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公爵が重く切り出す
スープの表面にゆらぎが一つも立たないほど、食卓は静まり返っていた。
公爵は銀のスプーンを皿に置くと、深い溜息とともに口を開く。
「……ヴィオラ。昨日の魔力測定の件だが……」
その声は、部屋の広さに反して妙に近く、重かった。
ヴィオラは淡々とした動作のまま、軽く顎を引いて応じる。
公爵は一瞬だけ視線を伏せ、それから覚悟を決めたように娘を見る。
「結果は……“ゼロ”だった。
完全な、魔力反応ゼロだ。」
使用人たちの気配が一斉に揺れる。
言葉を飲み込むように身じろぎした者までいた。
「っ……」
ただ一人、リリアだけが小さく息を呑む。
彼女の肩がびくりと震え、思わず冷や汗がこめかみをつたう。
だが――
当のヴィオラは微動だにしなかった。
表情も姿勢も、スープの温度すらも変えない。
まるで“次の話をどうぞ”と言わんばかりに涼やかだ。
公爵はその落ち着きに戸惑いながらも、続きを口にするしかなかった。




