刀技3 従姉
久慈ありせ。
一つ年上の母方の従姉で子供の頃夏休みで母の実家への帰省に付いて行った時の遊び相手だった人だ。
見た目は物静かで奥ゆかしい人と言えば聞こえはいいがどちらかと言うと無口で引っ込み思案で影が薄いくて地味ついでにメガネ。長い髪を三つ編みにしているところから文学少女というイメージがあり、大人し過ぎる人というのが感想だった。
そのため子供心にこの人を守らなければいけないと思いがあり、母の実家で過ごしている間は常に一緒に行動していた。
「大丈夫、怪我してない?」
小学校高学年ころから男子特有の異性に対しての気恥ずかしさからあまり話さなくなり、中学1年の夏に会ったのを最後に受験という理由で帰省しなくなり疎遠になっていた。
「・・・うぅ、それともさっきのこと怒ってる?」
つまり約2年と半年ぶりの再会となるわけだが・・・
「やっぱり嫌われたぁ。シュウちゃんに嫌われたぁ」
その姉とも言える人物が岩場の隅で泣きながら蹲っている。
一体何があったんだろうか。
「えっとアリセ姉、久しぶり。それと怒ってないから安心して」
「ほ、ほんとうに?」
「うん、怒ってないからと言うか何か怒らなきゃいけないことってあったけ?」
「だ、だって・・・さっき声掛けてくれたのに返事できなかったから」
そういえばそうか、あの時は誰か判らないのについ声を掛けたけどアリセ姉からすれば知り合いが声掛けてくれたのに無視してしまった形になるのか。
と言うより実は全然気づいてなかったって事実を話すとこっちが怒られそうだな。
「とりあえず安全なところに行こう、ここだと危ないからね」
「う、うん」
「それにしてもアリセ姉もHGOしていたなんて驚いたよ」
「うん、なんかお母さんが懸賞を間違って送っちゃったらしくて。しかもそれが当たっちゃったの」
バトサボの沸かない場所に移動してから改めて話掛ける。
秘儀場面転換による話題そらし。
「間違えてって・・・相変わらずですね、真知子おばさんは」
「でもおかげでシュウちゃんとも会えたしお母さんに感謝かな」
にっこりと笑いながら話しかけてくるアリセ姉。
久しぶりに会ったけどどうやら変わっていないみたいだな。
「そうだ、アリセ姉はアバターネームと職業は何にしたんだ?」
「名前と職業?名前はクルクルって名前にしたよ」
「クルクル・・・じゃあクル姉かな。俺はセンだ」
「センちゃんだね。かわいい名前」
「クル姉・・・ちゃんはやめてくれと昔から言ってるだろ」
「えーシュウちゃんは昔からシュウちゃんだよ。だからセンちゃんもセンちゃんなんだよ」
今回もダメか。
アリ・・・クル姉はいくら言ってもこの呼び方を変えてはくれなかった。
まさかゲーム内でもちゃん付で呼ばれることになるとは・・・。
「まあ呼び方のことは諦めるよ」
「そうそう、人間諦めが肝心だよ」
「クル姉が言うな!」
大人しい外見通り引っ込み思案で自分から折れることの多い人だが何故か俺に係る事柄で絶対に譲らない箇所が多々ある、呼び方もその一つだ。
これらに関してはもう諦めている。
「それと職業だけど戦士系職業の棍術士だよ」
「棍術士?装備は杖みたいだけど。もしかして杖術士か?」
「うん、そうだよ」
棍術士は棍または杖を武器として扱う職業だ。
特徴としては戦士系でありながら魔法スキルとも相性が良いことだろう。
ただし戦士系としてはと注意が付く。
「クル姉、杖使いの棍術士がなんて呼ばれているか知ってる?」
「え?よく知らない。ずっとひとりでやってたから・・・」
ソロオンリーか。
引っ込み思案なクル姉っぽいな。
杖を使う棍術士、通称杖術士だがプレイヤー間では扱いが難しい上級者向け玄人職と呼ばれている。
その理由は器用貧乏と呼ぶのも生ぬるい中途半端さだろうか。
棍術士が棍を主体として戦う場合は何も問題がない。
棍の特徴はその変幻自在さだろう。
近距離から中距離まであらゆる間合いでの攻撃が可能で、離れても魔法スキルによる遠距離攻撃も可能とオールレンジの対応が可能の職業だ。
ただしその棍を杖に変えると話は変わる。
確かに杖なら遠距離での魔法攻撃の威力は上がるがそれはあくまでも戦士系にしてはであって、結局本職の魔法術士には負ける、それでいて近中距離での戦いでは杖だと攻撃力不足になる。
結果出来上がるのが劣化魔法術士とも呼ばれる存在だ。
それ故扱うプレイヤーによっては不遇職になる。
「あー、センちゃん。お姉ちゃんが弱いとおもってるでしょー」
「そういう訳ではじゃないんだけど」
「大丈夫。見てなさい」
そういいながらクル姉は近くに居たバトサボに向かっていく。
「付与速力、旋回突き(スパイラルスタブ)」
自分に速度上昇の付与をしてから棍術士のスキルを使い持っている杖を螺旋状に回転させ一撃を加える。
それからは目を見張る動きだった。
杖を自在に振り回し攻撃を加えていくだけでなく蹴りやたまに杖からも何かが飛んでいるおそらく風魔法だろう。
それらの息もつかせぬ連続攻撃でバトサボを倒したのだった。
結果、攻撃回数では自分の倍近く攻撃していたが自分より短時間で倒している。
いや、自分の場合メイン武器じゃないからだからね。
「どう、センちゃん。お姉ちゃん強いでしょ」
確かに強い。
一撃一撃はとても弱いがとにかく手数が多いのだ。
「もしかしてだけど蹴術と詠唱短縮のスキル持ってる?」
「正解、流石センちゃんだね」
詠唱短縮。
魔法術士向けのスキルで簡単に言えば文字通り魔法の発動までの時間の短縮だ。
魔法と言うのはスキルの詠唱開始から実際効果が発揮されるまで時間差が存在する。
強力な魔法ほどその時間が長く、また詠唱中はプレイヤーは動くことが出来ないのだ。
その詠唱時間を短くするのが詠唱短縮スキルだ。
ただしデメリットとして威力の低下と言うものもあるようだけど。
つまりクル姉の戦い方とは、杖と蹴りそれと魔法の中では出が速い風魔法をさらに詠唱短縮によりさらに速くして本来なら魔法が使えない接近戦で魔法攻撃を加えた連続攻撃スタイルと言ったところだろう。
「むぅ、まだお姉ちゃんの言うこと信じてないな。見てなさいよー」
そういうとクル姉は再びバトサボに向かっていく。
そんな信じてないわけないのにな。
「あ・・・」
「え?」
クル姉が赤い花を二つ付けたバトサボを攻撃した状態で固まっている。
ん?・・・花を二つ?
「ごめん、覇王叩いちゃった」
「覇王?」
覇王って確か・・・
「オオオオオオオォォォォォォ」
不気味な雄叫び(?)と共にクル姉が攻撃した二つ花のバトサボが大きくなっていく。
「思い出した!ハオ砂漠に居るフィールドボスじゃないか」
覇王バトルサボテン。
ここハオ砂漠にいるフィールドボスで通常のバトサボに混じっていて見分け方は花がふたつ付いていることだけだ。
そして間違えて攻撃を加えるとその本性を現す。
そうして現れた覇王バトルサボテンは通常のバトサボより大きくなりこちらを見下ろしてくる。
「完全に標的にされてるねー」
そういえばクル姉はドジっ子だったな。
キャラクタープロフィール
・クルクル
・棍術士
・センの一つ年上の従姉。
杖を主武器に使う通称杖術士
蹴術と風魔法、詠唱短縮を駆使しての連続攻撃が得意
センに対してはそうでもないが基本人見知り。
そのため今までソロで動いていた。




