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第1話スキル授与式④感謝

☆前話を読み飛ばした方向けの簡単なあらすじ☆

誠二はこどもの頃から母親や兄に邪険にされて、本を読んでさみしさをまぎらわせていた。

小学校4年生の夏、兄の血液型の話から、父と兄は血がつながってないとわかり、

両親は離婚し、母と兄の親子三人で暮らすことになり、ますますさみしくなる。

唯一の心の救いは、父方の祖母宅ですごした時の猫のミーナさんとの思い出だった。

一年後の小学校五年生の秋、ヒキニートになって色々こじらせた兄がいじめていた

猫をかばった誠二は、猫のかわりに死んでしまった。

「ありがとう!」

 すぐ近くで聞こえた女の子の声と同時に、ぎゅっと両手をにぎられて、びくっとする。

「え、あ? ……え?」

 あわてて目を開けると、高校生ぐらいのお姉さんに、ぎゅうぎゅう両手をにぎりしめられてた。

 見たことない人だけど、誰だろう。

 優しそうな顔つきだけど、力はけっこう強いのか、手がちょっと痛い。

 でも、このお姉さんが誰かわからないから、なんて言ったらいいかわからない。

 あわててまわりを見回したけど、なんだか白っぽい部屋ってことしかわからなくて、ぼくたち以外は誰もいない。

 ここ、どこなんだろう。

 なんでこんなところにいるんだろう。

「あ、ごめんね、苦しかった?」

「ぁ、いえ、はい……」

 お姉さんは力をゆるめてくれたけど、手は放してくれなくて、そのままブンブン上下にふる。

「本当に、ありがとう!

 キミのおかげで、あのにゃんこは助かったよ!

 ありがとう!!」

「にゃんこ……?」

「そうよ」

 にっこり笑ってうなずかれて、ようやく思いだす。



 お兄ちゃんから、猫をかばって。

 落ちそうになって。

 せめて猫だけはって。

 じゃあ、ぼくは。



「……よかった……」

「え?」

「猫、助かって、よかった……です」

 友達にしゃべるみたいに言いかけて、知らないお姉さんだと思いだして、あわてて『です』を足す。

 お姉さんはくすっと笑う。

「普通に話してくれていいわよ。

 あ、自己紹介がまだだったわね。

 私、ここの斜め向かいの次元で暮らしてる女神よ。

 名前は、この世界の子には聞き取りも発音もできないだろうから、省略ね」

「……はあ」

 女神様、なんだ。



「信じられない?」

 からかうように聞かれて、うなずきかけて、首を横にふる。

「神様はいるんだよって、お父さんが言ってたから」

 だから、神様がいるってことは、信じてる。

 ゲームとか小説とかの女神様は、若くてかわいい場合が多いから、このお姉さんが女神様って言われても、おかしくないと思う。

「じゃあ、何が気になるの?」

「気になるっていうか、……神様がいても、会えるとは、思わなかったから」

「それは確かに。

 普通は会えないんだけど、キミは特別よ。

 にゃんこを助けてくれたから。

 それと、ミーナさんの推薦があったから」

「……え?」

 ふいに知ってる名前が出てきて、びっくりする。

「ミーナ、さん?

 神奈川の、まゆみおばあちゃん家の?」

「そうよ。

 ミーナさん、どうぞ~」

 お姉さん……女神様がふりむいて手招きすると、白っぽいもやの向こうのほうから、ミーナさんがトコトコ歩いてきた。




「ミーナさん、そんなに早く歩けたの?」

 おばあちゃん家では、すごくゆっくりで、ほとんどおばあちゃんに抱かれて運ばれてたのに。

 ぺたんと座って、近寄ってきたミーナさんを出迎える。

 ぼくが知ってるミーナさんは、ヨロヨロ歩いて、毛はぱさぱさで色が薄くて、目は白くなってて、やせてた。

 でも、目の前のミーナさんは、前より動きが早くて、毛はサラサラで色がくっきりしてて、目はきれいな金色だった。

 ミーナさんは、ぼくの前に足をきちんとそろえて座る。

「にゃう(一番元気なころの体に戻ったからね)」

「……え?」

 ミーナさんの鳴き声に、誰かの声が重なって聞こえた。

 思わず女神様をふりむいたけど、にっこり笑って首を横にふられた。

「私じゃないわ」

「え、でも」

「ミーナさんよ。

 私がいるんだもの、おしゃべりできるぐらい当然よ」

「あ、そう……なんだ」

 女神様の力って、ことなのかな。

 ひざにやわらかい何かがさわって、視線を戻すと、ミーナさんが前足でぼくの膝をフミフミしてた。

「え、なに、ミーナさん」

「にゃ(まったくもう、見守ってあげるつもりだったのに、こんなに早く死んじゃうなんて、困った子ねえ)」

「え」

 …………あ、そうか。


 

 ぼく、死んだんだ。

 だから、女神様やミーナさんとおしゃべりできるんだ。

 


 納得したら、なんだか笑いがこみあげてきた。

「にゃ(どうしたの?)」

「なんだか、死んでからのほうが、楽しいなって。

 ……この一年ぐらいずっと、ひとりで、さみしかったから」

「にゃう(そうだったみたいねえ)」

「え、ミーナさん、どうして知ってるの?」

「はーい、そこからは私が説明するわね」

 いつの間にか、ぼくのとなりに座ってた女神様が、軽く手をたたいて言う。

「あ、うん、お願いします」

「えっとね、まず、私の世界には、にゃんこがいないんだけど、こっちの世界に遊びに来てにゃんこに出会って、一目惚れしちゃったの。ぜひとも私の世界に移住してほしかったんだけど、生き物の移住って色々制約があって、そのままでは無理だった。でも諦めきれなくて、粘り強く交渉して、ようやく魂が待機中の時の一時滞在ならいいってことになったの。あ、魂はね、同じ世界の中で循環してるんだけど、死んでから次の生を受けるまでの間に待ち時間があるのよ。本来はこの世界の天国みたいなところで待つんだけど、私の世界に旅行に行くみたいな感じで許可もらったの。だから、私の世界の神界に箱庭世界を創って、お迎えすることにしたの。

 ここまではオッケー?」

「えっと、……うん」

 女神様の早口での説明は、よくわからなかったけど、とりあえずうなずく。



「でね、いろんなにゃんこに声をかけて、けっこうな数のにゃんこに来てもらえるようになったんだけど、その中で『飼い主も一緒なら行く』って言うにゃんこがいてね。

 私の世界でもお世話係は用意してたけど、慣れた相手のほうがいいって言われて、それもそうだなって思って。

 またこの世界の女神に交渉して、世話係の人間の魂をちょこっとちぎって形成して、そこに記憶をコピって、私の世界の世話係の肉体に入れられるようにしたの。

 魂もほんとは移住禁止なんだけど、大豆サイズぐらいなら見逃してもらえるのよ」

 言いながら、女神様は何かをつまんでひきちぎるような動作をする。

 ……魂って、ちぎれるんだ。

「それで、ミーナさんを勧誘してたら、キミを連れてきたいって言われてね。

 死後だったら、ちぎっても自然に修復されて次の生に影響でないんだけど、生きてるうえにこどもだと影響が大きいから、キミが寿命で死ぬまで、ミーナさんと一緒に見守りながら待つ予定だったの。

 なのに、キミが突然死んじゃったから、びっくりしたわよ」

「にゃ(そうよ、私が死ぬ時に、まゆみさんに『誠ちゃんを見守ってあげて』って頼まれたから、そばにいたのに。急すぎて助ける隙もなかったわ)」

 ミーナさんが、前足でぽすんとぼくのひざをたたく。

「あ……ごめんね。

 え、あれ、……ミーナさんも、死んじゃったの?」

「にゃう(そうよ。しばらく前にね)」

「えっ」

 そりゃ、年寄だって聞いてたし、お医者さんに『そろそろ覚悟しておいてください』って言われたって、おばあちゃんが悲しそうに教えてくれたけど、でも、死んじゃったんだ……。

「にゃ(二十一年生きたもの。十分よ。誠ちゃんは短かすぎよ)」

 責めるような目で見上げられて、思わず目をそらす。

「……そう、だね、でも、……ほっとけなかったんだ」

 ミーナさんがやさしくしてくれたから、猫は、ぼくにとって特別な生き物になった。

 洗濯ネットの中の猫は、ミーナさんじゃないことはわかってたけど、それでも、猫っていうだけで、見逃せなかった。



「そうよね!

 本当に、あの子を助けてくれてありがとう!」

 横にいた女神様が、また嬉しそうに言う。

「本来は、他の世界の生物の生死には手出ししちゃいけないんだけど、この世界の女神もにゃんこ好きだし、こっそりオッケーくれたから、洗濯ネットの中で弱いバリアを張って、死なないように守ってたの。

 でも、キミがかばわなかったり、キミと一緒に落ちてたら、守りきれずに死んでたと思うわ。

 キミが最後の力を振りしぼって太田さんに投げてくれたから、助かったの。

 本当に、ありがとう!」

 あ、そうか。

 猫が大好きな女神様だから、こんなにお礼言ってくれるんだ。

 でも。



「よその世界とはいえ、神様なのに、助けられなかったの?」

 ぼくの質問に、女神様は悲しそうな顔になってうなずく。

「そうなの。

 ラノベやゲームでは『すべては神の掌の上』とか言うけど、そこまできっちり作りこむ神はめったにいないわ。

 私達はそこまで運命に干渉してなくて、流れに任せてるから、うーん、そうね、全自動洗濯機を想像してくれる?」

「洗濯機……?」

「そう、洗濯機。

 服と洗剤を入れてスイッチを押したら、後は洗濯機任せで、たとえ中で服がからまったり、洗剤が多すぎて泡モコモコになったりしてても、見てる人間は手出しできないでしょ?

 なんとかするには停止ボタンを押すしかないけど、そうすると泡はつぶれちゃう、つまり中の世界を壊しちゃうことになって、結局助けられないのよ」

「……なるほど……」

「だから、人間にいじめられて死ぬはずだったにゃんこが助かったのが、すごく嬉しいの」

 本当に嬉しそうな笑顔で言われて、ほっとする。

「よかった。

 あ、でも、あの子、けっこうケガしてたと思うけど、ちゃんと治ったの?」

 洗濯ネットに血がついてたし、人間のぼくでも痛い攻撃だったから、猫にはもっと痛かったはず。

「ええ、全身あちこち骨折してたけど、私がこっそり保護してたから、致命傷にはなってなかったの。

 太田さんと上の階の猫好き男性がお金を出し合って病院に連れてって治療してもらえたし、多少は後遺症が残って後ろ足をひきずることになりそうだけど、誰かに室内で飼われるなら、問題ないぐらいの軽度よ。

 太田さんが飼うって言ってくれたから、大丈夫」

「え、でも、あの団地、ペット禁止だよ?」

「そうね、だから千葉の娘さん夫婦と同居するらしいわ。

 前から誘われてたんですって。

 猫を連れてくことを条件にしたら、娘さんより、にゃんこ好きの婿と孫娘が喜んでオッケー出してたわ」

 さすが神様、そんなことまでわかるんだ。



「でね!

 私の世界に、ミーナさんの世話係として移住してくれるかな。

 見ず知らずのにゃんこに命をかけてくれたキミなら、もちろんオッケーしてくれるよね!

 なんと今なら、私からのお礼特典と、この世界の女神からの餞別特典と、二つも特典が付くよ!

 どう!?」

 ふいに顔を寄せて熱心に言われて、びくっとする。

「え、っと……」

 これって、ラノベやアニメで流行りの、転生ってやつかな。

 神様が特典くれるっていうのも、テンプレだよね。

 ……正直、この世界に、未練はないから、ミーナさんと一緒なら、異世界でもいいかな。

 ちらっとミーナさんを見ると、ミーナさんもぼくを見てた。



「にゃ(一緒に行きましょうよ。今度こそずっとそばにいて、守ってあげるから)」

「……でも、ほんとに、ぼくでいいの?

 まゆみおばあちゃんは?」

「にゃう(まゆみさんも好きだけど、最初の飼い猫のトラオさんが見守ってるから、大丈夫よ)」

「トラオ……?

 …………あ、おばあちゃんが写真見せてくれた、あの子?」

 去年の夏休みにおばあちゃん家で暮らした時に、おばあちゃんがこどもの頃からずっと猫を飼ってたっていう話をしてくれて、歴代の猫の写真も見せてくれた。

 おばあちゃんが五歳の時に家にいた猫が生んだ子の一匹がトラオで、おばあちゃんが初めて名前を付けた猫だって言ってた。

 他の猫より大きくて、けっこうやんちゃだったけど、おばあちゃんにだけは優しくて、お兄ちゃんみたいな存在で、家族よりなかよしだったらしい。

 おばあちゃんが小学校二年生の時、下校途中で追いかけてきた野良犬から泣きながら逃げてたら、トラオが駆けつけて、野良犬に飛びかかって、追いはらってくれた。

 でもトラオもあちこち噛まれて重傷で、その日の夜におばあちゃんの腕の中で死んだ。

 その当時、動物病院は都会にしかなかったし、猫を医者にみせるなんてありえないことで、こどもだったおばあちゃんには助けようがなくて、抱きしめて見守ることしかできかったんだって。

 おばあちゃんは、一週間泣き暮らしたらしい。

 『あれから何匹も猫を飼ったけど、トラオのことは今でも忘れてないわ。大好きよ』って言ってた。

 そっか、トラオさんもおばあちゃんが大好きで、そばにいるんだ。



「うん、実はトラオさんが、最初に『飼い主だった人間を一緒に連れていけるなら、行ってもいい』って言ったにゃんこなのよ。

 後十年ぐらいして、まゆみさんが寿命で亡くなったら、一緒に移住してもらう予定。

 いつか、会えるかもしれないわね」

 女神様がにっこり笑って言う。

「そうなんだ……」

「だから、ね!

 来てくれるわよね!」

 女神様の押しの強さがちょっとこわかったけど、小さくうなずいた。

「……はい。

 あの、よろしくお願いします」

「やったあ! ありがとう!」

「わっ」

 声をあげながら飛びつくように抱きしめられて、びくっとする。

「にゃうん(女神様、誠ちゃんがびっくりしてるわよ)」

「あらごめんね、嬉しくてつい。

 ミーナさんも、ありがとう。

 熱烈歓迎するわね!」

 すぐに離れた女神様は、ミーナさんの横に座って、優しい手つきでそっと背中をなでた。

「にゃ(ええ、よろしくね)」

「任せてちょうだい!

 さてじゃあ誠二くん、転生特典を決めてちょうだい」

 にこにこ笑顔の女神様に言われて、しばらく悩む。



「……えっと、どんなことでもいいの?

 ダメなこととか、オッケーな範囲? 条件? 使命? とか、ある?

 ミーナさんのお世話係以外に、世界を救うとか、そういうの」

 ぼくが図書館で借りて読んだラノベの中には、転生特典をいっぱいお願いしたら神様にめんどくさがられて、転生後に苦労するって話もあった。

 すごい特典をもらったけど、そのぶん危険な使命があって、仲間が死んじゃったりするパターンもあった。

 念のために確認すると、女神様はくすっと笑う。

「そういうのはナシ。

 やってほしいことは、ほんとにミーナさんのお世話係だけよ。

 まずは、この世界の女神からの餞別特典ね。

 これは、特別な能力とかスキルとかじゃなくて、お願いをひとつ叶えるって感じね。

 大好きな人に夢でお別れを言うとか、大嫌いなやつに復讐するとか、誰にも見られたくないモノを消去するとか、この世界でできることで考えてね」

「この世界で……」

 お父さんや、まゆみおばあちゃんや、太田さんに、お礼とお別れを言いたい。

 でも、夢に出てきたら、かえって気にしちゃうかな。

 ……お兄ちゃんのことは、きらいだけど、復讐したいとまでは、思わない。

 見られたくないモノも、ないかな。

 でも、せっかくもらえるなら、何か…………。



「あ」

「決まった?」

 女神様にやさしい声で聞かれて、ためらいながら言ってみる。

「あの、……お兄ちゃんがいじめてた、あの洗濯ネットの猫さんのケガ、治すっていうか、後遺症を軽くしてあげることって、できますか……?」

「えっ」

 真顔で固まった女神様を見て、あわてて言い訳する。

「あの、だって、ぼくたち家族の問題にまきこまれてかわいそうだから、なんとか、してあげられたらなって思って。

 獣医さん、ていうより、人間では治せないケガでも、女神様ならいけるかなって、思ったんです……」

「……………………」

 無言でまじまじ見つめられて、おちつかなくなってくる。

「……ごめんなさい、無理なら、他のことに」

「あー、もう、キミさいっこう!」

 突然叫んだ女神様に、またぎゅっと抱きしめられた。

 しかもぎゅうぎゅう力をこめられて、女神様の肩に当たってる鼻がちょっと痛い。

「にゃっ(女神様、誠ちゃんが痛がってるから、放してあげて)」

「あ、ごめん!

 あんまりにも嬉しかったから、つい興奮しちゃった!」

 ミーナさんに言われて、女神様はすぐ腕をほどいてくれた。

 でもほっとするより前に、最初の時と同じように両手をぎゅっと握られる。

「ほんとはね、私がこっそり治したかったの。

 でも、他の世界の神がそこまで生き物に干渉するのはダメって言われたから、諦めたのよ。

 だけど!

 キミのお願いっていう形で餞別特典を使うならオッケーって、この世界の女神が言ってくれたの!   

 これで、後遺症が残らないように治してあげられるわ。

 本当にありがとう!」

 さっき無言だったのは、女神様どうしで話をしてたからなのかな。

 無事認めてもらえて、ほっとする。

「よかった、じゃあ、特典は、『あの猫のケガをできるかぎり治す』で、お願いします」

「任せておいて!

 じゃあ、私の世界での特典は何にする?

 こっちは、転生後の自分を想像して、ほしい能力を考えてね。

 身体強化とか、魔法特化とかでもいいわよ」

「ほしい能力……」

 そう言われて思いついたのは、一つだけだった。



「……目が良くなると、うれしいな」

「目? 視力って意味?」

 女神様はきょとんとする。

「うん、視力が良くなると、うれしい。

 最近目が悪くなって、いろいろぼやけて見にくいから」

 ベッドでカーテンを引いて、薄暗い中で本を読んでたから、どんどん目が悪くなって、最近ではかなり見えにくくなってた。

 でも、眼鏡は高いって聞いてたから、お母さんには言えなかった。

「それだけでいいの?

 目からビーム出せたり、魔眼とかもいけるわよ?」

 女神様の言葉の意味はよくわからなかったけど、なんだかこわい気がするから、小さく首を横にふって、はっきり主張する。

「目が良くなるだけでいいです」

「……わかったわ」

 女神様はなんだか残念そうにうなずいてから、急ににこっと笑う。

「でもそれだとキミの特典が軽くなりすぎるから、特別に強化しておくね!」

「……え?」

 意味がわからなくて首をかしげると、女神様が得意そうに胸を張る。

「これは秘密なんだけど、特典にはランクがあるの。

 わかりやすく言うと、上中下かな。

 たとえば、『たくさんお金がほしい』っていう願いだとしたら、渡すお金は下が百万円、中が一億円、上が百億円、っていう感じになるのよ。

 キミのお願いは中ランクだから、目を良くするなら、視力が常人の三倍ぐらい良くて、一生そのまま悪くならないって感じね。

 でも、餞別特典をにゃんこのために使ってくれたから、お礼として上ランクにアップして、【目に関するあらゆる能力を使いこなせる】ってことにしておくね!

 うまく使いこなせばほぼ無敵だから、がんばってね!」

 え、無敵って言われても……。



「あの、戦うとかしなくていいなら、無敵とか、そこまですごい能力は、いらないと思うんだけど……」

 おそるおそる言ったけど、女神様はにっこり笑う。

「遠慮しないで、もらってちょうだい!

 私からの感謝のきもちよ!

 あ、そろそろ時間ね。

 えっと、能力と記憶の覚醒は成人式と同時だから、それまでは普通の転生ライフを楽しんでね。

 詳しい力の使い方は、その時に話すわ。

 もちろん、ちゃんとキミが幸せになれるように、安全安心な国と町と家庭を選んで送りこめるように段取りするから。

 キミに記憶がなくてもミーナさんはおぼえてて、キミのそばにいて、キミを助けてくれるだろうから、大丈夫。

 じゃあ、成人式の時にまた会おうね!」

 一方的に言いきった女神様が、ぎゅっとぼくの手を握ると、眠くなった時みたいに、ふわっと意識がかすむ。

 え、もう?

「あ、あの、女神様、ありがとうございます……」

 なんとかそれだけを言えたところで、目の前が白くなった。

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