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ヴィオラの淡々とした返答
医師の震えるような問いかけに、
ヴィオラは一拍だけ思案し――すぐに静かに口を開いた。
ヴィオラ
「昔から癖でな。」
それは、まるで
“朝の散歩が日課である”
程度の軽さで言われた。
しかし内容は、
「気配を完全に潜める達人であることが、昔からの癖」
――という、令嬢の口からは出てこない種類の言葉だった。
診察室の時間が、ぴたりと止まる。
医師は口を半開きのまま固まり、
リリアは「癖…癖とは……?」と心の中で絶叫しつつも声が出ない。
二人とも同じ疑問を抱いていた。
(16歳の令嬢が“昔から”と言う内容では……ない……!)
存在感の薄さに続き、達観した口調。
やはり、彼女は“この世界の普通”から、どこか少しズレている。
診察室には、異様な静けさと、言葉にならない困惑だけが残った。




