第四話 -第2回ぷりんちゃん放送局-
――バリバリ、ボリボリ!
うめぇ!
あ、それではバリボリ、本日の放送を始めますモグモグ、パーソナリティはもちろん――
「食べながら話すな! というか、カウントダウンしといてわざわざ口に入れるな!」
何言ってんですかモグモグ、皆さんがのんびりゆったり食事を取っている最中、我々だけが食べられないなんてなんたる差別、なんたる虐待、こうして差し入れまで頂いたということは、もちろんこの場で食べろってことで。
「ないない」
むしろ食べてる音声を30分間垂れ流しにする方が、皆さんの食欲もいっそ増すというもので。
「増さない増さない、むしろ引くってば」
はいはい、そんなわけで今週も始まりました!
パーソナリティはもちろん、どうもボクです。
「アシスタントのチルです」
はい、サポートアシスタントというよりは、ツッコミアシスタントですね。
それでは、本日の放送もこの二人でつつがなくやっていきたいと思います。
いや~、何事もないって本当にいいものですね。
「ジジくさい」
いやいやそんな生意気な感想持つなら、一度その身で体験してみろっての。
「なんのことよ」
まぁそれはともかく、最近、非常に多くの投稿が寄せられているのですが、それらの投稿はだいたい同じ内容なんですよね。
『例のプリンちゃんは、もう出ないのか?』
そんなに出てたまるかっての……
あ、いや、なんでもないですよ。
姫はやんごとない身分であらせられるため、とても多忙な生活を送られています。そう一惑星の辺境の放送に度々出演できるわけがないじゃないですか。
ところで、このクッキーおいしいですねボリボリ。
「せっかくの差し入れなんだから、味わって食いなさいよ」
いいじゃないですか、ガッツリむさぼってもらった方が本望というもの。それに、皆さんご飯食べてるのに、我々だけ食べられないなんてズルイじゃないですか。
「……アンタ、さっきの休みに早弁してたよね?」
この差し入れは、今日の授業で、A組とB組の女子が合同で調理実習を行ったようで。他にもおいしい肉ジャガや、とても口では表現しきれないような非常に独創的な創作料理も頂いております。いったいどういう組み合わせなんでしょうね? (好感度を)上げといて落とすんですか?
「アタシに聞かないで……」
製作者にも分からなかったようです。というか、製作者自身にも理解されない芸術ってなんだかもの悲しいですね。
「芸術じゃない! というか、それ作ったのアタシじゃないし」
まるで残飯処理機械の気分を味わいながら、この芸術品の作者はA組のRあたりだと推測します。
ちなみにその時間、男子はニートのごとく暗いPCルームでマスかいて――
「下品なこと言うな!」
失礼しました、皆さん食事中でしたね。
では、ボクもデザートに特製ミルクのたっぷりかかった立派なバナナを――
「やめい!!」
ボリボリモグモグ、あ、もちろんバナナをボリボリ食べるとかそんな痛々しいことはやってませんよ。少しカタチは歪なものですが、なかなかのおいしいクッキーですね。
「あ、それ、あたしが作ったの……」
……
……一瞬、眩暈がしました。
いえいえ、違う違う、そういう意味ではなくて、そんな恐い顔で睨まないでください、チル。
ただ、また今日も何故か激甘練乳抹茶ミルクを飲んでいるので、何か嫌な予感がこうヒシヒシと……
「ところで、アンタっていつもそれ飲んでるよね?」
はい。これはボクが好きなのではなくて、いつもパシリに行かせる下僕その一のミッ――いえ、2年A組のM君がこれしか残っていなかったと宣いますので、仕方なくいかにも胸やけしそうで胃もたれしそうな抹茶味の精力剤濃いめを飲んでいるだけです。おかしいですね、いつもチャイムと同時にまるでメロスのように駆け出していく男が、一番乗りで購買部に辿り着いていそうな彼が。つきつめると人間不信に陥りそうなので止めておきましょう。
……いやまさか、今日はラーメン食べてないし、今更そんな…………
「な、何? ま、まさか……」
(……チル。し、しばらく繋いどいて……)
(「え、ええっ?! そんな、急に繋いでとか言われても……」)
(バ、バカ、マイクに入るだろ!)
「えええ~……あ、うん……え~っと。そ、そうですね、さっきの彼はご飯の前に拾い食いしたみたいで、どっかイっちゃったみたいです。うん、決して、アタシのクッキーが原因とは思いたくない……」
現実逃避しないでください!
「やっぱりか……」
はいはい、は~い! 皆さん、注目!
先ほどの彼は、原因不明の病原菌により下痢と嘔吐と眩暈と脱水症状に襲われたため急遽降板することになりまして――
「絶対アタシのせいじゃないよー!」
うっさい、黙れ!
というわけで、再び臨時登板することになりました、遠い遠いプリン星からの助っ人姫、プリンちゃんの登場でーす! ワーワーパチパチ!
「なんだかんだ言って、アンタ絶対楽しんでるよね?」
いえいえ、決してそんなことはないですよ。
1年くらい前からこの梅雨の季節まで、ジメジメとした大気と気分の沈んだ数か月間、投稿したくても斬新で新しいネタを思いつかずにネタを温めに温め続け、もう腐臭どころか幻覚まで見せれるようなキツイプリン臭を漂わせているプリンネタを公開できると思うと、胸がゾクゾクとこう――
「姫、放送中です」
はっ!
どうも失礼しました。
なにやら変なオラクルを受信してしまったようです。
え~、それでは、やっといつもの放送らしく、曲紹介の方へいきたいと思います。
今週紹介する曲は、なんとこの学校出身の方が作られたそうですよ、すごいですね。
さっそく聞いていただきましょう。
タイトルは、『愛しの姫へ』。
(さ、ほら、エコーかけて)
(「え?! 今日の曲は……?」)
――あの日聞いた貴女の声に、魅了されました♪
姿は見えないけど、僕の瞼の裏には、はっきりと貴女の愛らしい姿が浮かびあがってきます♪
すぐに恋人になってくれなんて、そんな厚かましいことは口では言えませんが、どうか一度だけ会ってもらえませんか?♪
水曜日の放課後、屋上で待ってます♪
放送部のプリンセス、プリンちゃんへ♪
ラーラー♪ ラララー♪――
「待てぃ! ちょっと待て、本気で待て!」
なんですか?
「アンタが歌うんかい!」
もちろん! ワタクシ、放送部の歌姫ですから。
「いつから歌姫になった?!」
先週、この手紙読んで爆笑してからです。
はい、お聞き頂きましたのは作曲・編曲・歌:プリンちゃん、作詞:2年B組のタナカくんで――
「待て待て! これ、ラブレターじゃないの!?」
はい、しかもメールではなくて、しっかりとした便箋に直筆で書かれた、とても愛の込められた一通です。気持ちがこもってて、心にグッとくるステキな詩ですよね、いろんな意味で涙が出てきました。
「ガチラブレターに曲つけて歌うな! 公開すんな!」
うちに投稿しておいて、それで終わるはずがないじゃないですか。
「それに、これは放送の投稿ボックスに入れられたものじゃなくて、一応アタシが預かったものだから、区別してアンタに渡したのに――」
届いてしまえば全部一緒です。
というか、どうもワタクシが投稿ボックスです。
「ごめんタナカくん、止められなかったよ……」
反省してください。
「アンタが反省しろ!」
あー、基本的にワタクシ、男には厳しいので、そのあたりは覚悟して投稿してきてくださいね。
それでは、またいくつかの質問メールに答えていきたいと思います。
『姫の好きな食べ物は何ですか? また、嫌いな食べ物とかあったら教えてください』
なんていうか、また穏便に普通のお便りを選んできましたね。
「な、なんのことかな……」
まぁいいです。
そうですね、好きな食べ物はババロアです。
「やっぱりプリンじゃないんだ……」
そして、嫌いな食べ物はチルの手料理です。
「……」
先ほど床をのたうちまわって身体を引きずるように降板していった彼、その彼の談話によりますと、食べるだけで幻覚と妄想と強い高揚感によって感情がエクスタシーまで達し、その影響は肉体の変化となって如実に現れ、その励起状態を突き抜けた向こう側にはまず常人では体験できないような夢の新世界が広がっていると聞きました。彼は前回の放送日にちょうどその境地に達しており、今現在もその後遺症に悩まされているといいます。
「んなわけあるかい! だいいち、アンタだっておいしいおいしいって、さっきもバクバク食べてたじゃない」
いやー、アンタって誰でしょうね。ワタクシはボクではなくってプリンちゃんです。
あ、ちなみに、チルは好物ですよ。
「……ふぇあ?!」
ところで、今日ワタクシ、実はノーブラなんですよ。
「……だ、だから何?」
うん、どんなのつけてるのか、一つ参考にしたいなと。
ていうか、一度着心地まで確認しときたいなって思って。
「ちょ、ちょっ! だから、なんでいちいちアタシのを……ま、待って待って! きゃ~!!」
ガガッ!
……
ピ――――
……
……
さて、続いての質問メールです。
『姫とチルは、どっちがタチでどっちがネコですか?』
って、これはもう答える必要ないですね。
「ち、違う! アタシはそんなんじゃ」
ちなみに、ワタクシの答えとしては両方可です。まぁチルはライオンみたいなもんですから、どっちがどっちというわけでは……
「……」
ごめんなさい、ちょっと調子乗りすぎました。そんな白い目で見つめないでください。
おい、こら! リスナー、ちょっと自重しろ!
「アンタだ!」
というか、チルが自重して変な質問メールをまわしてこなければ。
「良いの探してる間に、アンタが横から勝手に読むからでしょ。じゃ、次はコレ」
はいはい。
『毎週とは言わないから、せめて月一くらいでコーナー化してください』
無理ですね。
「即答すんな」
いえ、ただワタクシが出たくないとか、出たくないとか、出たくないとかそう言ってるんじゃないですよ。ただ、ワタクシ少~し多忙な身分ではありますので、いつ出れるかなんて神様――もとい、大臣の顔色伺って地球にやってこなくてはいけないので、そう都合よく出られるものでは。
でも、ワタクシ個人としては、放送部のアイドルとして、メインパーソナリティの彼をクビに追いやってでもレギュラーを獲得したい所存ではあります。
「いつからアイドルになった?」
さて、それでは本日の放送は――
「待って、最後に一通、これだけは読め」
はいはい、なんですか、なんでも読ませて頂きますよ。
2年A組のミッチィ――いえ、M君からの投稿になります。
『姫、ご相談があります。前の席の友人の様子が変なんです。いつものように授業中寝ていても「女体化が……不随意で、可逆で……」と、うわ言のように呟いています。何かの病気なのでしょうか』
……
……いえ、彼も青春を生きる健全な男の子ですから、いろいろと悩みはあるのかと思います。M君は友人として、温かく見守っていてあげてください。困ったことがあるようなら、そっと手を差し伸べてあげてください。そして、抹茶味の精力剤はあまり与えすぎないでやってください。
「それから、この人、追伸がきてる」
『P.S.その友人は最近、何やら男気が足りないと言って筋肉を鍛え始め、ガチムチな動画や本に手をつけ始めました。何かに目覚めたのでしょうか、薔薇の香りがします――』
って、目覚めるわけねーだろっ!!
……はっ!
すみません、何やらその友人の心の叫びが聞こえてきたもので。
ともかく、その友人のことは、どうかそっとしておいてあげてください……
さて、最後になりましたが、いつものようにこの放送に関する質問・リクエストなど、またはネタフリという名のご意見・ご感想は、いつものように掲示板への書き込みなどで受けつけていますので、どうかよろしくお願いします。
それでは、本日も臨時でパーソナリティを勤めさせて頂きました、プリンちゃんと、
「アシスタントのチルでした」
バイバ~イ!
――ピ――ブチン!




