刀技4 覇王
こちらを見下ろすほど大きくなった覇王バトルサボテンを見上げながら二人は困っていた。
「どうしよう、逃げる?」
「いや、無理だろ」
HGOの運営は意地が悪いことで有名でそのひとつにボスから逃げることが出来ないというのがある。
方法は様々だ、今までの例でいくと単純に足が速かったり雑魚魔物で囲んだりとかだな。
覇王バトルサボテンもその例にもれず一定以上離れるとゲームで最も理不尽な一撃と呼ばれる回避が不可能なほどの超高速の飛針攻撃を仕掛けてくる。
しかも強力で前衛職でも一撃でHPの半分以上を持っていかれてしまうらしい。
当然、俺だと一撃でHP全損だろうな。
「逃げれない、だからやれるだけやってみよう」
「わ、分かったよ」
「オオオオオオオォォォォォォ」
雄叫びを上げながら腕に当たる部分を振り下ろしてくる。
それを二人左右に分かれながら回避してクル姉にPT申請を飛ばす。
「え?え?何これ。センちゃんどうすればいいの」
そういえばソロプレイヤーでしたね。
「イエスをタップして。それで俺とPT組むことになるから」
「PT!?センちゃんと!うんうん、組む。お姉ちゃんイエス押すよ。イエスお姉ちゃんだよ」
よく分からない単語が出てきたがいつものことなので無視するとして。
「それとこっちにも付与お願い」
「分かったよ。付与速力×2」
「解放」
クル姉からの付与を受けて身体が軽くなるのを感じついでにウルフも呼び出しておく。
覇王バトルサボテンの攻撃は腕を大きく振り回すだけなので躱すのはそれほど難しくない。
そしてスキル弱点看破を発動させて弱点を見る。
弱点は水属性だと確認しておく。
「クル姉一応確認するけど水属性の攻撃魔法は使えるか?」
「お姉ちゃんが得意なのは風属性だよ」
弱点属性を突いた攻撃は無理か。
「でもこういうのは持っているよ。えい!」
クル姉が懐から何か瓶のようなものを取り出して覇王バトルサボテンに投げつける。
瓶が覇王バトルサボテンに当たり中のものが降りかかるが特に変化はなさそうだ。
「クル姉今のは?」
「携帯していた「ただの水」だよ」
ただの水。
ほぼどこででも手に入るアイテムで薬品関係の素材なんかで使われている。
当然だが魔物に振りかけたからといってダメージを与えられる様なものではない。
と思っていた時期がありました。
「おおぉ、これはマジか」
なんと覇王バトルサボテンに水が掛かった箇所に弱点看破が反応しているのだ。
具体的には水が掛かった箇所が真っ赤に見えるぐらいに反応している。
つまりその場所に攻撃を加えれば大ダメージを与えられそうだ。
「ナイスだクル姉。タイミングを合わせて行こう」
「何だかよくわからないけどわかったよ」
覇王バトルサボテンの大振りの攻撃を掻い潜りながら接近してクル姉が水を掛けた箇所に攻撃を加えていく。
水による弱点増加時間はそれほど長くないので呼吸を合わせる必要はあったけど、そこは問題はなかった。
クル姉は子供のころから人に合わせるという行為が異常に上手かった。
今やっている戦い方もこの場所に水を掛けてほしいと思っているとそこに水が飛んでくる具合である。
非常にやり易いのだが・・・。
「思ったよりダメージを与えられてないな」
「ダメなの?お姉ちゃんダメダメなの?」
「いや、クル姉がダメなんじゃなくて・・・」
あ、原因解った。
武器がクエスト用のままだった。
突発的な戦闘だったから武器そのままだったな。
と自分自身に言い訳をしながら武器を鞘に納刀して札を取り出す。
「解放」
クエスト用刀の代わりにガラス製刀(麻痺効果付き)を取り出す。
これなら戦えるだろう。
「あれ?センちゃん武器が変わった?」
「こっちが本来使っている自分の武器なんだよ」
とりあえずこれでまともにダメージが与えられる様になるはずだ。
「クル姉、このまま続けるよ」
「分かったよ」
少なくなったMPをMPポーションを飲んで回復させてから再び攻撃。
案の定というか本来の武器に戻したらダメージが格段に上がった。
このまま順当に行けば倒せるかな。
「クル姉、水の残りは大丈夫か」
「まだまだあるよ。お姉ちゃんに任せなさい」
姉の頼もしい台詞に支えられて攻撃を続けていくが覇王バトルサボテンのHPが残り半分を切った辺りで変化が訪れる。
「ん?おわっっと」
「あわわ!?」
覇王バトルサボテンの身体中にある針が震えたかと思った瞬間に手(?)の部分を残した他の針が発射された。
所謂、回避不能の全方位攻撃ってやつだ。
幸い威力自体はそれほど高くなかったけどが躱せないのはちょっときついな。
「センちゃん大丈夫?」
「あぁ、こっちは大丈夫だ。クル姉は平気か」
「うん、躱したから平気だよ」
あ、躱せるんだ。
若干理不尽な思いに囚われかけたけど我慢しよう。
全方位攻撃後の覇王バトルサボテン特性に変化が出た。
良い方はダメージ倍率が上がったことだ。
針がなくなったことで防御力が下がったらしく一撃で与えられるダメージ量が増えた。
悪い方は覇王バトルサボテンの動きが速くなったことだろう。
それでもAGIを伸ばしていた結果かギリギリではあるが回避することは出来る。
ただし回避の方に意識が向きがちなため攻撃回数は減ってしまっている。
その分クル姉が攻撃に回ってくれたんだけど。
「このまま押し切る」
「うん、分かったよセンちゃん」
その後覇王バトルサボテンは攻撃パターンを変えるようなことは無かったので。
「倒れろ!斬撃」
「オオオオオォォ」
攻撃が足にクリーンヒットして覇王バトルサボテンが前のめりに倒れこんできた。
「クル姉こいつで止めだ。斬撃」
「旋回突き」
二人の攻撃が覇王バトルサボテンの頭に咲いている二輪の花。それぞれを切り落とす。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!」
これが止めになり覇王バトルサボテンを倒すことが出来たのだった。
「やったー!やったよセンちゃん。お姉ちゃんたち最強だね」
「そうだな」
嬉しそうに跳ね回る従姉を勝てたことに安堵する。
巻き込まれる形での討伐だったけど倒すことが出来てよかったよ。
「さ、センちゃん。帰ろっか」
「そうだな」
「って帰ってきちゃダメだろ」
クエストの途中だったのを思い出したのは街に着いてからだった。
「ふむ、なるほどのぉ」
翌日トウシュウサイ道場にてトウシュウサイ先生に刀を見てもらっているところだ。
あれから直ぐに狩場に戻りクエストの残りを終わらせたところでログアウトの時間になっていたので報告は翌日、つまり今日になったわけだ。
渡したクエスト用の刀を見ながら頻りに頷いている。
何だろう、この待ち時間のプレッシャーは・・・。
「のお、お主よ」
「はい、何でしょう」
「この刀でもって何やら強者と戦ったか」
「あ、はい。一応」
覇王バトルサボテンとの戦闘は最初クエスト用の刀を使ってたんだよな。
その意味ではクエスト用刀で強者と戦ったとも言えるか。
正直に事の説明をする。
もちろん途中で武器を持ち替えたこともだ。
「なるほどのぉ。分かった合格じゃ」
良かった。流石に失格だとは言われないだろうけど妙に緊張してしまったよ。
「それにお主には技も伝授しよう」
「技ですか?」
「そうじゃ、本来クエストを受けただけの場合には教えないのじゃがお主の場合は少々勝手が違うしの。
覇王のような強者とも刀を使い渡り合ったのなら伝授してもよかろう」
「本当ですか!ありがとうございます」
こうして「刀技スキル」の他に刀装備時専用のスキルも手に入れることだ出来たのだった。
覇王バトルサボテンは弱くは無いのですがセンやクルクルとは相性は悪いです
一撃は非常に高いのですが大振りのため回避が高いプレイヤーからすればカモになります。
センもクルクルもAGIを高めたスピードファイターなので倒すことが出来ました。
ちなみにサボテンは漢字で書くと仙人掌と書きますが実は覇王樹とも書きます。
なのでサボテンたちのボスは覇王なのです。




