家族の困惑と落差
重苦しい沈黙が食卓を満たしていた。
銀の食器が整然と並ぶ公爵家の朝食は、いつもなら優雅な時間だが──今日は違う。
ヴィオラは変わらず姿勢正しく椅子に座り、淡々とパンをちぎりながら口に運ぶ。
対照的に、公爵とその妻は深刻な顔で俯き気味。リリアだけが背後でオロオロしている。
公爵がようやく口を開く。
「……ヴィオラ。お前は、魔力がないという事実を……本当に気にしておらんのか?」
ヴィオラは首を傾げることすらせず、淡々と答えた。
「気に留めることではない。
魔力がなくとも、呼吸はできる。」
食卓の空気が――本当に止まった。
公爵は固まった。夫人も固まった。リリアはスプーンを落としそうになった。
公爵(心の声)
「……いや、問題はそこではないのだが」
やがて固まったままの夫人が、ぎこちなく口を開く。
「ヴィオラ……あなた……呼吸は……しているのよね?」
「うむ。問題なく。」
即答。
しかも、なぜ聞かれたのかわからないという無垢な顔。
夫人は額に手を当て、そっとため息をつく。
公爵は気まずそうに視線をそらして紅茶を飲み、カップの中を見つめながら現実から逃避するように静かに息をついた。
リリア(内心)
「(お嬢様……違う……そうじゃない……!)」
ヴィオラだけが、何一つ曇りなく朝食を続けている。
その達観と平然さが、むしろ食卓全体の“ズレ”を際立たせていた。
深刻な問題のはずなのに、どこか噛み合わない会話が続く。
そしてその噛み合わなさが、不思議と読者には静かな笑いを生んでしまう──そんな朝の一幕だった。




