魔力と空手の微妙な噛み合わなさ
ヴィオラは部屋の空気を、手の甲でそっと撫でるように感じ取った。
呼吸を一つ、深く落とす。
体内の“気”の循環に意識を向けながら、外の魔力の流れを取り込もうと試み――そして、すぐにほんの僅かに首を振った。
「……これは、違うの」
その声は、悟りにも似た静けさを帯びていた。
気は、体の中心にある泉から湧き出るもので、
呼吸と精神の統一によって巡らせる“内の力”。
だが、今この部屋に満ちる魔力は――
「これは……外界の“川”か。
己の内にある“泉”とは、別ものじゃな」
呟きは、まるで答え合わせをするような淡々とした響きだった。
リリアはその様子を横目に見て、背筋をぞわりとさせる。
(お、お嬢様……今、何か悟られました……?
というか、なんで一瞬で仕組みを理解してるんですか……?)
聞きたい。
けれど、問うてはいけない気がする。
それは“異世界から来た者”というより、“もはや別の理で生きる存在”の領域に思えた。
リリアは口を開きかけて――
結局、そのままそっと閉じた。
「……ふむ、噛み合わぬが、理解はできた。これはこれで良い」
ヴィオラはごく自然に結論を下し、すでに次の呼吸へと意識を移していた。
その達観ぶりに、リリアはただ黙って震えるしかなかった。




