測定士の混乱(丁寧なのに動揺最大)
水晶球が沈黙したまま、時が止まったような空気が流れた。
測定士は、そっと目を瞬かせる。
次に、もう一度瞬かせる。
三度目には、まばたきが早すぎて小刻みになっていた。
「……ま、まったく……波が……揺れない……?」
震える声が測定室に落ちる。
測定士の手は礼儀正しく胸の前に添えられているのに、指先だけが明らかに動揺して震えていた。
「小さな反応すら……い、いえ、通常なら“無属性の白”程度は……ですが……
これは……その……」
彼は水晶球にそっと寄り添うように目を凝らすが、何も起こらない。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
耐えきれず、小声で自分に言い聞かせる。
「……水晶球が……壊れ……いや、壊れてはいませんが……!」
自分で言った瞬間、余計に混乱したらしく、眉が跳ね上がる。
叩いて確認したい。
しかし、公爵家の宝を叩いた瞬間、間違いなく自分が壊れる。
その未来が鮮明に見えてしまう。
結果――
測定士は、水晶球の周りを“壊れていないはずだが壊れていてほしい”表情でぐるぐると見回すしかなかった。
リリアは後ろで震えながら、
(こ、怖い……お嬢様より測定士さんの方が壊れそう……!)
と内心で叫び続けていた。




