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公爵の決意
公爵はしばし沈黙し、深く息を吐いた。
その表情には父としての覚悟と、どうしようもない不安が同居している。
「……いずれにせよ、学院には入れるよう手を尽くす。」
静かだが、決意のこもった声だった。
「お前の将来を閉ざす気はない。どれほど時間がかかろうと、道は開く。」
夫人も小さく頷き、唇を結ぶ。
リリアは胸元でぎゅっと手を握りしめ、緊張と安堵がないまぜになった表情を浮かべた。
しかし当のヴィオラは、湯気の立つスープを一口含んでから、あっさりと言った。
「うむ。任せる。」
迷いも、焦りも、気負いもない。
まるで「夕餉の献立を頼んだ」程度の気安さで。
公爵は一瞬だけ目を瞬かせ、夫人は思わず目を伏せた。
使用人たちは互いに視線を交わし、誰からともなく小さな溜息が漏れる。
――本当に危機感がないのだろうか。
それとも、底が見えないほど達観しているのか。
そう考えたのは家族全員だった。




