魔力測定の場 ― 静かに訪れる 公爵家の魔力測定室・雰囲気
公爵家の奥深く──静寂そのものの空気が支配する魔力測定室。
分厚い扉をくぐれば、ひやりとした気配が肌を撫でた。
壁には古い魔術紋章が刻まれ、淡い青光を放ち、まるで来訪者を吟味するように脈動している。
その下には、歴代公爵家の子らの魔力量を示す石板が整然と並び、輝かしい数値が誇らしげに刻まれていた。
部屋の中央には、澄み切った純白の水晶球。
近づいた者の魔力に共鳴し、色と揺らぎを生むはずの、由緒正しい測定器。
室内の空気は魔力の粒子で満ち、淡い光の粉が静かに舞っている。
この部屋に踏み入った者ならば、誰もがその“世界に触れる感覚”を覚える──
本来なら。
ただ一人、ヴィオラを除いて。
リリアはヴィオラの背に控えながら、思わず眉をひそめた。
(……まただ……)
周囲の空気が密やかに揺れる中、
ヴィオラの立つ場所だけは、ぽっかりと“魔力の流れが空白”になっている。
まるでそこだけ世界が呼吸を忘れたような、不自然な静止。
(お嬢様の周りだけ……やっぱり空気が違う……!
魔力が避けている……みたいに……)
高い天井から降り注ぐ魔力の粒が、ヴィオラの周囲にだけ触れず、ふわりと流れを変えて通り過ぎていく。
その光景は、知らぬ者が見れば幻覚と切り捨てるだろう。
だがリリアには、明確に“世界の方がヴィオラを避けている”ようにしか見えなかった。
それでも当の本人──ヴィオラは、ただ静かに水晶球へ歩を進めている。
空手家だった前世の名残か、一歩ごとに乱れのない呼吸。
世界の異常など、微塵も気にする気配を見せない。
測定室の空気が張りつめていく。
ヴィオラが水晶球へ手を伸ばした瞬間、
リリアは無意識に息を呑み、胸元をぎゅっと押さえていた。




