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ヴィオラの反応
最後の正拳を突ききった瞬間、
ヴィオラはそのまま自然に呼吸を整えた。
胸の上下もわずかで、まるで風の動きに溶けるかのような静けさ。
拳を下ろすと同時に、
庭の魔力粒子がふわりと余韻を震わせたが――
当然ながら、本人はそんな異世界的な反応にまるで気づかない。
ヴィオラは、ただ身体の内側の巡りを確認するように小さく頷いた。
「うむ。今日も体はよく動く」
その声音にも、誇りも昂りもない。
ただ事実を述べるのみの淡々とした調子。
一方、庭の隅からこっそり眺めていたリリアは、
木々や草の“かすかな礼”のような揺れを見て青ざめている。
だがヴィオラは気にも留めず、
朝露の残る庭をゆっくりと歩き去っていく。
――その何気ない一歩一歩が、
“魔力ゼロの異質すぎる令嬢”の噂を
また静かに、しかし確実に広げていった。




