最後に
リリアは、先ほどからずっと胸の奥がざわついていた。
目の前の少女――いや、“お嬢様”は、目覚めた直後とは思えない落ち着きで部屋の空気を調べるように呼吸し、
静かに視線を巡らせている。
ついに耐えきれず、リリアは震える声で問いかけた。
「お、お嬢様……その……世界が、変に見えたり……されていませんか……?」
ヴィオラは振り返り、ほんのわずかに首を傾げる。
まるで「なぜそんな当たり前のことを聞くのだ」と言わんばかりの、静かな表情。
「いや。ただ、空気の流れが少々“変”なだけじゃ」
淡々と、息でも整えるような口調で答える。
リリアは思わず胸に手を当て、内心で叫んだ。
(そういう意味で聞いたのでは……っ!!)
だが声には出さない。
“些細な違和感を気にしてはいけない”ような、そんな妙な威圧感すら漂っているからだ。
部屋にはまだ魔力の流れが渦を巻いている。
けれど、ヴィオラの周囲だけは、まるで世界が一歩引いているような静寂があった。
淡々と進む空気と、リリアだけが抱え込むツッコミの落差が、
ひそやかな笑いを生んでいた。




