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診察の結論
医師はしばらく沈黙したのち、そっと聴診器を外した。
額には薄く汗がにじんでいる。体調を崩しているのは、むしろ医師の方かもしれない。
「……け、健康状態に問題はありません」
ようやく声を絞り出したものの、その声は震えていた。
「脈も正常、体温も安定、呼吸も規則的……どこにも異常は見つかりません。
ただ、その……」
ちらり、と医師はヴィオラを見る。
が、視線を向けた瞬間でさえ“どこにいるのか一瞬迷う”感覚が走り、言葉が詰まった。
「……存在感が薄すぎるのは……」
「……私の診療範囲ではございません……」
最後の方は、ほとんど逃げるような小声だった。
リリアは「ですよねぇぇ……!」と心の中で膝をつき、
ヴィオラだけが変わらず淡々と椅子に座っている。
診察室には、医師の深いため息と、静かすぎるお嬢様の気配だけが残った。




