リリアの観察と内心の呟き
庭の片隅、朝露のきらめく草木の向こうから
そっとその様子をうかがっていたリリアは、思わず息を呑んだ。
ヴィオラの拳が静かに前へ伸びるたび、
庭の木々が――ほんの触れるだけの風に揺らされるように――
かすかに枝葉を震わせる。
それは偶然のはずだった。
風が吹いたわけでも、魔法が発動したわけでもない。
だが、どう見ても“応じている”ようにしか見えなかった。
リリア(小声)
「……木が……礼をしているように見えるのは……気のせいかしら……?」
口にした瞬間、背筋がひやりとした。
お嬢様を変に怖がらせたくはないし、自分が疲れているだけかもしれない。
だが、目の前の景色は否定できない。
拳が突き出されるたび、
葉が一枚、軽く揺れて返事をするように震える。
ヴィオラはもちろん気づいていない。
いや、気づいても気にしないだろう。
風に溶けるような声で、いつもの調子でひとこと。
ヴィオラ
「うむ。今日も体はよく動く」
そのあまりにも平然とした横顔に、
リリアは思わず手で口元を覆った。
(……やっぱり……お嬢様は、この世界の理から外れている……)
庭の木々が、まるで一瞬だけ深く礼をしたように見えたのは――
決して気のせいではなかった。




