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公爵夫人の不安と落胆
夫人は、手にしていた銀のスプーンを皿の上にそっと置き、
まるで言葉を選ぶように息を吸い込んだ。
「あなた……本当に、魔力を感じないの?」
震える声だった。娘を責める意図など微塵もなく、
ただ、どうにか“可能性”を探ろうとしている声音。
「せめて……微弱でもいいのだけれど。
指先が温かくなるとか、胸がざわつくとか……何か、ないの?」
朝の柔らかな光が夫人の不安げな横顔を照らす。
公爵もいつの間にか食事の手を止め、眉を寄せていた。
そんな二人に対し、ヴィオラは淡々と答える。
「感じない。
ただ、呼吸はできておる。」
その瞬間、
夫人と公爵の表情が同時に固まった。
まるで、心の中で同じツッコミが響いたように——
“いや、そういう話ではないのだが”
とでも言いたげに。
リリアだけが背後で「お、お嬢様ぁ……」と目を伏せ、
その場の空気は、重さと困惑が妙に入り混じったものになった。
ヴィオラ本人は、まったく悪びれる様子なく、
完璧な姿勢のままスープを静かに口へ運んでいるのだった。




