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“気配の希薄さ”による伏線
水晶球は、内部に淡く灯っていた光を――ふ、と吸い込まれるように消した。
まるで、少女の手が触れた瞬間、
「失礼いたしました」と礼儀正しく頭を下げて光を引っ込めたかのように。
部屋に満ちている魔力の粒子たちは、通常であれば測定対象へと吸い寄せられ、球の内部へ流れ込むはずだった。
しかしヴィオラの周囲だけは、見えない境界に阻まれたかのように、粒子の流れがそっと外側へ迂回していた。
触れようとしても、触れられない。
流れ込もうとしても、入り込めない。
彼女だけが、世界の魔力から“拒まれている”――そんな風にも見える。
測定士はもちろん、リリアでさえ気付かない。
だが読者にだけは、その異様な沈黙と空白が、はっきりと伝わる。
水晶球は沈黙し、
魔力の流れは彼女を避けてたゆたい、
部屋の空気だけが「ここに異質なものがいる」と告げていた。




