公爵が家の事情を説明
公爵は重々しく息を吐いた。
その声音には、父としての苦悩と、公爵家当主としての責務が入り混じっている。
「……この国では、貴族の価値は“魔力の強さ”で決まる。
お前も知っていようが……公爵家ともなれば、その期待はなおさらだ。」
低い声がダイニングの静寂に沈む。
銀食器の触れ合う微かな音さえ、場違いに思えるほど重い空気だった。
「強い魔力を持つ子女は、家の将来を担うとされる。
しかし……魔力がない者は、学院に入ることすら難しい。
選抜で落とされることも、珍しくないのだ。」
リリアは背後で小さな肩を震わせる。
昨夜から不安で眠れなかったのだろう。
“魔力ゼロ”という言葉が、彼女の胸を刺したまま抜けていない。
公爵はさらに言葉を重ねる。
その目は、ヴィオラの表情を探りながらも、どこか罪を告白するように揺れていた。
「そして……既に噂が広まっている。
『公爵家の令嬢が魔力ゼロらしい』とな。
世間は残酷だ。
心苦しいが……これが現実だ。」
そこで一拍置き、娘へと真正面から向き直る。
「――ヴィオラ。
お前は……普通に生きることすら難しくなるかもしれない。」
その宣告は、朝の空気をさらに冷たく沈ませた。
リリアは思わずヴィオラを見つめ、
「どうか動揺していてほしい」と願うように息を呑む。
だが当の本人――ヴィオラは。
スープのスプーンを静かに皿へ置き、
さほど関心もなさそうにまばたきしただけだった。
動揺ゼロ。
魔力より先に、家族の方が耐えられなくなりそうな沈黙だった。




