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魔力との微妙な干渉
朝の庭に漂う魔力は、本来なら風と同じ“ただそこにある流れ”でしかない。
だが、その静寂の中心に立つヴィオラの動作に――わずかだが確かな“反応”を示した。
ヴィオラが正拳を突く。
拳が空気を切る音すら生まれない、完璧に整った動作。
しかしその瞬間、庭の空気がほんのひとかき回し分だけ揺れた。
木々の葉が、微風でもないのにわずかに震える。
地面近くを流れていた魔力の粒子がふっと持ち上がり、
まるで彼女の拳に対して 小さく頭を垂れた ように沈む。
魔力の流れは意志を持たない。
ただ“循環する力”に過ぎないはずなのに、
ヴィオラの呼吸と重心移動に合わせ、静かに、淡く反応する。
それは気の流れではなく、風でもない。
この世界に満ちる“外側からの力”が、
異質な“気の極限”に触れて震えただけ――そう読者は悟る。
だが、当の本人はまるで気づいていない。
ヴィオラはただ、いつもの鍛錬の延長として拳をゆっくり引き戻し、
淡々と次の呼吸へ移る。
その背後で、魔力粒子がひとつ、静かに揺れ落ちた。




