表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の射手(マジックシューター)~この矢はきっと誰よりも遠い場所へと届く~  作者: らる鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/66

23


 シャガルの神殿が有する荘園となってるハヴァスの村は、川の流れに沿って半日程上流に向かい、そこから数時間西に行った場所にある。

 つまりシャガルまで徒歩でも一日と掛からない、近い距離にある村だ。

 これが上流に向かって一週間も掛かるような場所だったら、林業をやるにもエルフと揉める地域だから、神殿は本当に立地の良い村を、荘園として保有していた。

 村の位置から考えて、今回の件にエルフの関与は、ほぼないものと思っていい。


 川の傍には木材の集積所がある。

 だが普段は丸太が山と積み上げられているだろうその場所には、何も置かれていなかった。

 

 集積所から村までは太い道と水路が整備されていて、とても歩き易い。

 恐らく村から集積所まで丸太を運ぶ馬車を走らせる為に、この道は整備されているんだろう。

 けれども今はその馬車も走らず、集積所にも丸太が置かれていないのは、そう、木を切る為の林に、魔物が棲みついて危険な状態にあるからだ。


 村近くには麦畑が広がっていて、穂が実りを付けている。

 今年は気候も安定してたから、この辺りの村でも豊作が期待されていると聞く。


 ハヴァスの村に入ると、既に神殿からの連絡は来ていたのだろう。

 僕らはすぐに村長のところへ案内されて、詳しい状況を聞かされた。

 もちろん詳しい状況と言っても、その大半は村がどれ程困ってるかという訴えで、具体的に役立つ情報は、樵が目撃した魔物の特徴くらいしかないけれども。


 さて、その話によると、村が木材を得ている林に棲みついた魔物の種類は少なくとも四種。

 一種目は、ゴブリン。

 ハーフリングであるパーレとあまり体格が変わらない、人型の魔物だ。

 人間よりも小さくて、人間よりも力が弱くて、人間よりも頭が悪い。

 具体的に言えば、10歳くらいの子供の体格、力、知能を持った魔物だと思えば大体間違いではないだろう。

 つまり魔物の中では、かなり弱い部類になった。

 けれども10歳の子供もその気になって武器を持てば、数が集まれば大人を殺せてしまうように、ゴブリンも武器や罠を使って、人を殺せる魔物だ。

 また繁殖力に関しては人間よりもずっと強く、ゴブリン同士じゃなくて人間等の人の胎や、鹿などの動物と交わってもゴブリンの子供が生まれる。

 故に十分な餌と母胎さえあれば、一国を滅ぼせるくらいに数を増やす事もあるらしい。


 二種目は、……これは目撃情報だけじゃ正確に種が絞れてないんだけれど、パピヨンと呼ばれる蛾や蝶の魔物のいずれか。

 炎蛾えんがと呼ばれる燃える鱗粉をバラまくパピヨンは、居れば林が火事になってるだろうから除外するとして、毒の鱗粉をバラまく毒蛾どくが、吸うと幻覚を見る鱗粉を出す幻蛾げんが辺りは注意が必要だ。

 特殊な鱗粉はバラまかないが、口吻を伸ばして生き物に突き立て、体液をすする人喰い蝶も、低空に限られるけれど飛ぶというだけで、そこそこに厄介な魔物である。


 三種目は、チャージディア。

 巨大で非常に好戦的な鹿の魔物。

 鹿の魔物であるにも関わらず肉も好む為、積極的に他の生き物を襲う。

 その他にも、時期によっては角をぶつけて木々を圧し折るといった行動を取るので、村の林業の事を考えれば、一刻も早く駆除しなければならない魔物だ。

 いや、そうでなくとも、チャージディアは村の存在に気付けば、襲撃をしに来る可能性が非常に高い。


 四種目は、大蛙。

 これはゴブリンくらいなら一飲みにしてしまう大きな蛙で、本来ならば水場に棲む魔物だ。

 林には大蛙が棲めるような水場はないそうなので、乾きに弱っているか、或いはより狂暴になっているかもしれなかった。


 さて、以上が目撃された魔物だが、まぁ、この四種だったら、僕らは問題なく駆除できる。

 もちろん目撃された以外の魔物が林にやってきてる可能性もあるので、注意は必要になるけれど。

 依頼の第一段階である林に現れた魔物の駆除に関しては、恐らく問題はないだろう。


 ……ただ、チャージディアまで林にやってきてる、つまりは何らかの脅威から逃げたとなると、これは少しばかり厄介な予感がした。

 村長曰く、林を向こう側に抜け、更に数時間歩くと、人が立ち入らない森があるという。

 恐らく魔物達はそこからやって来たんだろうけれど、何らかの自然災害でその森の環境が変わり、魔物が逃げ出したというなら、村にとってはその災害が広がらないかって注意は必要になるけれど、僕らにとってはどうしようもない、関わりのない話だ。

 けれどもより強い魔物がそこに棲みついて、他の魔物達が縄張りを奪われて逃げ出したというなら、……好戦的なチャージディアが戦わずして逃げるくらいに、大きな脅威がそこに現れたって可能性がある。


 そう、可能性。

 あくまで可能性の話だけれど、どうにも嫌な予感がした。


 いずれにしても、まずは林の安全の確保から。

 僕はシュイに飛んでもらって、上から林の様子を観察し、魔物の姿を探す。

 尤も木々の陰に隠れられると、大蛙やチャージディアくらいのサイズがあるならともかく、ゴブリンやパピヨンは非常に探しにくい。

 他にも小さな魔物が林のどこかに隠れている恐れもあるから、結局のところ、僕らは林をしらみつぶしに歩く必要がある。


 あくまで人が管理してる林だから、その大きさは大したものじゃないけれど、昼間に探索して、夜は村に戻って休むって形を繰り返すなら、……まぁ、三日くらいは掛かるだろう。

 滞在場所や食事は村が用意してくれるらしいから、時間が掛かる事に関しての心配は特にないけれど、更に原因の調査と排除が待っていると考えると、中々の大仕事だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ