは2番に回り込んでから6番に向かって』

『わかりました』

『はーい』


 この番号は森を16分割にしてから振った番号だ。

 俺が居るのは8番なのでヤクミチがみんなに指示を出して8番に追い込む手筈になっている。


『PKさん発見、魔法で攻撃しますねー。ブスッっといきますよ。きついのブスッですよ』

『さあ、大人しく倒されなさい!』

『姉さん、それは止めになるから駄目だよ』


 他のメンバーもヤクミチの指示に従い追い込んでいく。

 追い込んでいるんだよね?

 台詞セリフからは止めを刺そうとしてるように聞こえるんだけど。

 演技にしては迫真過ぎる。


『セン、そろそろ着くぞ』

「了解だ」


 クロイスが出てくるだろう場所に目を向けるとタイミングよく森の中から出てきた。

 元々逃げながら追跡者を魔物に押し付けるというPKスタイルなのだが、今回は勝手が違って戸惑っていることだろうな。

 クロイスが逃げ込んだ場所は木々はほとんどなく広場のようになっている。

 その広場の真ん中に大きめの木が一本立っておりその上から今クロイスを見下ろしている。

 流石に慌てたのかあのニヤケ顔も浮かべていない。


「ああもう、まったく!こんなに早く討伐隊を編成してくるなんて訊いてませんよ。やっぱりあくどい商売しているような人たちの依頼なんて受けるべきじゃなかったですよ」

「その辺りのことを詳しく教えてもらうぞ、解放リリース

「!!」


 木の上からクロイスの目の前に飛び降りて封札していた魔物を解放する。

 その瞬間、周囲に半透明の結界が張られクロイスと俺自身をその結界に閉じ込める。

 探知スキルに頼り切りのクロイスからすれば突然目の前に現れたような感覚なのかもな。


「こ、これは?それにあなたは!?」

「ついさっきぶりだな、悪いが捕まえるぞ」


 クロイスの前に立ち構える。

 流石にこの異常事態を起こしているのが目の前に居る俺だと気付いているよな。


「これはあなたが?」

「そうだよ、こいつのお蔭だ」


 そういって懐からつい先ほど解放したばかりの卵をクロイスに向かって投げる。

 投げられたそれを蹴って壊そうとするが当然、封札状態のそれは壊れることは無い。


不思議な卵ワンダーエッグだ。これがどういう状況かは理解できたよな」

「ふっ、問題は無いですね」

「ほぉ、なんでだ」

「術者である、あなたを倒せばいいんですよ。魔物を押し付けるだけのMPKだとは思わないでくださいねっ!」


 ニヤケ面を浮かべ一気に間合いを詰めてくる。クロイスの蹴り足は強力だ。

 みんなの前では10回中9回は勝てるとは言ったが実際組み合ってみるとそこまで言えないかもしれないな。

 尤もマトモに組み合った場合だけどな。


 結界内での攻防、追手が来る前に倒したいクロイスはとにかく攻めに徹しているがこちらは回避と受けに徹する。


「ちょろちょろと、そんなんで私を捕まえられるのですか」

「ああ、捕まえられるね。尤もがじゃないけどな」

「り、解放リリース!!」

「っ!?」


 挑発の為だろうか、少し間合いが開けたことが命取り。

 クロイスの後ろから聴こえてきた声に振り向くとそこには、結界のからスキルを発動したアンズの姿がある。


「な、捕まえただろ」

「こ、これは!?」


 俺とクロイスの間にも新たに結界が張られている。


「確か、これってスクランブルエッグって呼ばれているんだっけ。まあ切り札みたいなもんだ」


 元々は不思議な卵ワンダーエッグのダブルブッキングと呼ばれていたが何故かスクランブルエッグと呼ばれるようになった現象だ。「ブ」と「ル」と卵しか合ってないじゃんか。

 ベータテストの時に起きたバグの一種でふたつの不思議な卵の結界に閉じ込められ、しかも叩くべき卵がそれぞれの結界の外にある状態。こうなったら脱出は不可能になる。


 製品版ではその対策として卵の出現率を落とし出現する場所も減らし近くにPOPしないようにすることによって無くなったバグだ。

 だがその卵を自由に持ち歩けることが出来たらどうか。しかも結界も出し入れ自由なら。


 その結果が今のこの状況ってわけだな。


「何もできないのはそちらも同じでは・・・」

「確かに、結界は外から中に入ることは出来ないけどな」


 だが時間が来れば勝利条件がそろうのはこっち側なんだよな。


「うむ、予定通り捕獲したようだな」

「あらあら、さっきまで粋がっていた人が良い格好ですねー」


 先ほどまでクロイスを追いかけていたメンバーがそろってきた。


「さてどうする、大人しく捕まってくれると助かるんだけど」

「・・・数に頼るなんて、卑怯ですね」

「お前に言われたくないな」


 それにこっちは物語ラノベの主人公じゃないんだから効率の良い方法は取らせてもらうよ。


「分かりましたよ、流石にこの状況で抵抗なんてしませんよ。いい加減引き際かとも思ってましたし、この結界を解いてもらえませんかね。そちらとてこのままではどうしようもないでしょう」


 観念した様子で手を挙げて降参のポーズをしている。

 周囲をメンバーで囲み警戒しながら結界を解く。


「・・・信じていただいてありがとうございます。・・・尤も裏切りますけどね」


 クロイスが懐から何やら玉状のものを取り出し、地面に叩きつける。

 その瞬間周囲の森から魔物の気配のようなものが一気に濃くなってきた。


「魔集香、周囲の魔物を一気に集めるアイテムですよ。切り札を持っているのがそちらだけだと思わないでくださいね」


 そう言い終わった瞬間に周囲の森から数多の魔物は飛び出してくる。

キャラクタープロフィール

・レム

・人形士

・技能士姉弟の姉

 金髪縦ロールとテンプレ貴族のような容姿と性格をしている。

 自称天才人形士


キャラクタープロフィール

・ノット

・魂魄士

・技能士姉弟の弟

 姉のフォローをする苦労人

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