第二の街4 交渉
ハイジマからツノハのルートは主にふたつ。
森を抜ける陸路か船を使った航路だ。
航路はお金は掛かるが森の魔物達と戦闘を行わなくても良いので主な利用者は生産職の人達になる。
ただし極まれにだが海にいる強力な魔物に襲われ船が難破するのだ。
その頻度は一月に1回あるかないか程度で2時間ごとに出航していることを考えれば確率としては1%未満だろう。
つまりその1%未満にカグツッチーは見事にぶち当たったわけだ。
ちなみに船が魔物に襲われた場合にどういった処理をされるかというと。
まず死に戻りは通常通りに処理をされる、つまりスキルレベルのダウンとステータスの一時低下だ。
次に船賃の払い戻しだが当然の様に全額払い戻しにはならない。払い戻されるのは1割だけになる。
そして一番やっかいなのはしばらく船が運休することだろう。
しかもこの運休は放って置けば勝手に再開されるということはなく、ギルドから発令される緊急クエスト「海の魔物退治」をクリアしないと再開されないのだ。
この「海の魔物退治」クエストは海洋系の魔物を討伐していくもので、達成値は全プレイヤーで共有する。つまりひとりのプレイヤーがクエストをクリアしても達成値はせいぜい0.01%にもならない程度だがこの達成値を全プレイヤーでクリアしていき100%にすれば船の運航が再開するわけだ。
ただしかなり達成値は高く設定されているらしく全プレイヤーがフル活動でクリアしていったとしても達成値100%になるには半日は掛かるクエストだ。もちろんフル活動なんてしないだろうから船の運航再開するには4~5日ほど掛かると予想されている。
ちなみにクエスト報酬はかなりおいしいので誰もやらないなんて事態にはならないとのこと。
「それでどうするのー」
「ヤクミチが事情を話してくれてたみたいで依頼は受けてくれるってその代わり交換条件があるとか」
「交換条件ってなによ」
「森ルートでツノハ行くための護衛だってさ」
船の運休はしばらく続くだろうしそうなると森からのルートしか無くなるわけだが基本的に生産職の人達は戦闘力は低いので臨時PT等にはあまり歓迎されない。そのため森ルートを抜ける生産職プレイヤーは意外と少ない。
リンドウのように気心知れた友人たちがいる場合はそうでは無いのだが。
「まあそれぐらいなら問題ないけど・・・着いたばっかりなのにもう戻るのか」
「まあ、その分装備の製作費安くしてくれるらしいですよ」
その辺りのことはヤクミチが交渉してくれたらしく護衛してくれれば装備を使った素材分だけの値段で譲ってくれることになったのだが・・・
「代理交渉代としてヤクミチも同行したいって」
「さすがヤクミチ、抜け目ないよ」
そうするとスイがほほに手を当てながら少し困った感じに言ってきた。
「そうなるとPTからふたり抜けなきゃいけないわね、センくん悪いんだけど一旦抜けてくれるかな」
「俺ですか?いいですけど」
たしかに俺達は7人でフルPTだから別の人を入れるとなると誰か抜けなきゃいけないのはわかるし抜けるのは別にいいけど何で俺?
「センくんはツノハでやることがあるでしょ、だから今回は抜けてね」
やることと言うと図書館での調べものの事かな、墓部屋で会ったフウオウと名乗ったあの老人のことだ。
だけど取り立てて急ぐ用事でも無いんだけどな。
「お願いね」
うん、この妙に威圧する雰囲気で理解できた。スイは気を使ったんじゃなくて自分自身が早く知りたいから調べるために残れって言ってるのか。ここは逆らわない方が良いな。
と言うより自分で調べた方が良くないか?
「それでもう1人だけど」
「それなら俺が抜けていいか?」
皆の視線がレトに集まる、レトが抜けるのか?
「レト、あなたが抜けられると攻撃に少し不安が出るんだけど」
「なに問題ないだろ。こいつらだってレベル上がってるんだし大丈夫だ」
「それはそうだけど」
「レトさんは何の用事があるの?」
「それは、えっと。まあ色々な」
何だろう、妙に眼が泳いでるな。
「レト、貴男まさか・・・」
「レト・・・そういうことかよ」
「ま、待て、今回はそんな無茶しないから。大丈夫だから」
なんだろう?
モンドとスイは何なのか分かったみたいだけど?
結局何の説明の無いままレトはどこかに姿をくらましてしまった。
その後6人で勇士の像に登録をしておく。
登録をしておけば勇士の像を通じて街の間をお金が掛かるが転移することが出来る。
ただし今回はカグツッチーのペナルティ時間があるので歩いて戻ることにするらしい。
街の東側にあるという図書館を目指して移動する。
ツノハの図書館は歴史や人物に関しての蔵書がそろっているらしくプレイヤーの間でも所謂設定マニアな人達に人気の場所になっている。
今回調べるのはフウオウと名乗る老人なのでツノハの図書館は最適なのだ。
ちなみにゲーム内に図書館は2カ所ありもうひとつは魔都マハートにある。
魔都の図書館の方は魔法やスキルに関しての蔵書が充実しているらしくこちらもいずれ見に行きたい場所だ。
「見えた此処がツノハ図書館か」
目の前には周りの建物より3倍は大きい建物が建っていた。
ツノハ図書館だ。
「海の魔物退治」に関して
討伐対象は船を襲った巨大魔物ではなくてあくまでも海にいる魔物に対してです
巨大魔物は他の魔物をエサにしているのでそのエサを減らして住みづらくして追いだそうという消極的な作戦なのです




